アンジェラ・アキは、武道館公演で10年間の活動をどう締め括ったか 稀有なアーティスト性を分析

 今回映像作品となった今年8月の武道館公演は、彼女の弾き語りと村石雅行・沖山優司とのトリオによる演奏の両方で構成されたもの。ブルージーな「大袈裟に愛してる」や名バラード「ダリア」には、やはりピアノ弾き語りこそがアンジェラの真骨頂だと思わせるに十分な説得力がある。一方、嵐のような間奏の迫力に息を飲むディープな組曲「モラルの葬式」には、このトリオで積み上げてきたことの成果が色濃く表れているのを感じた。そしていずれも、まるでライブハウスで歌われているような親密さとダイナミズムがある。武道館で歌ってライブハウスのような近さを感じさせる、アンジェラ・アキとはそういうヴォーカリストだったということだ。

 もうひとつ、改めて思うのはコンポーザーとしての個性である。この武道館でも歌われた「心の戦士」しかり「This Love」しかり「モラルの葬式」しかりだが、彼女の作る楽曲にはJ-ポップという枠組みに収めようとしても浮いてしまうほどのスケール感を持ったものが多い。わけてもバラードの多くは曲展開そのものがドラマチックで、静かなAメロ、Bメロを経て、サビで一気に視界が開けるような広大な景色を聴く者に見せる。彼女がデビューしたとき、ようやく日本にもこのような洋楽的スケール感のあるポップスを歌える歌手が現れたのだなと思ったものだ。だが一方で、アンジェラの作る曲のいくつかには極めて日本的な情緒もある。ロングセラーとなった「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」はその代表的なものだろう。

 そのようにまるごと洋楽的なメロディ感覚で書かれた曲があれば、まるごと和風の曲もあったわけだが、とりわけアンジェラ・アキというシンガー・ソングライターの強い個性に結びついていたのは、その両方の要素が合わさったもの。例えばこの武道館でも心に残る名場面となった終盤の初期曲「HOME」や「サクラ色」がそれで、あのように70年代のアメリカのシンガー・ソングライターに通じるメロディの風合いと、どこか郷愁を感じさせる和風メロとの絶妙なミックスは、ほかの人がやろうとしてもなかなかできない。徳島に生まれて岡山に育ち、高校からハワイ、18からはワシントンD.C.で生活した彼女だからこそ自然にできたものだったわけだ。

 述べてきたようにアンジェラ・アキは極めて独自性を持ったシンガー・ソングライターであり、今回の映像作品を観ても改めてそのことを実感せずにはいられない。
幸か不幸か「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」が大ヒットして代表曲になってしまったことにより、彼女は一時期J-ポップ的な曲を書かねばといった自己縛りに苦しんでスランプに陥ったこともあった。ルーティン化していくリリースのペースに疑問を持ち、自らの能力のキャパシティについても考えるようになった。その過程から、より専門的かつ実践的に音楽を学び直す必要があるという結論に達した。実はそれも日本での活動をひとまず終わらせることの理由のひとつであり、故に現在彼女はアメリカの音楽学校で毎日勉強に励んでいるわけだ。元来持っていた洋楽的スケール感はその地で活かされ、彼女はいま伸び伸びと音楽に向き合っているに違いない。ここからいかに音楽的進化を遂げ、いつの日か再び日本で活動するときが来るとしたら、そこではどんな歌を聴かせてくれるのか。それも楽しみにしながら、第一章の集大成映像作品を観てほしい。

(文=内本順一)

■リリース情報
『アンジェラ・アキ Concert Tour 2014 TAPESTRY OF SONGS - THE BEST OF ANGELA AKI in 武道館0804』
発売:12月17日
・ブルーレイ:ESXL 48 ¥7,400(税込)
・DVD:ESBL 2374-2375 ¥6,300(税込)
【収録曲】
告白
Again
輝く人
Final Destination
Kiss Me Good-Bye
心の戦士
大袈裟に愛してる
TRAIN-TRAIN
スナックふるさと
孤独のカケラ
始まりのバラード
モラルの葬式
乙女心
ダリア
This Love
夢の終わり 愛の始まり
MUSIC
たしかに
手紙 ~拝啓 十五の君へ~
HOME
サクラ色
〈Special〉
ANGELA AKI 2005-2014

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