テイラー・スウィフトこそは次世代アイドルの雛形? その正しき「少女マンガ性」を紐解く

 当時、筆者はデビュー曲「Tim McGraw」と「Teardrops On My Guitar」、そして彼女がブレイクするきっかけとなった「LOVE STORY」のMVで展開される、恋愛がすべてでアナタとワタシの半径5mの関係だけが世界を覆っていくような、現在なら『アオハライド』あたりまでを射程に入れた王道の“少女マンガ性”に心底驚いてしまった。そしてその時代錯誤ともいえそうな世界観が、テイラー・スウィフト自身の恋愛体験を100%表したものだと、彼女が堂々とインタビューで述べているのを読んで、「こんな“生きる少女マンガ”みたいな美少女がいるのか!?」と、二度ビックリしてしまったことを覚えている。

 口の悪いゴシップ誌では「BREAK UP ARTIST」(失恋職人!)と呼ばれるように、テイラー・スウィフトの楽曲は、彼女自身がその都度体験した恋愛(そして失恋)を赤裸々に歌ったもので、新譜が発売になるたびに海外の音楽サイトでは曲に出てくる「元カレ当てクイズ」が記事化される。しかし、ともすればスキャンダルにかこつけた安っぽい曲になってしまうようなそれらの曲が瑞々しく、凛としたラブソングとして成立しているのは、恋愛という歓喜と喪失の体験を通した「成長」をも彼女が歌っているからだ。歌の中に立ち現れる、アタマが良くて恋愛体質だけど、ちょっぴり臆病で失恋しては世界の終りのように嘆きながら、でもまた新しい自分の道へ一歩踏み出していく主人公の女の子ーーそれはいつもテイラー・スウィフトそのものの姿である。曲の世界観と完全にシンクロした存在であること、言いかえれば、その曲における正しく少女マンガ的な物語を彼女自身が生きるということを、ほぼ完ぺきに続けているのが、テイラー・スウィフトというアーティストであり、それが彼女の音楽の本質なのだ。

 「ワタシ」(TAYLOR SWIFT)を綴った1stから「無敵の恋愛」(FEARLESS)を高らかに宣言した2nd、まるで「血がにじむような失恋の痛み」(RED)に覆われた3rdアルバムまで、その物語は続いてきた。そして最新作『1989』は、1987年の映画『摩天楼はバラ色に』で主人公が地方からNYへとやってくるシーンのBGM のようなアンセム「WELCOME TO NY」で幕を開ける。最新作で彼女が生きるストーリーは、一大決心をして都会へやってきた地方出身の女の子を取り巻く、不安と希望と新しい恋愛だ。そして「新しい旅立ち」というアルバムのテーマとシンクロするように、有言実行の人、テイラー・スウィフト自身はなんと、アルバム制作前に彼女の育ての親ともいうべき長年のマネージメントと契約を解消し、NYへとその生活の拠点を移している。さらに、都会へやってきた勢いで新しいことを始めようと思ったのか、シングル『シ­ェイク・イット・オフ~気にしてなんかいられないっ!!』では「(絶望的に)リズム感がない」とまで言われた衝撃のヘタウマダンス(アイドルの基本ですね)を披露。まさに少女マンガの主人公のような天然っぷりが素晴らしいではないか。

 グループアイドルの急激な供給過多と多様化に疲弊した人達からは、アンチテーゼとして「ソロアイドル」の復権を望むような声もあるが、現在、日本では女性声優たちがすでにそうした役目を担っている。そして、彼女達とファンが共有する物語世界を"演じる"ことが、現在のソロアイドル像となっているのだろう。では、次に求められるのはなにか。それはきっと、その歌の物語を"演じる"のではなく"生きる"アイドルで、テイラー・スウィフトが発するようなアイドル性は、より強く求められるようになるのではないだろうか。

■ターボ向後
AVメーカーとして史上初「映像作家100人 2014」に選出された『性格良し子ちゃん』を率いる。PUNPEEや禁断の多数決といったミュージシャンのMVも手がけ、音楽業界からも注目を集めている。公式Twitter

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