「音楽業界が厳しくても、音楽の需要は必ずある」ピーター・バラカンが提案するラジオの役割

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ピーター・バラカン氏がDJを務める『Barakan Morning』では、アナログ盤の片面をそのまま再生する「名盤片面」など、独自の試みもなされている。

 インターFMで編成改革を進める、同局の執行役員ピーター・バラカン氏インタビュー。後編となる今回は現在の音楽業界についても話が及んだ。CDが売れなくなり「音楽不況」と言われるようになって久しいが、一方ではSpotifyのような新しい音楽サービスも注目され始めている。現在の音楽を取り巻く状況について、ピーター・バラカン氏はどのように考えているのだろうか。

前編:ピーター・バラカンが語る、インターFM の音楽重視改革「僕らはリスナーのためにラジオを作る」

――近年の音楽シーンについて感じることはありますか?

ピーター:60~70年代のような時間もお金もかけて、ひとつの芸術のように作品を作り上げる、そういう作品が少なくなってきているように思います。デジタル技術がここまで発達すると、コンパクトな設備で誰もが気軽に音楽が作れるようになった。どんな音でも編集で修正できるし、技術的に完璧なものを作ることが誰にでもできるようになりました。じゃあそれが人の心に残るものになるかというと、そうとも限らない。最近のヒット曲を聞いていると「これは5年後も多くの人に聴かれているのかな?」と思うことがよくあります。60~70年代の音楽にはまだまだ物凄い力を持った曲が沢山あるけど、近年の楽曲、80~90年代のものですら、そういう曲はかなり少ない気がする。何が変わったのか…音楽的にやり尽くした感はなきにしもあらずだし、特に最近は寿命の長いアーティストがあまりいないのも気になる。時代性もあるだろうけど、金銭的な問題もやっぱり大きいんじゃないでしょうか。

――レコード会社がアーティストを支えられなくなってきた?

ピーター:レコード会社は80年代に大きくなりすぎてしまいました。特にMTVの時代にミュージックビデオを作るようになって、どのアルバムも制作費がものすごく高くなってしまった。レコード会社としてはそれを償却しなければならなくなってしまったので、どの会社にしても初めから売れると分かっているものしか出せなくなってしまったんです。するとどうしても無難なものばかりになってしまい冒険心がなくなる。ニッチだけど高い評価を受けるようなアルバムが出せなくなってしまいました。大手のレコード会社では多くの人を抱えられなくなってしまったので、現在では自分たちでやろうというミュージシャンも増えています。しかしそれでは潤沢なお金がないばかりに、作品自体が小粒なものになってしまうことが多い。歴史的に振り返って見ると70年代くらいまでは「売れているもので売れていないものを支える」という構造が、特にワーナーを中心にレコード会社にはあったのですが、今ではそんな余裕、レコード会社に若手に投資する余裕がなくなってしまいました。

――最近では「ライブで稼ぐ」という方法が注目されています。

ピーター:最近の傾向として、ライブの入場料が高くなってきているということが言えます。ミュージシャンからしてみればCDが売れない中で仕方ない部分もあるのかもしれないですが、やっぱりちょっと高額になりすぎていないでしょうか。お金に余裕のないファンから「観に行きたいけれど(金銭的な事情で)行けない」というようなメールが最近よく届きます。もうちょっと手頃な値段でライブを見られる仕組みができれば、もっともっと裾野は広がっていくと思うのですが、なかなか難しい。日本の音楽業界が抱えるひとつのジレンマかもしれませんね。

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