1stフルアルバム『WONDER and WONDER』インタビュー

高速ロックシーンの源流=ヒトリエが提示する、次の一手とは?「今ある武器を全部出した」

「楽器や演奏やパフォーマンスにちゃんと主張のある人が集まった」(wowaka)

――では、結果としてこの『WONDER and WONDER』というアルバムは、どういうアルバムになった実感がありますか?

イガラシ:自分としては、とりあえず、今ある武器を全部出したアルバムって感じですね。ジャムでできる曲もあるし、狙って作った曲もあるし、「センスレス・ワンダー」みたいな元々の武器が活かされている曲もある。今は何でもできるようになっているんですよね。

wowaka:今まではたぶん、なんだかんだ言って、僕のよくない意味でのエゴみたいなものもあったと思うんです。それは今だから言えることですけどね。でも、もっと純粋な意味で、ヒトリエのこのメンバー4人でしかできない、唯一無二の格好よさを持ったバンドになった。もともとそういうことをやりたかったんですよ。だから、ちゃんとバンドとして、ヒリヒリした緊張感がある格好よさを持ってるアルバムじゃないかなと思います。実際、作る過程もかなり切羽詰ってましたけど(笑)。

――そして、もう一つ訊きたいと思っていることがあるんです。今の邦楽のロックシーンを中心に、高速BPMの楽曲がウケる流れが生まれている。ボーカロイドにおいても、速いテンポでいろんな要素を詰め込んだ楽曲が出てきている。僕はwowakaさんが作っていた曲が、その源流みたいなところだと思っていて。そういう当人として、今の状況はどういう風に見ていますか?

wowaka:僕は、もともとの自分の考え方として、物事を俯瞰的に見るところがあって。なので、そういうシーンや周囲の盛り上がりは意識してますね。自分でも把握している。で、一概には言えないけれど、柴さんが言ったように、僕とかハチくんがそのきっかけになったという自覚もある。で、そういうことを経た上で、今のそういうバンドがやってることに関しては、逆に「もう昔やっちゃったしな」っていう感じなんですよね、ある意味(笑)。

――そこはもう通り過ぎた場所だと。

wowaka:今はただ単に「今自分がやるならこれだ」ってことをやってるつもりです。もともと、そういう盛り上がりが生まれる前から僕はそういう曲を作ってたし、それは別にシーンを意識したわけじゃなくて、単に面白いと思ったことがそれだったからだし。活動を始めた2009年から。その時点で自分が持っている引き出しでできることしかやってないんですよね。もちろん無意識的にシーンも踏まえているのかもしれないけれど、この先もそういう感覚でずっと作り続けていきたい、というのがいつも思うことですね。

――イガラシさんはどうでしょう?

イガラシ:このアルバムを作ってる時に考えてたのは「騙したい」ということだったんです。というのも、ちょうど柴さんが最近書いてた「四つ打ち」の記事を読んだんですけど(「フェスシーンの一大潮流「四つ打ちダンスロック」はどこから来て、どこに行くのか?」)、あそこに書いてあったように、みんなが四つ打ちって言ってるのは実はハットの裏打ちなんだってことを僕も思っていて。だから「インパーフェクション」とかは8ビートだけどハットの裏打ちがあったりする曲で。逆に、キックをイーヴンで踏んでる「5カウントハロー」が5拍子だったりする。そういう、今邦楽ロックのシーンでフォーカスされてる部分に、ちょっと意地悪というか、皮肉をぶつけるような気持ちもあって。

――ある意味一石を投じる、みたいな。

イガラシ:そうですね。別にそれをそのままぶつけても俺らは問題ないなと思ってたし。「センスレス・ワンダー」にしても、高速四つ打ちギターロックのフォーマットに則ってるけど、全然踊れないし(笑)。だから、俺らとしては、もともとあまり関係ないんだなと思ってて。そういうことを考えてました。

――シーンの中で独自の道を行こうとする意志があった。

イガラシ:そうですね。特にフェスに出ていて全体的に思うのが、すごく親切すぎるってことなんですよね。バンドもそうだし、お客さんも親切なものを求めてる。ただ、やっぱりその中でも強いと思うバンドはたくさんいるんですよ。フォーマットに則っていなくてもお客さんが気付かないうちにノッているようなバンドもいる。だから、俺らはお客さんに迎合するべきじゃないと思いましたね。そうしなくても格好いいバンドになろうという。

――ゆーまおさんはいかがでしょう?

