草なぎ剛×藤木直人が最後に見せた笑顔の輝き 『嘘の戦争』最終回を振り返る

 草なぎ剛主演ドラマ『嘘の戦争』が最終回を迎えた。嘘に騙され、嘘に苛立ち、嘘に笑い、最後は嘘に救われる。復讐に取り憑かれた詐欺師・一ノ瀬浩一として、途方もない苦しみと葛藤を表現してきた草なぎだったが、最終回で見せた優しさ溢れる笑顔に多くの視聴者が賛辞の声を上げている。

 公式HPなどのメインビジュアルで主要キャラクター全員が赤い衣装に身を包んでいることが示唆していたように(アバンタイトルでは草なぎだけが黒)、登場人物全員が“真っ赤な嘘”をついていた。浩一、ハルカ(水原希子)、百田(マギー)、カズキ(菊池風磨)の詐欺師グループが嘘をつくのは勿論のこと、自身の罪を覆い隠した二科興三(市村正親)の罪深い嘘、その息子・晃(安田顕)、隆(藤木直人)がついた会社のため、家族のためについた嘘、ドラマ前半部では嘘に縁がないと思われていた楓(山本美月)、三瓶(大杉漣)がついた優しい嘘まで、誰一人として嘘をつかない人間はいなかった。

 第9話の最後では、百田とカズキの裏切りにより詐欺の証拠を掴まれ警察に追われる身となった浩一。浩一対二科家の戦争は、二科家の有利に進むのかと思いきや、百田とカズキの裏切りさえも浩一の計算通りだったことが、冒頭で明かされた。ハルカを含めた4人のチームワークが抜群だっただけに、この事実に胸をなでおろした視聴者も少なくなかっただろう。ニシナコーポレーションの機密データをカズキが盗み出し、更には30年前の事件の実行犯である六車(神保悟志)が、三瓶の見事な嘘によって警察に逮捕されたことから浩一の復讐完遂は目前に迫っていた。

 浩一は機密データとの引き換えに、二科興三に30年前の事件の謝罪を要求する。これだけ追い込まれているにもかかわらず、「設計データを盗みだし、脅迫するような人間の要求には従えん」と抵抗するのが二科興三という男。自身が犯した罪の重さを、浩一の苦悩を理解しようとしない興三の高慢な姿に、浩一と同じように憤りを感じた視聴者も多かったことだろう。しかし、興三がそう答えるのも浩一の読み通り。興三の一番大切な存在・娘の楓を小屋に監禁し、要求に応じなければ小屋の爆弾を爆発させるという更なる脅しをかけたのだ。ようやく要求に応じて事実を語りはじめた興三だったが、「すべては部下が勝手にやったこと」とこの期に及んでもなお、嘘をつき続ける。更には「お前の父親が正しい人間のはずがない!」と。顔の半分以上が影に覆われ、その眼光が人あらざる者に見える照明技術も見事だったが、これほどまでに憎むべき存在として、興三を体現させた市村正親の演技には凄まじいものがあった。

 本ドラマが復讐譚として成立したのも、興三という巨悪があってこそ。浩一の哀れみを体現し続けた草なぎの演技はもちろんだが、その哀れみが引き立ったのもベテラン俳優・市村正親の存在があったからだ。そして、浩一と興三の間で板挟みにあう隆を演じる藤木直人の演技も秀逸だった。自身に罪はないのに、会社のため、家族のため、興三の嘘を引き受けた隆。一方で、浩一の苦しみを理解もしている。ドラマ内で描かれることはなかったが、人知れず浩一と同じほどの苦悩を抱えていたのかもしれない。

 興三の聞き分けのなさに、浩一は楓が監禁されている小屋を爆発させる。が、それはあくまでフェイク。楓はすでに別の場所におり、浩一の復讐に手を貸していたのだ。それを知らない興三はようやく観念したように懺悔をはじめ、これで復讐も完了……と思ったのもつかの間、警察が取り囲み、浩一は一転窮地に立たされる。そして、そこに警察と共に現れたのは、晃だった。晃は浩一をナイフで刺し、浩一は崖から転落。浩一の生命は絶たれたと思われた。が、これもすべて浩一の台本通りだったのだ。楓が実は生きているのでは? 晃が最後に凶気にかられるのでは? このあたりはドラマを見続けてきた視聴者にとっては、予想できる範囲だったかもしれないが、晃と浩一がついた最後の嘘は見抜くのが難しかっただろう。

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