『海街diary』の情景は、音楽を通してどう表現されたか? 菅野よう子の劇伴から紐解く
彼女の多彩な作風について、かつて『ブレンパワード』シリーズや『ガンダム』シリーズでタッグを組んだ富野由悠季監督は「たいていの作曲家には、その人の色合いというものがある。だが、彼女にはそれがないのだ」と語ったことがある。菅野の楽曲は、自身の作家性を残しつつどこまでも作品に寄り添い、最適な形で受け手へ届けられる。そんな彼女の創作スタンスが、この富野の発言からも汲み取れるだろう。
そんな菅野だが、近年の仕事では、実写・アニメの境界線を横断したような作品も存在する。それが先の連続テレビ小説『ごちそうさん』だ。同作では、アニメで多用していた壮大なオーケストラサウンドやストリングス・鍵盤・管楽器のアレンジを活かしながら、ただ作品を際立たせるだけではない、登場人物に寄り添った劇伴として機能させており、その絶妙な押し引きのバランス感覚は、サウンドトラック『ゴチソウノォト』を一聴すればはっきりとわかる。
ここで話を『海街diary』に戻すと、先述の『ごちそうさん』で提示した“実写ドラマにおける菅野ようこのオリジナリティ”が、『海街diaryオリジナルサウンドトラック』で結実した、といえる。舞台は少し山形を経由しつつも、基本的には鎌倉で展開されており、海風吹く街と、四姉妹が暮らす古民家や行きつけの食堂、江ノ電のホームといった生活風景や、突然起こる小さな波乱によって生み出される心の揺らぎなどが、菅野の手掛ける楽曲の叙情性と見事にマッチしているのだ。作家生活も2016年で30周年イヤーに突入しようとしていながら、いまだ進化し続ける菅野の音楽性には、ただ感嘆するばかりである。
補足だが、同作にはサウンドトラックのほかにも『海街イメージコンピレーション』なるものも存在する。こちらは藤巻亮太「旅立ちの日」や、つじあやの「忘れないで」、風味堂「泣きたくなる夜に」、kiroro「帰る場所」といった、どこか切なく儚い情景描写をテーマとした楽曲が収録されており、サウンドトラックでは描かれなかった“うた”としての『海街diary』を味わえるので、映画を鑑賞し終わったあとに聴き比べるのもまた一興だろう。
(文=中村拓海)
■リリース情報
『海街 diary オリジナルサウンドトラック』
音楽:菅野よう子
価格:¥2315+税
<収録内容>
1.夏の表紙
2.海街 diary
3.河鹿沢行き
4.いもうと
5.すずのテーマ〜海へ
6.不思議な住人たち
7.わたしのへや
8.両足使い
9.紅葉ヶ谷
10.坂道〜すずのテーマ
11.イルミナ
12.つぼみ
13.桜トンネル
14.さざ波通信
15.縁側
16.波打ち際にて
17.幸あれ
18.花火
19.柱の傷
20.じゃれる
21.ここにいていいんだよ
22.エンドロール
(Sequence)
23.映画 シーン「夏」より(BGM「海街 Diary」「河鹿沢行き」)
24.映画 シーン「秋」より(BGM「不思議な住人たち」)
25.映画 シーン「冬」より(BGM「両足使い」)
26.映画 シーン「春」より
『海街イメージコンピレーション』※配信限定アルバム
発売:2015年6月24日(水)
<収録内容>
1.藤巻亮太「旅立ちの日」(アルバム「旅立ちの日」収録)
2.つじあやの「忘れないで」(アルバム「はじまりの時」収録)
3.風味堂「泣きたくなる夜に」(アルバム「風味堂 5〜ぼくらのイス〜」収録)
4.kiroro 「帰る場所」(アルバム「帰る場所」収録)
※iTunes、レコチョクほか各主要サイトにて配信