米国で映画のテレビドラマ化が相次ぐ背景とは? 9月から『マイノリティ・リポート』も放送開始

 近年は、とりわけ有名映画のテレビドラマ化が相次いでいる。「サイコ」の前日談を描いた「ベイツ・モーテル」、レクター博士の若き日を描いた「HANNIBAL/ハンニバル」、コーエン兄弟の「ファーゴ」をベースにした「FARGO/ファーゴ」など、枚挙にいとまがない。先日もデンゼル・ワシントンがオスカーを受賞した サスペンス・アクション「トレーニング デイ」のテレビドラマ化が発表され、9月から放送開始の新番組としてSFサスペンス「マイノリティ・リポート」のドラマ版が注目を集めている。その背景にある事情とは何なのか。

 そもそもアメリカのテレビドラマは、放送権、DVDリリース、動画配信を含めてワールドワイドにセールスを展開することを常に視野に入れているので、国際的に知名度が高いヒット映画の知名度を利用することは常套手段だ。加えて、00年代以降、映画界のビッグネームが次々とテレビ業界に本格的になったことは、テレビ業界に多くの映画界の才能ある人材を呼び込むこととなり、格段に技術がレベルアップした。同時に、世界でも類を見ないほどケーブルネットワークが発達したアメリカでは、90年代後半からケーブル局のオリジナルシリーズが台頭。表現などの規制や視聴率の合格ハードルが高く、万人向けの番組を強いられる地上波(日本の民放にあたる)と違い、表現の自由度が格段に高いケーブル局、とりわけ有料チャンネルの最大手HBOは映画界との強いコネクションを生かし、圧倒的にクオリティの高い番組を生み出した。

 映画人の流入に、ケーブル局の映画に並ぶ質の高い番組作りは、結果としてテレビ業界全体の質の底上げを促進。さらに08年のリーマンショックにより、映画業界から多くの人材がテレビに流れたことによって、テレビの現場はかつてないほどの高い技術レベルを誇るようになった。こうした質の向上により、映画でしかできなかったスケール感のある映像世界や、密度の濃いドラマ作りがテレビでも可能となり、映画のテレビドラマ化にも拍車がかかったのである。もちろん、万年ネタ不足であることは言わずもがなの第一の理由で、「CSI:」シリーズや「NCIS」シリーズのようにフランチャイズ方式で、本家の人気にあやかり類似番組を軌道に乗せるやり方が増えていることにも、それは顕著だ。これは映画界のリメイク、リブート流行りと似た状況と言えるだろう。

 だが、映画でも単なるリメイクは不発に終わることが多いのと同じく、テレビでも知名度があるからこそ、視聴者の期待もいやが応にも上がる有名映画のテレビドラマ化はハードルが高く、失敗例が多い。企画だけなら毎シーズン複数あるし、パイロット版を作ったものお蔵入りとなった作品も少なくない。

 ポシャった番組の代表例としては、80年代の大ヒット映画「ビバリーヒルズ・コップ」の主人公アクセル・フォーリー刑事の息子を主役にした「Beverly Hills Cop」(13)がある。映画で主演をつとめたエディ・マーフィー御大も参戦したにも関わらず、シリーズ化は見送られた。放送局は米3大ネットワークのひとつ、CBS。ここ10年以上、最も多くのヒットシリーズを安定して供給している同局は、それゆえ新番組の合否のハードルが非常に高いことでも知られている。他局だったら打ち切りにならないレベルの結果を出したとしても、あっけなくキャンセルされる作品は多々あるが、作り手にとっての難関は、やはり万人受けを求められる点だろう。

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