宇野維正がセカオワの現在地に迫る
ポップミュージックの最前線へ SEKAI NO OWARIの「挑戦」を読み解く
そのファーストアルバムからセカンドアルバム以降に起こった状況の激変の経緯は近いものの、もちろん、当時の小沢健二と現在のSEKAI NO OWARIの軌跡を安易に重ね合わせるつもりはない。音楽的に言うなら、小沢健二がそのバックグラウンドとして持っていたブラックミュージックへの深い愛着や60~80年代ロックの広範な造詣などは、SEKAI NO OWARIの音楽から感じることはないものだ(もっとも、SEKAI NO OWARIのソングライターの1人であるNakajinは小沢健二へのリスペクトを表明していて、「TONIGHT」などのメロディにはその確かな影響を聴き取ることが可能だが)。
リスナーとしてはパンク/ハードコアにルーツを持つSEKAI NO OWARI(特にFukaseとNakajin)の音楽性は、「覚えやすい歌謡曲的メロディ」というフックを踏み台にして、現在はロックの重力からどれだけ自由になれるかの実験の真っ最中とも言える(「その姿勢こそがロックだ」などというありふれたレトリックを使うつもりはないが)。インディーズデビュー直後から彼らを追っている音楽ジャーナリストの一人としての立場から言えるのは、彼らは決して現在の成功体験に甘んじることなく、今後は世界戦略も見据えながら、大きな変化を遂げていくに違いないだろうということだ。
現在、硬派な音楽ファンを前にして「セカオワが好き」だとはなかなか言えないような空気が形成されつつあるが、自分は過去の世界の終わりも大好きだし、現在のSEKAI NO OWARIも大好きだし、未来のSEKAI NO OWARIはこれまで以上のさらなる驚きと音楽シーンへの刺激をもたらしてくれると思っている。この国のポップミュージック/ロックの最前線を数十年熱心に追ってきた経験則からも、そこには確信がある。
■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter