再始動するキング・クリムゾン 驚異の初期サウンドは、日本の歌謡界も虜にした

 さてそんな彼らに影響を受けた日本のアーティストですが、とくにリアルタイムで彼らが大傑作を連発していた70年代前半までは、その影響下にあるアーティストを指摘するのは困難です。というのも当時の日本のロックの水準では、クリムゾンの音楽の影響を受け止め消化して自分たちの個性として作品化するほどの技量を持ったアーティストはほとんどいませんでした。平たく言えば難しすぎたわけです。なかでは当時の日本のトップ・バンドだったこの人たちがこんな曲をやっています。演奏自体はコピーの域を出ませんが、特にギター(石間秀機)は、後の傑作『サトリ』で開花した東洋風な音階のプレイ・スタイルの萌芽が聴けますね。

Flower Travellin' Band / 21世紀の狂った男 (1970)

FLOWER TRAVELLIN’ BAND『エニウェア』(ユニバーサル ミュージック)収録

 そして凄いのがこれ。市原宏祐(sax)を中心にフリー・ジャズやニュー・ロックの腕利きプレイヤーが集まって作られたこのグループでは、まるで中期クリムゾンに先駆けるような壮絶なジャズ・ロック演奏が聴けます。日本のロック史の隠れた名盤と言えるでしょう。なんとヴォーカルはのちの歌謡曲の大御所、布施明です。

Love Live Life + One - Shadows of your mind (1971)

Love Live Life + One『LOVE WILL MAKE A BETTER YOU』(ディスクユニオン)収録

 一方、特に初期クリムゾンにあった一種の暗い湿ったセンチメンタリズムのようなものが日本人の感性に合っていたという面もあり、『宮殿』収録のこの曲が、当時の歌謡曲のトップ・アーティストたちに相次いでカヴァーされるという現象も起こっています。歌の巧拙の差はありますが、いずれもかなりシリアスな仕上がりになっているのが面白いですね。

King Crimson / Epitaph (1969)

ザ・ピーナッツ / Epitaph (1972)

ザ・ピーナッツ『IT’S TOO LATE~ザ・ピーナッツ・オン・ステージ』(キングレコード)収録

フォーリーブス(北公次) / Epitaph (1974)

フォーリーブス『フォーリーブス 1968-1978』(Sony Music Direct)収録

西城秀樹 / Epitaph (1979)

西城秀樹『ビッグ・ゲーム’79』(BMGメディアジャパン)収録

 さてキング・クリムゾンなどの影響を消化し独自のシンフォニックな日本的プログレッシブ・ロックとして完成させたのが、平沢進率いるマンドレイクです。

マンドレイク / Mandragora

マンドレイク『アンリリースト・マテリアルズ VOL.2』(テスラカイト)収録

 70年代の日本のプログレッシブ・ロックでは明らかに最高水準を行っていた彼らは、しかし、パンク・ムーヴメントの到来に刺激を受け解散。P-モデルと名を変え、性急極まりないテクノ・ポップに変身、一躍ニュー・ウエイヴ・ムーヴメントの最前線に躍り出たのはよく知られている通りです。私が1980年にNYを来訪したとき、現地のレコード屋で売っていたP-モデルのLPには「Japanese XTC」というPOPが貼ってありました。

P-MODEL「美術館で会った人だろ」(1980)

P-MODEL『IN A MODEL ROOM』(インディーズ)収録

 そしてこのテクノ・ポップ時代のP-モデルの直系の影響下にある若手がポリシックスですが、彼らはスピッツのトリビュート・アルバム『一期一会』でこんな素っ頓狂なカヴァーを披露しています。

POLYSICS / チェリー(2002)

『一期一会 Sweets for my SPITZ』(ドリーミュージック)収録

 もろにクリムゾン「21世紀の精神異常者」ふうにアレンジされていますが、ポリが特にクリムゾンに影響されているのではなく、たまたまこの時期にリーダーのハヤシがクリムゾンにハマっていて、カヴァーという場でお遊びをしてみたというところでしょうか。ふつうなかなかスピッツとキング・クリムゾンを結びつけようとは思いませんね。

 井上大輔が作詞・作曲・唄まで手がけた「機動戦士ガンダム」のこの曲は、『リザード』あたりのクリムゾンの路線でしょうか。

機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)「ビギニング」(1982)

井上大輔『めぐりあい』(キングレコード)収録

King Crimson "Lizard (Prince Rupert Awakes)"(1970)

King Crimson『Lizard: 30th Anniversary Edition』(Discipline Us)収録

 元ブランキー・ジェット・シティの中村達也のユニット、ロザリオスも、クリムゾンに通じるハードなインプロヴィゼーションを得意としています。

Losalios / Live (2002)

 そして若手人気バンドの筆頭格であるこの人たちは、笠置シズ子の昭和歌謡のカヴァーであるこの曲を、クリムゾンを意識してアレンジしたと発言しているようです。そう言われてみれば確かに、それらしい凝ったアレンジですね。

NICO Touches the Walls / ラッパと娘(2012)(NICO Touches the Walls『夏の大三角形』(KRE)収録)

 そして最後に。1970年代から活動するプログレのベテラン、美狂乱の楽曲を紹介して終わりにします。最近のアニソンはなんだか面白いことになってますね。

美狂乱 「魁!!クロマティ高校」エンディングテーマ「トラスト・ミー」(2003)

美狂乱『トラスト・ミー』(ランティス)

 ではまた次回。

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。

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