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「レスポンスに勝るユーザー体験はない」AbemaTV開発本部長・長瀬慶重インタビュー

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 4月に開局2周年を迎え、「ネット発のマスメディア」という類を見ない目標に向かい、放送の規模や視聴者数を着実に伸ばしている、AbemaTV。その現在地から“インターネットテレビ”の未来を探る特集の第2弾は、AbemaTVの開発局・局長として、開局以前からエンジニアを統括してきた長瀬慶重氏へのインタビューをお届けする。ネットでこれほどの大規模な放送を行なう上で、どのような技術的課題をクリアしてきたのか。“テレビ品質”の実現に向けて、どんなことに注力しているのかーー来るべき2020年、5Gの時代に向けて加速している技術開発の最新状況と、その展望を聞いた。(編集部)
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テレビを名乗る以上、“ベストエフォート”では許されない

――インターネット上でマスメディアを目指す「インターネットテレビ局」を運営する上では、技術的に問題になることも多いと思います。開局前の準備段階も含めて、どんな課題を乗り越えてここまできたのか、教えてください。

長瀬慶重(以下、長瀬):わかりやすく、またもっとも難しいところとして、“TV”を名乗る以上、映像が途切れてはいけない、ということが大きな課題としてありました。地上波のテレビは、小さいころからみんな「つながって当たり前」で、“落ちる”ということは基本的にない。極端な話、数秒間でも映像が途切れれば、テレビ局の方は総務省に行き、なぜそういうことが起きたのか、ということをきちんと報告して、再発防止策を綿密に検討しなければいけない。地上波は、それくらいの品質レベルなんです。一方で、インターネットの世界は「ベストエフォート」(最大限努力する)という言葉に集約されていて、サイトが重いとか、映像が途切れるとか、そういうことは仕方がないこととして許されている。でも、インターネット“テレビ”と名乗った瞬間に、それが許されなくなるということです。

――なるほど。テレビならトラブルなくつながって当然だろう、と。

長瀬:そうなんです。例えば、僕らはGoogle Cloud Platformを使ってサービスを提供していますが、そのSLA(サービスの品質保証基準)自体が、そもそも99.95%。つまり、「0.05%は障害が起こっても仕方がない」ということで、月に換算すると「数分間サービスが落ちる可能性がある」ということになります。でも、AbemaTVが落ちてしまったとして、「いや、グーグルが落ちてしまって……」という言い訳は許されません。事前の対策はさまざまに講じていましたが、開局当初は映像が途切れたり、システムが落ちてしまったり、ということが起きることもありました。

――昨年5月の『亀田興毅に勝ったら1000万円』などは、アクセスが殺到して一時、サーバーがダウンしていました。

長瀬:日々改善している対策は目に見えず、落ちた時に初めて話題になる、ということでもありますが、この2年間で、技術的に一番向き合ってきたのは、その部分だと思います。だいぶ落ち着いて、安定してきましたね。

――実際、その半年後の『72時間ホンネテレビ』は、あれだけの注目度と長時間にわたる内容でありながら、スムーズに放送されていました。

長瀬:実は社内でも極秘のプロジェクトで、現場のエンジニアが番組に関して知ったのも、情報解禁と同じ1ヶ月ちょっと前というタイミングだったんです。そこから必死に負荷対策をして、システムのキャパシティーを亀田さんのときの5倍くらいまで拡大することができました。

――開局の準備も短期間の作業で、どうしても属人的になっていた技術的な仕事を仕組み化していく、ということも大変だったと聞いています。

長瀬:そうですね。開局当初は約20人の開発チームが『72時間ホンネテレビ』のタイミングでは50人ほどまで増え、チームとしてもうまく機能するようになっていたので、本当に増員しておいてよかったな、と思いました(笑)。それでも、負荷対策以外の開発をほとんど止めて、みんなで対策に当たりましたが、体制自体が大きくなって、やれることが多くなっていたのはよかったですね。

“テレビ品質”と“ネット放送ならではの面白さ”の両立

――4月には、プレミアムプラン利用者向けにモバイル環境で通信量を最適化する「動画ダウンロード機能」や、「追っかけ再生機能」をリリースしたり、今月発売のソニー・ブラビアシリーズのリモコンに「AbemaTV」ボタンが導入されたりと、様々な施作が行われています。技術的には、どんな点に注力しているのでしょうか。

