香月孝史が『真夏の全国ツアー2014』ファイナルを考察
乃木坂46が神宮公演で見せた“パフォーマンス力”の萌芽 メンバーの自信と自覚を読む
しかしこの日の西野は、一曲目の「夏のFree&Easy」から煽りにも表情にも、ひとつ殻を破ったようなパワーが見え、春から今回のツアーに至るまで選抜メンバーの中心として活動してきた証を見せつけていた。どこか不安げにしているような仕草は今も変わらぬ彼女の個性だが、この日のライブでの存在感は強く、支柱のひとつになっていることを示した。センターというポジションは、確実に彼女の自覚を引き出している。
そして生駒里奈。デビュー以来、乃木坂46のフロントに立つ者としてグループを背負ってきたのは彼女である。昨年夏の6thシングル「ガールズルール」以降、センターポジションから外れ、形式上は脇を固めるメンバーとして選抜に名を連ねてきた。
しかし、生駒はどのポジションに移ろうとも、常に乃木坂46の象徴として存在した。センターが別のメンバーに変わっていくたび、むしろ彼女が揺らぐことのない、グループの絶対的中心であることが浮き彫りになるようでさえあった。
それを物語るのはこの日のライブ終盤、「世界で一番 孤独なLover」から「制服のマネキン」への流れである。セットリストがクライマックスに近づくほどに、パフォーマンスの核が次第に生駒へと収斂していく。「制服のマネキン」でスクリーンに大写しになった生駒の表情は気高く、彼女がグループの屋台骨を引き受ける存在であることを強く示すかのようだった。
乃木坂46のパフォーマンスレベル向上の必要性やグループの対世間的な見え方に関して、常に人一倍自覚的な言動を行なってきた生駒だが、その責任感からくる孤軍奮闘は時に空回っているように見えることもあった。AKB48との兼任もあり、いまだ彼女が背負い込むものはあまりに大きい。
しかし今回のライブツアーで見えたのは、アンダーメンバーや、西野らセンター経験者など、生駒の周囲を固めるメンバーが獲得しつつある自信と自覚だった。その進化は、ライブパフォーマンスの端々で少しずつ実を結び始めている。それは、「魅せる」ことについての各メンバーの意識が、一段高まってきたことの証左でもあるだろう。
メンバーの技量の面でも、大会場を用いた演出の面でもステップアップすべき点は多く、まだまだライブ運びが巧みなグループとはいえないかもしれない。しかし、乃木坂46のメンバーは、次のレベルを見据える準備を少しずつ整えつつある。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。