次世代ロック研究開発室・石川大氏が語る、“尖った才能”との出会い方「大切なのは気づく力と描く力」

次ロック研・石川大氏が語る“音楽の未来”

 昨年、ソニー・ミュージックエンタテインメント内に発足した〈次世代ロック研究開発室〉。6月14日には、初のレーベルイベント『第一回研究発表会』が新宿LOFTで開催され、Creepy Nuts、CHAI、Survive Said The Prophet、w.o.d.、The Songbards、ムノーノ=モーゼス、ムツムロアキラ(ハンブレッダーズ)が出演した。今回リアルサウンドでは、同マネジメント&レーベルの発起人であり、次世代ロック研究開発室プロデューサーの石川大氏にインタビュー。現在の音楽シーンの中で新たに同部署を立ち上げた経緯から、次のシーンの担い手になるであろう所属アーティストについて、また、音楽を生み出していくスタッフやレーベル、アーティストの在り方、これからの音楽シーンへの期待についてじっくりと話を訊いた。(編集部)

 ミュージックマンにとって楽しいと確信できる場所を次ロッ研で作りたい

ーーまずは次世代ロック研究開発室(以下、次ロッ研)の成り立ちから聞かせてください。

石川大(以下、石川):2015年当時、担当していたバンドのツアー中に、レーベル代表と二人で打ち上げに行く機会があったんです。そこで、「なんか悩んでるじゃん」と言われまして。自分ではそんなつもりはなくても、顔が曇っていたらしいんです(笑)。それで「やりたいことがあるなら、企画書を持ってこいよ」と言われ、自分を見つめ直すところから始まりました。
 もともと僕は尖った音楽が好きで、そういう音楽、ミュージシャンを世に送り出したいという気持ちでソニーミュージックに入社したのですが、昨今のメジャーレーベルにおいて、アーティストの力だけで売り上げを立てるのは、非常に難しい時代に突入しているなと思って。ただでさえ、「バンドは形になるまで3年くらいかかる」という認識があるなかで、売り上げが評価のすべてになっていたら、なかなかトライもしづらい。だから、“そういう場所”を作らせてほしい、という企画書を書いたんです。そして2016年4月、まずは「NL準備室」という名前でスタートしました。「NL」というのは、ニューレーベルのことですね。とは言え、僕はレーベルだけをやる気はまったくなかったのですが。

ーーつまり、マネジメント機能も備えることを最初から構想していたと。

石川:そうですね。当時約10年間担当していたバンドについてもレーベル内で事務所の機能を持って自分でマネージャーもやっていましたし、僕がやろうとしていたことはトータルな音楽ビジネスであって、それにはレーベルもマネジメントもすべて含まれるんです。音源ビジネスだけだと立ち行かなくなっているという状況も踏まえて、全部やろうと思っていました。

ーーそして、尖った音楽を世に送り出すためには新しい座組みが必要だった。

石川:正しい例えかどうかわかりませんが、製薬会社で新薬を開発している研究員の方は、基本的にそのことだけに時間を注ぎ込んでいると思うんです。僕たちもそういうふうに音楽と向き合わないといけないよな、と。もちろん、いずれはきちんと売り上げを立てなければいけないのですが、まずはミュージシャンたちと、そういうピュアな気持ちで向き合わなければ、いいものは生まれないと思ったんです。

ーーそういう気持ちを注ぐべきアーティストが揃っていると思いますが、例えばCHAIはどういうところに惹かれましたか?

石川:圧倒的な個性ですね。あの子たちにしかできない、替えがきかないものを持っている。「替えがきかない」というのは、僕のなかで不可欠なキーワードです。あるライブに別のバンドを観にいったときに、たまたまCHAIが出ていて、一発でやられました。感性も表現も、それを音楽としてどう体現するかも含めて、ぶっちぎっていたんです。それで、その日のうちに声をかけて。

ーーSurvive Said The Prophetのボーカル、Yoshさんもあまり日本にいないタイプのパフォーマーで、強い個性を持っていますね。

石川:そうですね。人間的な魅力も含めて、「こいつら絶対に“やらかす”な」と思ったというか。僕は以前、U-Project(インディーズでレーベル&マネージメントを手掛ける、ソニー・ミュージックエンタテインメント SDグループ内の部署)に所属していたんですけど、その時に出会ったSiMのMAHに近い印象ですね。これは感覚でしかないんですけど、仕事を始める以前も含めて、友人や先輩、後輩などとも、そういう目線で付き合ってきたと思います。ミュージシャンもあくまで人間として、同じ延長線上に見ているというか。

ーー仕事を始めてからはどうでしょうか。例えば、石川さんはキャリアの初期に、JUDY AND MARYを担当していたそうですね。

石川: JUDY AND MARYの現場には最初、アシスタントとして入ったのですが、それがちょうどラストアルバム『WARP』の制作中でした。いま振り返ると、特にYUKIさん、TAKUYAさんに影響を受けたなと思いますね。とにかく音楽に向き合う姿勢がピュアなんです。
 例えば、YUKIさんがソロになってからの1stアルバム(『PRISMIC』)に「プリズム」という曲があるんですけど、その歌詞が「できた!」って夜中の12時過ぎに電話がかかってきたんです。26、7歳のアシスタントの僕に、泣きながらですよ。振り返れば、一緒に音楽を作っているスタッフは全員、チームというかファミリーのように付き合ってくれていたなと。そんな環境で最初に仕事ができたことは、とても大きな経験になりました。

ーー当時から15年ほどが経ち、CDの売り上げやサブスクリプションサービス、ライブを中心としたマーケットの拡大など、音楽業界全体には変化がありましたが、どのように捉えていますか?

