『週刊金曜日〜アイドルを守れ〜』対談レポート(後編)

5人の論客が語る、アイドルの現状と未来「これはもう完全に単なるブームを越えている」

左から、倉本さおり氏、中森明夫氏、栗原裕一郎氏、岡島紳士氏、さやわか氏。

次の時代のアイドル像とは

中森:アイドル評論の話に戻るけど、批評って現象より先にはいかないんですよ。で、アラン・ロブ=グリエっていうフランスの小説家が「真に新しい小説は批評できない、なぜならその小説が未来の批評を作るからだ」って言っていて、なるほどなーと。僕は松田聖子が出てきたとき、本当にそう思ったよ。今は充分、松田聖子の意味はわかるけど、当時はなんで人気あるのか正直よくわからなかった。でね、最近はグループアイドルばかりが人気だけど、それは日本にはもうレディ・ガガみたいなわけのわからない、しかしカリスマ性のある大スターがいないので、秋元康が新しいシステムを構築したっていうことなのかと思っている。

さやわか:つまりカリスマが足りていない、もしくはカリスマ性を持った人がいたとしても、今のグループアイドル偏重の時代では生きられないと。

栗原:最近、ある人の「アイドルは常に前世代の否定なんだよ」っていうツイートが回ってきて、なるほどと思ったんですよね。たしかに松田聖子は新しく見えたけど、実は70年代アイドルのリバイバルで、当時、圧倒的な人気だったピンク・レディー的な存在に対するアンチだった面も大きかったのかなと。最近、ソロアイドルが時代を変えるみたいな話がよく出るけど、そう単純な話でもないんじゃないかという気がする。中森さんのお話でいうと、武藤彩未がわけわからないかというと、むしろ、わけがわかりすぎるんですよね。

さやわか:しかし、僕はむしろ今のグループアイドルってものすごい大所帯だったりするので、「グループ」という感が逆に薄れていると思うんですよね。AKB系なんかも、今のアイドルシーンのミニチュアみたいな感じに見えます。つまりあのAKBGという大きなグループ全体がアイドルシーン全体であって、その中にいる人たちがそれぞれ個別のアイドルみたいに思える。言い換えると、今のアイドルシーン全体がひとつの大きなグループだとも言える。だから、たとえば武藤彩未がソロでやっているんだと言っても、今のアイドルシーンという大きな組織の中のひとりでしかない、という風にも見える。

中森:もしかしたら天才がいても、発揮できない状況があるのかもしれない。

さやわか:でもグループアイドルに所属しないと世に出られないのであれば、グループの中のひとりとしてうまく振る舞えるタイプの天才が現れる構造にはなっているんじゃないですか。事務所なりレコード会社だって、どんなに才能のある娘がいたとしても「ソロアイドルとしてデビューさせて、この娘ひとりでAKB48に勝つぞ」っていうふうには、なかなか打って出られないでしょう。むしろグループに所属させて、そこで頭角を現わしていかせるのでは。

栗原:AKB48がすごいのは、メンバーごとに事務所も分散しているんですよね。

さやわか:あれ、すごく頭が良いですよね。まさにグループでありながら、実はみんなバラバラに各事務所がそれぞれのメンバーをタレントとして育てていくシステムになっている。

コンテンツと流通について

倉本:今回の『週刊金曜日』の特集記事に岡島さんの書いた「グラドル自画撮り部」の話がありますよね。本が売れないから、グラドルの活躍の幅も狭められていると。だから彼女たちは自らツイッターを活用してプロモーションをしている。こうした流れは、音楽業界とミュージシャンの関係にも似ていますよね。

さやわか:ええ、レコード会社の中抜きがなくなって、ヲタと地下アイドルが直接コミュニケーションをするようになったのと同じですね。

岡島:面白いのは彼女たちの場合、グラドルブームをもう一度私たちの手で再現したいって言っていること。具体的にいうと、コンビニの雑誌の表紙を目指している。

さやわか:ということは、彼女たちは最終的にはメディア進出に憧れがあるわけですね。そこは音楽を主軸とした地下アイドルとはちょっと違うのかもしれない。

栗原:ウェブの時代になり、雑誌が死に体になって原稿料が下がっているんで、文筆業者も印税と原稿料に依存しないビジネスモデルを模索しないといけないんですが(笑)。ただ、中抜きがなくなって直売になっても、ダウンロード販売で儲かっている人ってそんなにいない。実はこれまでは、器、インフラで稼いできたんだってことですよね。

さやわか:電子書籍が流行った時、作者と読者を直接繋ぐから出版社なんてもういらなくなる、みたいな論調がありましたが、結局のところ作家と読者が直接つながる仕組みで売れるコンテンツが増えるわけでもない。だから最近は電子書籍やウェブメディア界隈では、編集とかデザインみたいな従来的な出版業のノウハウって、実はすごい重要だよねって、少しずつ見直されつつあるように思います。そう考えると、アイドルビジネスにもコンテンツのハンドリングが上手くできる人材が中間業者にいたほうが良いのかもしれない。

