AKB48、きゃりー、Shiggy Jr.ーーJ-POP界に定着した「ハロウィンソング」の現状とは?

変わらないクリスマス、政権交代のバレンタイン、空白地帯としてのハロウィン

 多くの人に長く聴かれる楽曲をどうやって作るか。シンプルだが非常に難しいこの問いに対する一つの回答として考えられるのが、「シーズンソングを作る」というやり方である。「この季節・このイベントと言えばこの曲」という形で人々の心に定着することで、その楽曲は定期的に思い出されるようになる。たとえば山下達郎の「クリスマス・イブ」はその典型例で、1983年の発表以来様々な形で繰り返しリリースされており、「4つの年代(1980・1990・2000・2010年代)でオリコントップ10入り」という時代を越えた広がりを見せている。

 「クリスマス・イブ」と並んでクリスマスソングの定番となっているのがマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」(1995年)とワム!の「ラスト・クリスマス」(1984年)。3曲どれもが素晴らしい楽曲であるのは間違いないが、クリスマスのBGMが20年間更新されていないということについては少し不思議な気持ちになる。大規模な調査で選ばれた代表的なクリスマスソング10曲の顔ぶれを見ても(http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001087.000007006.html)、2000年代に入ってからリリースされたものは桑田佳祐「白い恋人達」(2001年)、竹内まりや「すてきなホリデイ」(2001年)、BoA「メリクリ」(2007年)のみ。2010年代以降の曲は1曲もない。クリスマスの過ごし方が多様化する中で、音楽を通じて最大公約数的な価値を提示することが難しくなっているのかもしれない。

 一方で別の季節行事に目を向けてみると、バレンタインデーに関連する楽曲についてはここ数年で主要なBGMが国生さゆり「バレンタイン・キッス」(1986年)からPerfume「チョコレイト・ディスコ」(2007年)にスライドした印象がある。最初の「政権交代」まで実に20年以上の時間を要したことやPerfumeの人気がまだまだ健在であることを考えると、しばらくは「チョコレイト・ディスコ」の天下が続く予感がする。

 一度その席を確保すると長期的に聴かれる(そしてメディアで使用される)傾向のある「シーズンソング」は、その構造ゆえ新たに「定番」としてエントリーすることが難しい。そんな視点で考えると、ここ数年で唐突に盛り上がり始めたハロウィンというイベントが注目されるのは自然な成り行きである。「仮装することで自分もイベントの登場人物になれる」「それを写真に撮ればSNS映えする」という夏フェス(フェスTシャツや花冠)やサッカー日本代表戦(レプリカユニフォーム)と同じ構造で一気に定着したこのイベントは(奇しくも、ハロウィンもサッカー日本代表戦も渋谷のスクランブル交差点が「聖地」となっている)、「皆で集まってお祭り騒ぎをする」という音楽との親和性が高いシチュエーションでありながらまだ「テーマソング」というものが固まっていない。

 そんなホワイトスペースに、普遍的なポップスを志向する感度の高い作り手が集まるのは当然のことである。ハロウィンが日本において「街のイベント」として定着した感のある2015年、3つのアーティストが「ハロウィンソング」という舞台で競合した。

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