「クラブと風営法」問題の現状と課題とは 音楽ライター磯部涼が弁護士に訊く
「議員からは“文化都市”のような言葉もよく聞きます。経済効果だけを目指すのであれば、大きな箱をつくって、お酒をたくさん売るのがいいし、それには、特区(新たな産業を創出するために、国が行う規制を緩和する特例措置が適用される特定地域)が手っ取り早いでしょう。しかし、ダンス議連はそうではなく、文化的なスポットが多様な形で存在する都市を目指しているようです」
そして、“文化的なスポットが多様な形で存在する都市”が理想だとしたら、それとは真逆の方向へ行っているように思えるのが、一斉摘発以降の大阪の街並みだという。
「先日、大阪のある大箱に行ったのですが、“これはもはやクラブではないな”と思ってしまいました。音楽でお客さんを呼ぶという発想ではなくて、VIP席を確保するとスタッフがフロアから踊っている女の子を連れてきてくれるシステムが人気の、もはや、キャバクラの様相なんですね。ただ、それも、現行の風営法を厳格に運用した結果なのかとも思います。“風営法の許可を取りなさい”、“1時までに営業を止めなさい”という状況の中、短時間でお金を稼がなくてはといけないとなると、そういった派手で、水っぽい営業をせざるを得ないのかもしれません」
あるいは、そのようなやり方に乗れない事業者は、より地下に潜っていく。
「一方で、大阪の、音楽にこだわる人たちは、レコード・ショップが閉店したあとのスペースでパーティを開催したりだとか、クラブではない場所で自分たちのやりたいことを模索している感じがします。ただ、そのような二極化でよいのか、という話ですよね」
実はニューヨークでも、90年代後半にクラブが厳しく取り締まれた結果、二極化が進んでいる。そして、ディスコやヒップホップをメジャーにした同地のクラブ業界のクリエイティブなエコシステムは崩れてしまった。大阪や東京もまた、それと同じ道を歩むことになるのだろうか?
「このままでは二極化どころか、大きなものはより大きく、小さなものはより小さくなり、音楽やアートにとってもっとも重要な多様性や創造性が失われていってしまう恐れがあります。そこで参考になるのが、例えばベルリン。同市を拠点としている音楽ジャーナリストに浅沼優子さんという方がいるのですが、彼女は先日日本で“アフター・25”というベルリンのクラブ・シーンについてのシンポジウムを開催しました。浅沼さんによると、ベルリンでは、行政がアンダーグラウンドなクラブの価値を認めてサポートしてきたため、そのような文化が同市の重要なアイデンティティとなり、かつ、観光資源としても機能しているそうなんですね。もちろん、ニューヨークや東京のような大都市と、ベルリンのような小規模の都市を単純に比較することはできませんが、文化の多様性を行政が認識することによって、文化も発展するし、経済効果も生まれるといったやり方から学べることは多いでしょう。また、ダンス議連もそれを目指していると僕は思っています」