石川:ひとつにはインターネットがこの20年の間に一般に普及して、音楽の伝わり方、聴き方が変わり、リスナーにとっては音楽がより身近なものになったと思います。音楽の楽しみ方も変わっているから、伝え方を変えていかないといけないなとは思いますね。また、これはあくまで個人的な見解ですが、音楽業界の変化に伴って、ある意味で音楽の本質が置いてけぼりになってしまっている感じがします。

ーー石川さんが考える「本質」とは。

石川:時代を変える可能性すらある音楽を作り、パフォーマンスできるミュージシャンをまずは見極めること、そして彼らがいかんなくその力を発揮出来る環境を用意することだと思います。音楽が聴き手にとって大切なものになるように、僕らスタッフも含めたミュージックマンにとって楽しいと確信できる場所を次ロッ研で作りたいと考えています。

ーー次世代ロック研究開発室という名前について、「ロック」という言葉にはいろいろな捉え方があると思いますが、その真意はどのようなところでしょうか。

石川:シンプルに、自作自演ができて、しっかりとライブパフォーマンスができることです。ジャンルとしてのロックではないですね。部署の名付け親は現代表でこれは余談ですが、当時映画の『シン・ゴジラ』が話題になっていて、作中でゴジラに対して作られた対策委員会が“巨大不明生物特設災害対策本部”、通称“巨災対(きょさいたい)”だったんですよ。それになぞらえて“次世代ロック研究開発室”、略して“次ロッ研(じろっけん)”(笑)。

ーー『シン・ゴジラ』がひとつのインスピレーションのもとになっていたのですね(笑)。次世代ミュージシャンを発掘、応援する番組『次世代ロック研究所』(テレビ神奈川/毎週土曜日22:30〜23:00)が6月からスタートし、主催イベントの第1回目も開催されましたが、2017年はどんな展開を描いていますか?

石川:今年は、各アーティストがそれぞれ自分の立ち位置をより明確にしていく1年だと思っています。次ロッ研は、いろいろなアーティストが自分のレーベルを持って動いていく、その集合体の総称として考えていて。例えばCHAIは〈OTEMOYAN record〉というレーベルを立ち上げてすでにスタートを切っていますし、Creepy Nutsは〈クリーパーズ〉というレーベルを立ち上げ、8月2日にメジャーデビューシングルとして『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。』をリリースします。
 レーベルというものの考え方が変わっていかなければいけない時代だと思うんです。時代とともにメジャーレーベルが百貨店化の傾向にありますが、その一方である部分専門店であるべきだと。もっと言えば、レーベルはアーティストに紐付いていく時代かなと考えています。ポイントはあくまで、アーティストが作った音楽がよりよく伝わる形になっているかどうか。Creepy Nuts、CHAI、Survive Said The Prophetの3組を見ていただければ、次ロッ研に音楽ジャンルのこだわりはないということは明解だと思いますが、才能ある人たちが、その才能をきちんと発揮できる場になっていれば、組織の形はそれに伴ってあればいい。あくまでも主役はミュージシャンで、そのなかで名物スタッフも生まれれば面白いですね。

ーーアーティストがそれぞれの立ち位置を明確にしていく、ということですが、例えばCHAIの場合は、どんな存在になってほしいと考えていますか。

石川:日本の音楽シーンにはいつも女の子のミュージシャンのアイコンがいるじゃないですか。YUKIだったり、木村カエラだったり、きゃりーぱみゅぱみゅだったり。水曜日のカンパネラのコムアイもそうですよね。CHAIは次のそれになって欲しいと思っています。

ーー彼女たちは、いい意味でこれまでの女性ミュージシャンのアイコン像をひっくり返しそうな気がします。

石川:そうですね。でも僕らは変な意味でプロデュースみたいなことはまったくしていないんです。彼女たちは全部自分たちでできてしまうんですよね。だから僕たちはうまく寄り添うことが仕事だというか。“引っ張っていく、導く、連れてく”ではなく、“寄り添う”方が、才能がある人との仕事の仕方は合っていると思います。YUKIはまさにそうでしたね。

ーー“寄り添う”とは、具体的にはどのようなことでしょうか。

石川:まずは、人間的な信頼関係を築くことです。僕たちはミュージシャンが作った音楽をよりよく伝わるようにしていく上ではアドバイスをするときもあります。ただ、それをどう選び取るかは委ねる。基本的には、ミュージシャンを信じることですね。ただ決して他人任せ、という意味ではありません。

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