ニューアルバム『Bitter, Sweet & Beautiful』インタビュー【前編】
RHYMESTERが語る、日本語ラップが恵まれている理由 宇多丸「自らを問いなおす機会があることはありがたい」
「『オレたちがやっていることは何なんだ?』っていうことを問いなおす機会が度々あることは、ありがたいことなのかもしれない」(宇多丸)
ーーそして、気になるのが9曲目の「ガラパゴス」。この曲はやはり例の為末ツイート(元・陸上選手の為末大による「悲しいかな、どんなに頑張っても日本で生まれ育った人がヒップホップをやるとどこか違和感がある」という文章で始まる一連のツイートのこと)が発端になっているわけですよね?
Mummy-D:直接的な要因としてはそうだね。
ーーただ、これまでも、RHYMESTERはヒップホップに対する誤解を解いたり、魅力を説明する曲をたくさんつくってきたわけですが、この曲では「まだこんなことを言わなきゃいけないのか」みたいな苛立ちが表現されています。
Mummy-D:『ウワサの真相』(01年)の頃と言ってること変わってねーや、みたいな。
宇多丸:でも、為末さんはすごいよね。実際にヒップホップのグループに曲をつくらしちゃったんだもん。ありがとうございます。
ーー宇多さんはあのツイートをラジオでも取り上げていましたね。
宇多丸:まぁ、悪気はないのは百も承知なんだけど。逆説的に言えば日本のヒップホップ肯定論としてもとれると思ったし。
ーー「ガラパゴス」が面白いと思ったのは、「「日本のヒップホップにおけるオリジナリティとは何か?」みたいなこれまで散々繰り返されてきた質問に答えるよりも、その質問自体が愚問であり、設問自体がある種の罠だと言っているわけですよね。
宇多丸:そもそも、「オリジナルって何?」っていう。例えば、〝仏教〟って言葉は使ってないけど、お経っぽくラップして「チーン!」って言ってるところなんかは、「仏教だってモロ輸入文化やないか!」って意味を込めてて。しかも、仏教って輸入してくる時に土着のひとと揉めてるんだよ。「この外国被れが!」みたいな。
ーー今は伝統になっているものも、かつてはモダンなものだったのかもしれない。
宇多丸:そう。要はアメリカのイケてる流行をそのまま直輸入するような話だったんだから。
ーーそして、同じようなことが世界中で起こっているし、むしろ、それこそが文化の本質であると。
宇多丸:あと、日本語ラップで言うと、「本場もんの完コピ」でも「本番もんとは別もん」でも、結局両方、貶されるんだもん。
ーー完コピは猿真似、別もんはガラパゴスだって言われるわけですよね。
宇多丸:しかも、それを同じ口で言ったりするから。まさにダブルスタンダード。本質はその中間にあるのに。
ーー〝猿真似〟〝ガラパゴス〟みたいな分かりやすいレッテルに引っ張られてしまう。
宇多丸:だから、「日本のヒップホップにおけるオリジナリティとは何か?」みたいな質問自体が愚問なんです。で、スタジオで「最後の1行どうしよっかなー」って考えてたら、Dが「もうこんな話はしたくないよね」って言って、「それだ!」って(笑)。
ーーこの曲が最終的な結論になるんですかね。
宇多丸:どうだろね? まぁ、こんなことを言わなきゃいけないうちが華なのかなとも思うんですよ。
ーー確かに、今のロックなんかにはそういう設問自体がないし。
宇多丸:やっぱり、「オレたちがやっていることは何なんだ?」っていうことを問いなおす機会が度々あることは、ありがたいことなのかもしれないし。それを問わなくなった時に堕落するのかもしれない。
ーー日本語ロック論争みたいなものが、ラップにおいてはもう30年ぐらい続いているわけですからね。
宇多丸:日本語ラップのトレンドも、振れてるじゃない。バイリンな時期があったり、日本語エモがあったり。面白いよなぁ、ジャンルとして全然生きてるよなぁと思って。
ーー実は「日本のヒップホップにおけるオリジナリティとは何か?」みたいな、永遠に解けない質問に立ち向かい続けていることで、オリジナリティが生まれている。
宇多丸:ロックのひとからすると、羨ましいとすら思えるのかもしれないね。
ーーちなみに、「ガラパゴス」のDさんの3ヴァース目はTwitterディス?
Mummy-D:Twitterディスじゃない(笑)。
ーー「また ピーチク パーチク うっせー小鳥のさえずりに/また ピーチク パーチク うっせー小鳥のさえずり返し」ってラインはそうとしかとれないですけどね。他にもこのアルバム、結構、ネット・ディスが多いなと思いました。
Mummy-D:あ、そうかね。ネット・ディスもしてないよ。
ーーいや、してますよ。
Mummy-D:ははは!
