新作『ボトムオブザワールド』インタビュー

eastern youth吉野寿が語る、“覚悟のアルバム”とバンドの今後「人生で最後の一枚との想いで作った」

「今日も歩いて来ましたからね、荻窪から」

一一話を整理しますけど、二宮さんの脱退はいつ決まったことなんですか。

吉野:年末に打ち合わせしていた時だね。

一一その時に、もうこの作品はできていた?

吉野:アルバムはできてましたね。その後に「やっぱ辞めようと思ってる」って。でもそれは俺、だいぶ前から気づいてたから。「そっか。わかった」って。

一一……以上、って感じですか?

吉野:以上。で、解散しようと思ったんだけど、待てよ? と思って。これ、俺と田森と子供の時からやってきたことだから、まぁ田森に聞いたら「やる」って言うし、俺もまだなんか……やれることがあると思った。まぁニノとしては「この3人でやれることはやり尽くした。音楽的にもう到達点に来ちゃったら、これ以上やれることはないと思ってる」ってことらしいんだけど。でも俺は、まだ田森と、まぁ二宮くんがいてもいなくても、このバンドでやれることはあると思ったし、アイディアもあるし気力もある。だから、そこがもうダメだと思わん限りはやろうかなと思ったし、続ける決定権はやっぱ俺が持ってていいんじゃねぇかなとも思ったんで、止めないことにした。続けることにしました。

一一ああ……安心です。じゃあこのアルバムは、この3人で最後だという前提ではなく、吉野さん個人の「これが人生最後だったらどうする?」という気持ちだけで作られたもの、なんですね。

吉野:そうですね。ただ……もう破滅の予感、みたいなのはだいぶ前からあったので(笑)、そういうのも影響してるかもしれない。もう続けられないのかも、みたいな悲壮感は漂ってると思うんですけど。だけど、終わりと始まりは繋がってるもんですから。人生一筆書きですから。一回筆を紙に置いたらずーっと続いてる。何かが終わってる時は何かが始まってる時で、常に終わって始まって、終わって始まってが繰り返すんですね。だから終わりを歌ってもそれは始まりの歌だし、始まりは終わりに向かってるし。それを繰り返して、繋いで繋いで生きていく。そういう気持ちはけっこう強くあったかもしれないですね。

一一ただ、禅問答ではないですよね。

吉野:うん。だってしょうがねぇんだもん。絶望しようが何だろうがね、次に繋いで生きてくしかない。選択肢がない。泣こうが叫ぼうが朝になりゃ一日始まっちゃうし、何ができるのか常に問われるし、そうしなきゃ進んでいかないし、進んでいかなくなったら死ぬし、死にたくなきゃ進むしかねぇし。っていうことをシンプルに考えてるんですね。あんまり難しく考えない。「人間とは…」「人生とは…」とか考えても時間は来ちゃうんだから。だったら「ギター持ってこい! はいカウント!」って感じ。それで「ジャァアーーーン! よぉーし!」ですよ。それが俺のやれるすべてだという覚悟だけはある。

一一そうやって思考が音になっていく。そのプロセスの間に、吉野さんは一度外に出ますよね。全曲が外に出て実際に歩くところから始まる歌。

吉野:あぁ、歩きますね。今日も歩いて来ましたからね、荻窪から。

一一えぇ、荻窪から!?(注:取材場所は代々木)

吉野:一時間半くらいで着いたかな。ちょっと時間余ってローソンで新聞読んでました。意外と早く着いちゃった。

一一それって、頭で考えるだけでは足りないということですか。

吉野:頭の中だけだったらほんとの観念になっちゃう。だけど表に出ると現実がありますよね。部屋ん中にいると、まだ殻ん中、自分のテリトリーの中って感じがするけど、外に出ると否応なしに社会と向き合わなきゃいけない。直接的に知り合いがいるとか、直接的な関係性だけじゃなく、ただ街の中にいるだけで街と関わってることになる。たとえ独りぼっちでもね。そういう関わりの中で生きてるし、そういう人生の中から歌を抽出していく。そういうことが「生きてる」とイコールになると思ってますね。家の中でイメージして夢見て作るのも、まぁ夢があっていいですけど、俺は、生きるための歌ですから。現実と直面して、ガーンとなって、良いことも悪いこともあって。その中にある掛け値のない感覚っていうのを掴み出したいんですね、グッと。

一一確かに。外に出てみないと自分の大きさも実感できない。

吉野:そうですね。街と俺はどう関わってるんだ、っていうのは生きてる中の大きなテーマですよね。人との関わりも当然あるけど、街には風も吹いてるし匂いもあるし、暑い寒いもある。突然雨が降ってきたり、知らない人にブン殴られたりする時もあるし。

一一ありますか、今も(笑)。

吉野:こないだも西荻窪で血まみれになりましたわ(笑)。駅のホームで。まぁそういうこともあるし、思わぬいいこともあるんですよ。なんか優しくしてもらったり、知らない人といい酒飲めたりね。つまんねぇことも多いですけど、そればっかりじゃねぇし。そういうリアルなものっていうかね、そういう中で俺は生きている、その自覚を忘れたくない。生身で街に飛び込んで、自分の素手で引き寄せるみたいな。

関連記事