ネオ・ヴィジュアル系の旗手、MERRYはどう進化してきた? その異形のスタンスを振り返る

事務所移籍という岐路

 結成10周年を迎える直前、2010年はバンドとして岐路に立つ年になった。5月、赤坂BLITZのワンマンライブにおいて流れた「The Cry Against…」のミュージックビデオと事務所/レーベルへ移籍の発表。言わずと知れたDIR EN GREYの所属するサンクレイド/FIREWALL DIV.である。バンドとして大きな決意であったが、逆に長年追い続けたファンにとっては、大きな波紋を呼ぶ出来事だった。

 彼らの音楽に惚れ、理解者として活動に力添えをしてきた関係者が数多くいる。雑誌「FOOL’S MATE」編集長である故・東條雅人氏、ビクター時代を支えたディレクターの田中淳一氏、そしてなんといってもDIR EN GREYのボーカル、京だろう。ガラは上京してきた当時、DIR EN GREYのローディーを務め、多大な影響を受けている。“ガラ”、“ネロ”と名付けたのも京だ。この移籍はそうした旧知の間柄である京が、メジャーから離れることになったバンドの窮地に手を差し伸べたものであった。しかし、「The Cry Against…」が見せたものは、無機質なデジタル音交じりのヘヴィサウンドに黒ずくめのビジュアル、“メリー”から大文字の“MERRY”へ、とバンド名の表記変更。ダークでスタイリッシュにまとめられたその姿は、かつてレトロックと称された“らしさ”とは全く別のものになっていた。これには正直ファンも賛否両論、いや、“否”が多かったように思う。というよりも不安を感じてしまったというほうが正しいのかもしれない。

 しかし、そこにあったものはバンドとしての変革であり、新たなスタートだった。今までメジャーという環境の中で甘んじていたことを見つめ直し、壊して再構築していく。やりたいことをすべて落とし込んできた反面、そこで生じてしまったズレを修正していくことでもあった。どこか散漫になりがちだったMERRYとしての音を、5人でしか出せない音として明確なものにした。そこで得た自信は、のちに発表されたアルバム『Beatiful Feaks』(2011年)において証明されている。ファンが当初抱いてた不安も払拭されたことであろう。たしかにサウンドは昔とは変わった、良い意味でだ。しかしながら、不条理で奇想天外な本質は何も変わってはいない、むしろ、自信に裏付けられ、強固な形として炸裂しているのだ。

MERRY 「NOnsenSe MARkeT」MUSIC VIDEO Full Ver.

 活動の中で、3年振りという最も間隔の空くリリースとなった『NOnsenSe MARkeT』(2014年)はまさ快作ともいうべきものだ。ここまで痛烈な社会風刺と皮肉をこみよがしに叩きつけるアーティストがいるだろうか。

MERRY - 千代田線デモクラシー (Lyric Video)

 決して大衆向けとは言えないバンドではあるが、その異形っぷりはジャンルを超えたところでの躍進も生んだ。ニューロティカ、BALZAC、ミドリ、怒髪天……など、一癖も二癖もあるバンドとの交友も広く、共演することも多い。5月からは、ストロベリーソングオーケストラや黒猫チェルシーなどとの対バンツアーも控えている。どこか内向的になりがちなヴィジュアル系シーンの中で対外へ勢力的に打って出る姿は頼もしい限りだ。

 もし、ヴィジュアル系というシーンに少しでも偏見があるなら、日本の音楽シーンに刺激が欲しいのなら、迷わず「MERRYを聴け」そう言いたくなるバンドなのである。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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