長瀬:開発チームでは、キーワードとして「テレビ品質」という言葉を掲げています。それはやはり、システム自体が安定していて落ちないことや、映像が途切れず、快適に視聴できる、ということです。正確に表現するのが難しいのですが、映像によっては画質が悪くなったり、視聴環境によって途切れたり、ということがある。どんな環境、デバイスでも、安定してきれいな映像を届ける、という状況を100%実現できているかというと、実はまだできていないんです。そして、その実現が競争力の一つになっていくと考えています。AbemaTVは「コンテンツが作れる」ということが、事業として競争力の一つだと思いますが、プロダクトやサービスを提供する上で、“快適に映像が見られる”こと自体がかなり重要なんです。

 またもうひとつ、通信量をもっと落とせる方法がないか、というのも開発のテーマに置いています。これから「5G」の時代に入り、インフラはどんどん太くなっていきますが、その反面、月額負担の安い格安スマホの利用者も増えるでしょうし、いかにデータ通信量を抑えて、きれいな画質を実現するか、ということにチャレンジしています。

 また、リニア放送があり、オンデマンドでも楽しめる、という基本的な機能については整いつつありますが、中長期的には多様なデバイスに対応するための開発だったり、海外からの視聴への対応も進めていきたいと考えています。例えば、『72時間ホンネテレビ』を放送した際には、「なぜ海外から観れないのか」という声が非常に多かった。僕らが内製で作っている番組に関しては、うまく権利処理ができるのであれば、海外からも観られた方がいいですよね。

ーーなるほど。「テレビ品質」という言葉がありましたが、一方でインターネット放送ならではの魅力というものもあると思います。その辺りのユーザー体験については、どう考えていますか?

長瀬:ユーザーがよりインタラクティブに番組に参加し、インターネットらしく楽しめるような機能の開発には、しっかり取り組んでいこうと考えています。例えば、自分が番組に意見を書き込みたいとは思っていなくても、生放送に他の視聴者の意見をコメント上で見ることができるだけでも、楽しみ方が広がる要素はあると思うんです。

――それでは、もう一つ挙げられた、「デバイス」についてはどうでしょうか。

長瀬:現在、開局当初に比べると、PC、タブレット、テレビなどスマートフォン以外のデバイスからの視聴比率が上がっています。つまりユーザーとしては、もっと大きい画面で番組を観たいというニーズが出て来ている。タブレットに関しては未対応のものもありますし、またテレビに関してはIPTVと呼ばれるウェブの技術をベースとしたデバイスがこれから出てくるので、そういうものにもきちんと対応していきたいと思います。

 テレビのマーケットを考えると、地デジが入った2010年に年間1000万台くらいの販売台数があり、直近だと400万台くらいに落ちていますが、テレビの買い替えのタイミングは8~10年と言われていて、それがちょうど2020年東京五輪のタイミングと重なります。そこで、インターネットに接続されるテレビに大きく変わっていく、というのがマーケットの必然的な流れになっており、テレビはいま以上に地上波だけを観るものではなく、インターネットのコンテンツも楽しむのが当たり前になっていく。そのトレンドに対してしっかり準備をしておきたいと考えており、その第一弾が、先日発表された「ブラビア」だったということです。

――地上波と同じように、チャンネルを回せばAbemaTVが観られるようになる。そうなると、やはり「テレビ品質」というものが重要になりそうですね。現状で、安定的な放送を届けるのが難しい環境というのは、どういう部分になりますか?

長瀬:インターネットの回線自体が不安定な環境、というのが一番だと思います。AbemaTVにアクセスしてるデバイスの種類は、推奨している環境も、そうでない環境も含めると、大体月に2,000以上という数字になります。ゆくゆくはそのすべてに対応しなければならないのですが、そのほとんどがAndroidなので、まずはそこで安定した視聴体験を提供する、ということがテーマとしてあります。

――技術革新は、コンテンツにも影響すると思います。開発の立場から、今後どんな番組が生まれることに期待していますか。

長瀬:生放送番組の遅延が現在、だいたい20~30秒ほどあります。最近の生配信のプラットフォームだと、だいたい2~5秒くらいになっており、このように遅延を解消していくことで、よりインタラクティブに、ユーザーの反応が番組の面白さに反映していく番組ができると思います。僕らはあくまで「番組」という形態でやっていくわけですが、やはり、ユーザーとのインタラクション、コミュニケーションでコンテンツの内容が変わっていくような部分は、インターネットならではの面白いものだと考えているので、今後、そういう企画へのチャレンジは増えていくのではと。

      

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