宇多丸:まぁ、SNSとかを、ちょこっとチクチク言ったりしてね。
ーーそうそう。宇多さんの「「つながり」を切望し だがそのたび絶望し」(「Beautiful」)とか「しばらく「つながり」中毒離れてソリチュード」(「サイレント・ナイト」)とかも、Twitterディスですよね。
Mummy-D:でも、それはTwitterディスではないでしょ。すぐ〝つながり〟たがる傾向をディスしてるんであって。だって、Twitterディスって、メール・ディスみたいなもんじゃん。電話ディスとか。
ーーあぁ、もはやインフラになってるものをディスっても仕方がないっていう?
Mummy-D:だから、Twitterディスっていうより、Twitterの使い方を間違えてるバカに対するディスだね。
宇多丸:過度のSNS依存とかさ。
Mummy-D:みんなが感じてることだよ。
宇多丸:SNS上で誰もが言ってることっていうか。この程度のことは。
ーーDさんが「マイクロフォン」で、「だから 震わせてくれよリアルな空気を リアルな言葉(ワード)でリアルな世界(ワールド)を/もうアバター・トゥ・アバターの虚ろな会話じゃ裸の俺たちは満たせやしないんだ」と歌っているのは、ネットよりもリアル志向っていうことですよね。
Mummy-D:そうだねぇ。
ーーまさに〝おじさん〟的なメッセージだと思いましたけど。
Mummy-D:ネットで拾える情報をネットで回して、それに対して何だかんだ言ったりだとか。そんなんだったら、1回、ライブを観に来てくれたら速いのに、みたいなことは考えたね。
ーーネットを眺めながら色々と思うことはあるんですね。
Mummy-D:ネットはもはやデフォルトだから、それは避けて通れない。だから、その使い方だとか、そこでのコミュニケーションだとかを話題にしてるんだろうね。あるいは、ふと感じた、ちょっとした虚しさだとか。
ーー前回のインタビューで〝現場〟について訊いた際、今のRHYMESTERは曲をつくる時にクラブのことはあまり想定しないけれど、フェスだったりネットだったりは念頭に置く、というようなことを言っていたのが印象的だったのですが。
宇多丸:ネットもひとつの現場だよね。でも、Dも言ったように、ネットはもはや特別なものではなく、生活の一部だからさ。
ーーそうですよね。今、〝ポスト・インターネット〟って言葉がありますが、それは、もはやオフ・ラインとオン・ラインに区別はないっていう状況を指しているわけで。
宇多丸:だから、日々の暮らしについて何か意見を言おうとした時に、ネットで起こるある種の現象も視野に入れざるを得ないってだけのことで。オレは、本当に自由に、フラットに意見を言い合えるスタイル・ウォーズなら、全然、良いと思う。コピペして意見を言った気になるとか、そういうものがイラっとくるだけで。
ーー「ガラパゴス」の歌詞にもあるように、「「ひとこと言ったった!」気にはなれる」みたいな。
宇多丸:そうそう。「言えてねぇよ、お前これ!」っていう。まぁ、おじさんとしては文句のひとつでも言いたくなるってだけで、もちろん、それも含めてのネットだと思いますけどね。リテラシーもどんどん変わってるしね。
ーーJINさんはTwitterやってますけど、宇多さんはやってないですよね。Dさんは?
Mummy-D:やってないよ。
ーーネット・リテラシーの低いグループ……。
宇多丸:でも見てるよ、全然!
