モーモールルギャバンが語る、葛藤と向き合った2年間「才能なんていうのは主観でいい」

モーモールルギャバンが語る、2年間の葛藤

 ライブ活動休止からの復活や移籍を経て、3人の爆発的で破天荒なパワーをより多彩な色を持った饒舌な音楽へと落とし込み、前作『シャンゼリゼ』で新たなロックミュージックの扉を開いた、モーモールルギャバン。そこから2年。完成したニューアルバム『ヤンキーとKISS』は、さらに無邪気に音とリズムと、そして歌と向かい合った、シンプルな力強さを持つ作品となった。シンプルでいて、噛むほどにタフであり、エモーショナルな歌心や感情の裏表がじわりと染みだしてくる、マジカルなアルバムでもある。鍵盤とドラムとベースの3ピースで、どうロックに奇想天外に攻め、深みある作品を生み出そうとしたのか。その心意気や、今モーモールルギャバンが思う音楽やライブのあり方についても、話を聞いた。(吉羽さおり)

 ゲイリー「曲は作ろうと思って、作っていない」

ゲイリー・ビッチェ

──ニューアルバム『ヤンキーとKISS』が完成しました。フルアルバムとしては『シャンゼリゼ』以来2年ぶりで。『シャンゼリゼ』は音楽的な面で様々な試みや野心を持って作られた作品でしたが、今作はそれがより洗練され、進化を遂げた作品だと思いました。今作は、アルバムとしてどう向き合っていったのでしょうか。

ゲイリー・ビッチェ(以下ゲイリー):アルバムとしてどう向き合っていったかというよりも、人間、ゲイリー・ビッチェとして淡々とドラムであり、歌であり、言葉でありを磨き続けた──毎日磨き続けたら、こういう作品を神から授りましたという実感がありますね。また、名盤を作ってしまったなと。

──自分に向き合ったのは、何が大きかったのですか。

ゲイリー:何がというよりも、プロの音楽家としてシンプルなことしかやっていないので。毎日言葉と向き合って、ドラムと向き合って、歌と向き合って、日が暮れたら酒を飲んで、読書をしてみたいなね。スナフキンみたいな生活を、今のところ許していただいているので。そればかりやるのもいいかなと思ったら、思いの外、歌もドラムも上手くなりすぎちゃって。

T-マルガリータ(以下マルガリータ):(笑)。

ユコ=カティ(以下ユコ):盛るねえ。

ゲイリー:作詞家としても成長しすぎてしまって。バイトしながらだったらこれは10年かかるだろうなというところを、1年でできちゃった実感はあるので、ラッキーだなと。

──それほど凝縮した時間だったと。そのなかで、30代のリアルな葛藤や悲哀をひしひしと描くリードトラック「ガラスの三十代」も生まれたわけですね。

ゲイリー:葛藤しながら進んでいくしかないですからね。10代は不自由だし、20代は不安ばかりで、30代でそういうところからは吹っ切れたけど。吹っ切れると人生をポジティブに受け入れられるようにはなるけど、全然ラクじゃねえよ、ばかやろうって(笑)。わめき散らしている感じです。

T-マルガリータ

──今、この心境を書こうとなったのは。

ゲイリー:作詞をする上で、ひとつ徹底的なポリシーがあるんですけど。何かを言おうとは、絶対にしないようにしていて。自分の心のなかから湧き上がってくる言葉を、丁寧に飲み屋で拾い集める作業をしていて。

ユコ:飲み屋で……。

ゲイリー:酔っ払って、自分の奥底のドス黒さやクズさがドバドバ出てくるのを、すかさずスマホに記録し続けて。それをシラフで構成したら、いつのまにかできているんですよ。作ろうと思って、作っていないんですよね。そうやって書くのがいちばん、自分にとっては健全なやり方だなと思うんです。根本的に説教くさい人間なので、何かを書こうと思ったら絶対に説教臭くなっちゃうんですよ。音楽に説教されたくないじゃないですか。そうならないようにするには、自分自身の、“クズなんだけど、もしかしたら美しいのかもしれない”みたいなところを一つひとつ、丁寧に摘み取っていくしかないんですよね。しんどいですけどね。

──飲み屋で吐き出したものが、自分のスマホにどんどんインプットされるわけじゃないですか。そこを改めて開く瞬間って、落ち込んだりしません?

ゲイリー:落ち込みますよ! 落ち込むし、さすがにここまで書いたらいかんと思って、シラフの時に書き直すんです。ただ、酔っ払って見直して、また元に戻るんです。

マルガリータ:戻しちゃうんだ。

ゲイリー:一回シラフで直したものが、酔っ払いによって元に戻されたら、「そうだよな。シラフの時の俺は面白くないのは、わかるよ。酔っ払ってる俺」って、ひとり二重人格を自ら作り出して。最終的には、酔っ払った時の俺の声も十分に尊重しつつも、あくまで人として、シラフで決着つけないとダメだろうという真面目さがつい出てしまうところが、モーモールルギャバンの説得力かなと思います。

ユコ:わたしを含めないで、そこに(笑)。

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