AKB48グループはどこに向かう? 最新作から見たSKE、NMB、HKTの力関係

 ただし、この楽曲をもって昨年の指原と今年の渡辺をセンターとして比較するのは、いささかバランスが悪い。「恋するフォーチュンクッキー」は、昨年下半期から様々な企業や自治体による動画が多数作られ、一年を経た今年の総選挙を過ぎてなお、YouTubeのAKB公式チャンネルには動画がアップされ続けている。同曲はすでに、AKB48の年間代表曲というレベルではなく、世の中を大きく席巻したAKB48の新たなクラシックになりつつあるのだ。AKB48の年間スケジュールに組み込まれた行事としての総選挙とは無関係に、「恋するフォーチュンクッキー」は今もって社会に浸透し続けている最中である。そのような状況をすでに背負った「恋するフォーチュンクッキー」と、明らかにその後継として発表されたばかりの「心のプラカード」との対比をもって、すぐさまセンター同士を比較するような議論はあまり適切ではないだろう。

 渡辺麻友が総選挙一位を獲得した意味は、「心のプラカード」が今後どのように浸透するかにあるわけではない。今年の総選挙結果発表イベントでの指原と渡辺のスピーチは、いずれもそれぞれのやり方で、48グループの将来を見据えていた。指原は、ともすればAKBが世間から軽んじられる存在であることを示すエピソードを例に出し、それを睨み返すように自身たちの矜持を示してこれからの決意を表明した。そして渡辺は、センターに立つことへのこだわりを語り、卒業した偉大な元メンバーたちから己が48グループの中心を引き継いでゆくことを力強く宣言していた。俯瞰した視線を常に伴う指原と、グループを牽引する自覚を強調する渡辺、二つの柱の存在は楽曲単位で優劣をつけることにはなじまない。両輪がフロントにいることが、現在の48グループの強みである。センターとしての渡辺が形成していく歴史は、この一年で指原が築いたそれともまた大きく形の違うものになるはずだ。

メンバーの拮抗関係が活発さを生んでいるHKT48

 ここまで大組閣と総選挙を反映したのちの、各グループの第一手をリリース順に見てきたが、AKB48グループの中で現在、センターを競う動きが最もアクティブなのは、今月24日にシングル『控えめI love you !』を発売するHKT48かもしれない。同曲では、かねてより兒玉遥がセンターポジションを務めることが発表されており、田島芽瑠、朝長美桜がセンターを務める形が続いていたなかで、満を持して兒玉が初センターとなることへの注目度は高かった。

 しかし、リリースに先立つ歌番組での楽曲披露や公開されたShort ver.のMVは、兒玉の単独センターというよりは、兒玉、宮脇咲良、指原の三者が中心を分け合うような印象で、予想と異なる配置には賛否の議論も巻き起こった。ただし、センターに関する当初の情報とは趣きが違うにせよ、兒玉と同様に進境著しい宮脇がそのポジションを得るにふさわしい存在感をつけていることも事実だ。兒玉、指原と並ぶ彼女の姿には、それ相応の見栄えが備わっていた。田島、朝長らも含め、まだキャリアの浅い彼女たちの競り合いは、わずかな期間で各々が変化を見せる楽しみがある。今作はフロントメンバーの他にも神志那結衣らの選抜初起用など、若いグループのこれからを示唆する動きも見える。大組閣の影響よりも、グループ内のメンバーの拮抗関係が活発さを生んでいるといえるだろう。

 今夏のリリースでは、人気メンバーがグループをまたいで異動したSKE48やNMB48が比較的フロントメンバーのバランスを変化させていないのに対し、グループ内で成長したフロントメンバーの拮抗が目立つHKT48にこそ、中心を競う動きが活発に見えるところが興味深く、またそれが若いHKT48の成長期の面白さでもある。ひとつには、組閣のような運営による唐突な地殻変動を多発させたことで、効果的な刺激が生まれにくくなっていることのあらわれなのかもしれない。組閣や移籍は、新たな組み合わせを見る面白味がある一方で、グループの紡いできた歴史を強引に打ち切り、それまでの蓄積が花開く機会を永遠に失わせてしまうこともある。メンバーのシャッフル自体に新鮮さが薄れつつあるからこそ、グループ内の若いメンバーの競り合いで短期間に中心メンバーの様相が変わるHKT48の勢いが際立つともいえる。

 とはいえ、やはり柏木が登場したNMB48のチームN公演は彼女が参加するというだけで心躍るものだったし、同様に大組閣で「交換留学生」になった乃木坂46の生駒里奈がAKB48チームB公演で渡辺麻友と並ぶ姿には、なんともいえない感慨がある。異動のもたらす感動が消えてしまったわけではない。兼任、移籍した各メンバーの存在が、今後のシングルリリースに新鮮さを吹き込んでくれるのを待ちたい。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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