新作アルバム『Nancy』インタビュー

浅井健一が語る、曲作りのスタンス「心に力が入ると駄目、素直が一番いいよ」

ーー浅井さん自身の声もそうですよね。すごく柔らかい感じがして。

浅井:全てにおいてそうなんだけど、力が入ると駄目だね。心にも力が入ると駄目なんだわ。バッティングセンター行って、「絶対ホームラン打とう」とか思っても全然いい当たりが出なくて、軽く振ったときにパコーンと当たる時あるじゃん? あれもそうだし、この世の中っていうのは、欲を出して立ち向かおうとするといいことない。それは音楽にもいえて、歌入れしていて「なかなかいい感じで録れたな」ていうのがあったとするよね。それで十分いいんだけど、「もっといいのが録れるかもしれない」と思って、そこから10回、20回やっても越えられんもん。「欲のない状態に戻そう」って言ったところで絶対、欲はあるんだわ。「もっといいのを録ってやろう」と思ってるんだから、「欲のない状態に戻そう」っていう気持ち自体がめちゃくちゃ欲にまみれとる(笑)。そこなんだわ、世の中の秘密っていうのは。

ーーそれを意識し始めたのはいつ頃からですか?

浅井:15年くらい前から漠然とはわかってたよ。レコーディングの繰り返しだからね。ブランキーのときから30年以上やってるんだもん。「録らないけど、音を作るので1曲やってください」って言われて適当にやるのが、欲がないから一番良かったりするんだわ。そんなことはバンドのほとんどのみんなはわかってるんじゃないかな。体験してると思う。音楽だけじゃなくて、あらゆるところでそういう現象はあると思うけどな。だからサッカーの試合でもそうだったんじゃないかな(笑)。4年前はみんな大して期待してなかったわけじゃん? 期待されてないもんだから、すごい良いところまで行けたでしょう? 今回は逆だもんね。

ーーこれまでに、自分の中で「力が入っちゃって素直じゃなかった」ということはありますか。

浅井:あんまりないかな。頑張ってひねり出したものはあるかもしれないけど、それも素直に頑張ってひねり出しとるでね(笑)。

ーーひねり出す時はやはり、産みの苦しみがある?

浅井:そりゃ、あるよ。やっぱり詩が一番難しいね。曲の展開の部分だとかで悩むときはもちろんあるし。やっぱり、詩とメロディと、全てがよくないと駄目だもんね。演奏力もないといけないし、曲が世の中に出る時期も関係してくるし。だから音楽業界みんな、難しいというか、面白いことをやってる。

ーー作品が世に出る時期の社会の雰囲気なども、浅井さんの音楽に関係してくると?

浅井:そりゃ、自然に関係するよね。みんな同じ今を生きてるんだから。ニュースもみんな同じように見るし、同じ時間を生きてる。不思議ですね。

ーーなるほど。浅井さんの歌詞は時代を超越しているようなところがあって、そうした部分が少年性と評されたりすることもありますがーー。

浅井:少年性とかはよく言われたりするんだけど、自分でそういうのは全然ないと思ってるんだ。俺、全然大人だし、考え方もそこらへんの大人より大人だし。たぶんみんな勘違いしてると思うんだけど、俺は素直なだけなんだわ。素直に自分の気持ちを書くのが、一番いいよ。

腹減ってるときに曲を書いてると、絶対食べ物が浮かんでくる

ーーアルバム最終曲の「ハラピニオ」は、近未来から過去を振り返るというSF的な設定の曲ですね。

浅井:「ハラピニオ」が一番好きかな。コーラスのところが嬉しくなるでしょ? あそこがいいんだ。それと「Parmesan Cheese」が今回の中で「どうだ!」っていう感じかな。

ーーどちらも食べ物に関係しますね。

浅井:腹減ってるときに書いてるとね、絶対食べ物が浮かんでくるんだよ(笑)。ドミノ・ピザのスパイシーデラックス。「ハラピニオをトリプルで」って頼むとすごい乗ってくるよ。

ーー「ハラピニオ」のSF的な場面設定は、浅井さんの音楽の中でも珍しいですよね。

浅井:『マッド・マックス2』の景色が少し入っているかな…あれは。その雰囲気はちょびっとあるかもね。もっと優しいけど(笑)。そんな詩ができるなんて思ってもいなかったけど、なぜかできたから不思議ですね。

ーーこの曲は未来の地点から歌っていますが、『紙飛行機』のように、未来やその先に向けて歌っているような曲もあります。

浅井:今回はそういう曲が2曲も入りましたね。俺もみんなと同じように未来のことは考える。今の社会情勢を見てて、不安を感じない人はいないと思うんだよ。そういう人はよっぽどおめでたい人というか。その中でも、自分たちの意思で変えることは全くないわけじゃないと思う。

 自分のことしか考えない魂と、自分はもちろん、目に入るまわりの人達も普通の生活が出来て、良い状態のときに初めて幸せを感じられる魂と、いろんな魂があるじゃん? 後者の魂が地球上にたくさん増えていったら、明るい未来が来ると思うんだけど、自分さえ良ければいいっていう魂が増えれば、最悪になる。ただ、自然界っていうのは、自分さえ良ければいい、というものなんだよね、本当は。だから、自分さえ良ければいい、っていうことを、あからさまに否定することもないのかなとも思う。「人の為」と書いて「偽」って読むでしょ? だから「人のため」じゃなくて、人が喜んでないと自分も喜べないからその人たちを助けるというのは、結局は自分のためじゃん? それがいいと思うんだ。人間でしかできないことだし、そういう考え方が大事だと思う。

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