ーーははは。それは、一応、警告しておかないと。
Mummy-D:警告(笑)。
宇多丸:ほんとだよ。「言っとくけど、お前の発言、これ簡単に見れっからね!」っていう。あまりにそれを意識してないと思われる、迂闊なひとが多くて。
ーー本当に呟きだと思っちゃって。
宇多丸:フォロワーしか見てないと思ってるかもしれないけど、「いや、丸見えだから!」みたいな。お前のその中学生日記が未来永劫残る可能性だってあるわけでね。オレの若い頃にこんなものがあったとして、恥ずかしい妄言の数々が世界にさらされると考えたら……(頭を抱える)「わー!」。
Mummy-D:今は忘れられる権利がないよね。
後編【RHYMESTERが示す、プロテストとしての音楽表現 DJ JIN「美しくあろうという気持ちが大切」】に続く
(取材・文=磯部涼)
■リリース情報
『Bitter, Sweet & Beautiful』
価格:初回限定盤A (CD+BD) ¥3,800(税抜)
初回限定盤B (CD+DVD) ¥3,500(税抜)
通常盤 (CD) ¥3,000(税抜)
<収録曲>
1. Beautiful – Intro [DJ JIN and SWING-O Produce]
2. フットステップス・イン・ザ・ダーク [PUNPEE (PSG) Produce]
3. Still Changing [BACHLOGIC Produce]
4. Kids In The Park feat. PUNPEE [PUNPEE (PSG) Produce]
5. ペインキラー [KREVA Produce]
6. Beautiful – Ineterlude [DJ JIN and SWING-O Produce]
7. SOMINSAI feat. PUNPEE [PUNPEE (PSG) Produce]
8. モノンクル [PUNPEE (PSG) Produce]
9. ガラパゴス [BACHLOGIC Produce]
10. The X-Day [Mr. Drunk (Mummy-D) Produce]
11. Beautiful [DJ JIN and SWING-O Produce]
12. 人間交差点 [DJ JIN Produce]
13. サイレント・ナイト[PUNPEE (PSG) Produce]
14. マイクロフォン [BACHLOGIC Produce]
<初回限定盤特典収録映像>
・ “6 minutes of #nkfes” 全アーティスト収録・主催フェス「人間交差点 2015」スペシャルダイジェスト映像
・「SOMINSAI feat. PUNPEE」(人間交差点 2015)ライブ映像
・「Still Changing」MV
・「人間交差点」MV
副音声:宇多丸・Mummy-D・DJ JINによる元祖・生(ビール)コメンタリー
■ライブ情報
KING OF STAGE VOL. 12
Bitter, Sweet & Beautiful Release Tour 2015
公開リハーサル
公演日:2015年9月24日(木)
会場:川崎 CLUB CITTA’
時間:18:00 Open / 19:00 Start
料金:オールスタンディング ¥3,000(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:CITTA'WORKS 044-276-8841
公演日:2015年9月27日(日)
会場:大阪 Zepp Namba(Osaka)
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:1F 指定席、2F 指定席 ¥5,000(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:夢番地大阪 06-6341-3525
公演日:2015年10月4日(日)
会場:高知 X-pt.(クロスポイント)
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:祝初!高知ライブ・特別価格 オールスタンディング
¥4,000(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:デューク高知 088-822-4488
公演日:2015年10月9日(金)
会場:東京 Zepp DiverCity(Tokyo)
時間:18:00 Open / 19:00 Start
料金:1F スタンディング ¥5,000(税込)ドリンク代別
2F 指定席 ¥5,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:CITTA'WORKS 044-276-8841
公演日:2015年10月12日(月・祝)
会場: 名古屋 Zepp Nagoya
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:1F 前方指定席 ¥5,000(税込)ドリンク代別
1F 後方スタンディング ¥4,800(税込)ドリンク代別
2F 指定席 ¥5,000(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:サンデーフォーク 052-320-9100
公演日:2015年10月18日(日)
会場:青森 SUNSHINE
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:オールスタンディング ¥4,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:CITTA'WORKS 044-276-8841
公演日:2015年10月20日(火)
会場:仙台 Space Zero
時間:18:00 Open / 19:00 Start
料金:オールスタンディング ¥4,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:CITTA'WORKS 044-276-8841
公演日:2015年10月25日(日)
会場:福岡 DRUM LOGOS
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:オールスタンディング ¥4,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:BEA 092-712-4221
公演日:2015年11月1日(日)
会場:静岡 SOUND SHOWER ark
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:オールスタンディング ¥4,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:BOOM BOOM-BASH 054-264-6713
公演日:2015年11月3日(火・祝)
会場:水戸 VOICE
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:オールスタンディング ¥4,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:CITTA'WORKS 044-276-8841
公演日:2015年11月8日(日)
会場:沖縄 桜坂セントラル
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:オールスタンディング ¥4,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:PM AGENCY 098-898-1331
公演日:2015年11月10日(火)
会場:鹿児島 SR HALL
時間:18:00 Open / 19:00 Start
料金:オールスタンディング ¥4,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:BEA 092-712-4221
公演日:2014年11月15日(日)
会場:岡山 YEBISU YA PRO
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:オールスタンディング ¥4,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:夢番地(岡山)086-231-3531
公演日:2014年11月22日(日)
会場:富山 MAIRO
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:オールスタンディング ¥4,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:CITTA'WORKS 044-276-8841
公演日:2014年11月29日(日)
会場:札幌 PENNYLANE24
時間:17:00 Open / 18:00 Start
料金:オールスタンディング ¥4,500(税込)ドリンク代別
お問い合わせ:ウエス 011-614-9999
・ チケットは一人で、4枚までのお申し込みが可能。
・ 取材、作品用の撮影カメラが入る場合あり。
・ 6歳未満無料(座席が必要な場合は要チケット)
・ スタンディングで参加のお子様連れのお客様は充分に注意。
お問い合わせ総合:チッタワークス・044-276-8841(平日12:00~19:00)