兵庫慎司「ロックの余談Z」 第2回

奥田民生の新グッズ「老眼鏡(RGM)」が大人気 邦楽ロックファンの高齢化を今だからこそ考える

 たとえば2003年にデビューしたサンボマスターがその2年後にどかーんと売れた頃、ライヴに行って、驚いた。デビュー2年のバンドなのに、お客さん、男ばっかり、おっさんばっかり。ツアー先の地方のライヴハウス、終演後の出待ちはみんな男で、その中のスーツ姿の男に名刺を渡され、見たら肩書が「課長」だったという。当時、山口隆本人にきいた話です。まあ当時のサンボは極端なケースなので(むしろ最近の方が若いファンが増えている)、例に出すのはフェアじゃないかもしれないが、彼らに限らず「ファンが最初から大人」というケースが増え始めたのは事実、と言ってよいと思う。

 ロッキング・オンで働いていた頃、音楽業界関係者に「ROCK IN JAPANは若い人のフェスですからねえ」「お客さん若いですからねえ」とよく言われたが、そのたびに「ああ、この人来たことないんだな」「それか、来てもバックステージしか見てないんだな」と思ったものです。あれ、確かフェスが10周年を迎えた2009年の時だったと思うが、毎朝GRASS STAGE(いちばん大きいステージ)で前説を務めるフェス総合プロデューサー渋谷陽一が参加者に言ったこと。

「今年、参加者の平均年齢が30歳を越えました!」

 これは「毎年ずっと参加してくれてありがとうございます」という感謝の気持ちと、「みんなもう若くないんだから体力温存しながら楽しんでくださいね」という気遣いから出た発言なのだろうと思うが、つまり、そういうことです。年末のCOUNTDOWN JAPANも同様。全国津々浦々まで調べたわけではないが、この高年齢化はロッキング・オンのフェスだけでなく、全国のフェスに共通したことだったと思う。

 フェスはおカネかかるから若い子は来れないんでしょ、とあなたは言うかもしれないが、2000年代に入ったあたりから、どのバンドもツアー日程を週末に集中させるようになったという事実が、これがフェスに限ったことではないという事実を示している。ウィークデーは来れないファンが多いのだ、仕事が終わって19時にライヴハウスに辿り着くのが無理だから。どの都市でも週末にライヴが集中すると、当然、ロックファンはその中のどれかしか観れなくなる。僕のような音楽メディアの人間も、週末になるたびに担当バンドのライヴが1日3つくらい重なって、「頼むから散らしてくれよお」と困っていた。しまいには、これからデビューする新人のコンベンション的なライヴも週末だったりして、「あの、関係者を集めたいなら平日にやった方がいいですよ」と、某レーベルの人に言ったこともあるほどです。

 また、ライヴハウスの数は増えたが、どのハコも週末は奪い合いだけど平日はブッキングガラガラ、ということになる。PAやローディといったスタッフも、複数のバンドを掛け持ちして生計を立てているものだが、これも週末にライヴが集中するせいで、どれかを断らなければならなくなる。

 何にしても、いいことはない。歳をとってもロックファンでいてくれることは、もちろんありがたい。ありがたいが、若い人が入ってこないのは困る。という話です。

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