ゆーまお:正直に言うと、「速い」っていうワードに関しては流行もあると思うし、僕らもそれに乗っかってるところはあるんだと思います。ただ、上っ面だけで時代の流れに乗っていたくはないですね。他のみんなも必死だとは思うけれど、演奏者として言わせてもらえば、まだまだ軽いです。

――まだまだ軽い。

ゆーまお:もちろん速いから肉体的には苦しいし要求も増えてくるわけじゃないですか。でも、惰性で速くしても、薄っぺらなものになっていくんですよ。そういうものにはしたくないし、そうならないようにしなきゃダメだと思ってますね。今は速いのが流行りだと言われても仕方ないし、ヒトリエもそうだろうって言われてもしょうがない。でも、俺の視点から言えば、速いだけで終わらせたくないんです。もっと深いものに繋がっていかないといけない。勢いで終わらせたくない。音にちゃんと深みがないと俺がドラムを叩く意味がないと思います。

――なるほど。それを踏まえた上で、ヒトリエの音楽にはヒトリエでしか出せないオリジナリティ、ユニークさが僕はあると思っているんですけれども。当人としては、どういうところにそれが出ていると思いますか?

シノダ:まずユニークな人間が4人が集まっているということですよね。それでそれぞれがひねり出すアイデアがあるし、wowakaという人間の作るメロディと歌詞が、個性の塊のようなものである。それ自体だと思いますね。だから他と比べて特別なことをあえてやっているっていう感じがあまりなくて。僕に関して言えば、思いついたことしかやってないんです。それを最終的にジャッジするのはwowakaですし、彼の存在はデカいと思いますね。

――wowakaさんはどう思いますか?

wowaka:そもそも僕自身も、バンドのメンバーを誘う時に主張のある人を選んだんですよね。音楽を作る者として、楽器や演奏やパフォーマンスにちゃんと主張のある人が集まった。実は、そういうタイプのバンドってあんまりいないと思うんです。でも、ヒトリエはちゃんと音楽がそういう形の主張をしている。そこが強いと思いますね。

(取材・文=柴那典)

■リリース情報
『WONDER and WONDER』
発売:2014年11月26日
初回生産限定盤(CD+DVD) AICL 2785-6 ¥3,400(税抜)
通常盤(CD) AICL 2787 ¥2,800(税抜)

〈CD収録曲〉
1. 終着点
2. インパーフェクション
3. N/A
4. 5カウントハロー
5. ピューパ・シネマ
6. 癖
7. NONSENSE
8. ボートマン
9. なぜなぜ
10.我楽多遊び
11.ゴーストロール
12.センスレス・ワンダー

〈DVD(初回生産限定盤のみ) LIVE at LIQUIDROOM 20140418〉
1. ワールズエンド・ダンスホール
2. (W)HERE
3. センスレス・ワンダー
4. 踊るマネキン、唄う阿呆
5. ローリンガール

■ライブ情報
『ヒトリエ 全国ワンマンツアー2014/15『WONDER and WANDER』』
12月5日(金) 栃木 HEAVEN’S ROCK宇都宮
12月7日(日) 香川 高松DIME
12月10日(水) 京都 京都磔磔
12月13日(土) 広島 広島Cave-be
12月14日(日) 兵庫 神戸VARIT
12月18日(木) 新潟 新潟RIVERST
12月19日(金) 宮城 仙台MACANA
12月22日(月) 北海道 札幌ベッシーホール
〈2015年〉
1月10日(土) 福岡 福岡DRUM Be-1
1月12日(月・祝) 愛知 名古屋E.L.L
1月14日(水) 大阪 大阪BIG CAT
1月17日(土) 東京 赤坂BLITZ

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