栗原:出版システムの優れたところって、ズブの素人がたとえば新書を出して1万部くらい刷って、それを取次を通して全国にバラまくと、6~7割くらい売っちゃうことですよね。同じ本をキンドルで自費出版で出したって、100冊も売れないでしょう。その「バラまく力」ってバカにならないわけです。それを度外視して、作者から読者、ミュージシャンからリスナーへ直販しようとしても、すでにある程度の固定層を持っている人以外はうまくいかない。

さやわか:そうそう。グラドル自画撮り部がどこまでいけるかはわからないけれど、人気の規模をもっと拡大したいと思った時に、プロデューサー気質なのか編集者気質なのかわからないけれど、そういう才覚のある人がやっぱりいたほうがいいのかなって思う。タレント自身がそういう能力を持つ場合もあるとは思うけど。

栗原:コンテンツに関しては流通が大事なんですよね。岡島さんは自主制作のDVDマガジン(『iDOL NEWSiNG』)をアマゾンでも売ってますよね。アマゾンはどうですか?

岡島:僕のは置いといて、アイドルのイメージDVDは2000枚売れればヒットと言われていると、記事にも書きました。で、その2000枚くらいはアマゾンなどのネット通販と本人稼動のイベントでほとんどが捌けるそうです。例えばイベントで100~150人くらい来て、1枚から3枚くらい買ってもらって、それぞれ違う特典を付けるという感じでやれば、3、400枚は1日で売れると。手売りはバカにならない比率です。ここが雑誌や小説などとは全く異なるポイントなんです。要はイメージDVDっていうのは上限が大体2000枚の市場で、買う層は固定されて決まっている。かつほとんどがネット通販と手売りなんだから、DVDメーカーや流通を通す意味ないよねってことなんです。500枚以下しか売れない作品もざらにある上に、全国流通させるだけで業者に売り上げの半分が持って行かれるので。

中森: JPOPのミュージシャンがフェスなどで物販をする形に近いですね。やはり握手会などもそうですが、みんな体験的なものにしかお金を払わなくなっちゃって、複製できるものはネットでタダで拾えばいいやっていうことになってしまっているんだろうね。

アイドルカルチャーは世界に通じるか

中森:日本はどんどん人口少なくなっていくし、若年世代も減って行くから、これからのサブカルチャーやユースカルチャーが衰退していくのは仕方がないこと。でもまだ一億のマスがあってさ、みんな貧乏っていっても金あるし、民度も高い。アイドルカルチャーの海外進出を狙うこともできそうですよね。ヲタをいかにアジアに増やすというか。

さやわか:アジアはすごく親和性が高いと思います。ジャカルタのJKT48とかだって、なかなかうまくいってるわけじゃないですか。「アイドルカルチャーはハイコンテクストで、日本人好みのものだし、他の国にはなかなか受け入れられない」って意見もあるんですけど、僕は案外そうではないと思っています。むしろどんなカルチャーも最初は他国にとってハイコンテクストなわけで、アイドルだってこのコンテクストを他の国にも共有させていけば、全然いけると思うんですよ。

中森:ヨーロッパとかアメリカではそんなにメジャーじゃないけど、今はインターネットがあるから、現地のファンがきゃりーぱみゅぱみゅとか℃-uteのライブに来るじゃない。で、来てるヤツってフランス人でもなぜかヲタクっぽいんだよね!

さやわか:フランスはめちゃくちゃヲタクっぽいですよね。僕もきゃりーぱみゅぱみゅのヨーロッパツアーを見ましたが、フランスだけやけにガチヲタみたいな感じで、最前でヲタ芸したりサイリュームを振ったりするんですよね。ほんとは日本の文脈でいうと、きゃりーぱみゅぱみゅはいわゆるアイドルとはちょっと違うんだけど、フランス人はとにかくヲタっぽく振る舞ってしまう(笑)。

中森:なんかあるのかな、ヲタクになったときに細胞が変化するとか。フランス語で何言ってるかわからないんだけど、しゃべり方もなぜかヲタっぽい。

さやわか:妙に声が高いとか、早口とかいう人も多いですね。日本のアイドルファンと同じ感覚でファン活動をしている人を見るにつけ、海外にだってアイドルを受け入れられる土壌は十分にあるよなあと思います。「アイドルなんて狭い日本の、さらに狭いヲタクだけが消費しているものだ」という考え方は、もはや通用しないのでは。

中森:BiSのインタビューを読んでいても思ったんだけど、アイドルカルチャーは行くところまで行ったんだなって感じだよね。海外進出にしてもそうだけど、これはもう完全に単なるブームを越えている。そうなると、この先に何があるのか、つまり「アイドルの最終局面」が見てみたい。いったい、そこにはどんな風景が広がっているのかなって……。
(取材・文=松田広宣)

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