日本のテクニカルサポート拠点として20年超、デル・テクノロジーズ宮崎カスタマーセンター AIとエージェント統合で進化続く
パソコンやサーバーなどの製品を購入した後、ユーザーが困ったときに頼るカスタマーサポート。その舞台裏では、電話やチャットを通じて問題を切り分け、必要に応じて修理までつなぐ、多くのスタッフの仕事がある。デル・テクノロジーズの宮崎カスタマーセンター(MCC)は2005年11月の設立から20年の歴史を紡いできており、現在では日本のテクニカルサポートを支える主要拠点のひとつとなっている。
興味深いのは、ここで進められているのが単なる「AIによる業務効率化」ではないことだ。正社員を中心とした人材育成、顧客満足度を重視した評価制度、そしてAIやデジタルツールによるスタッフの支援。人とテクノロジーを組み合わせることで、サポート品質を高めようとしている。20周年を迎えた宮崎カスタマーセンター。その歩みと現在、そしてAI時代に向けた次の一手について、現地を訪れてセンター長の林田匡史氏に聞いた。
そもそも、なぜ宮崎にカスタマーセンターを設けたのか
林田氏によれば、その背景には2005〜2006年当時のテクニカルサポート事情がある。当時はサポート業務の一部が海外でもおこなわれており、「電話をすると海外スタッフが出る」というイメージが日本の顧客にネガティブに受け取られるケースもあったという。そこで同社は日本国内で日本語によるテクニカルサポートを行う拠点を全国で探していた。その候補として浮上したのが宮崎だったという。「当時、宮崎県がIT企業の誘致に非常に力を入れていました。自治体からの誘致活動が強かったことは、宮崎に拠点を置く大きな決め手のひとつでした」。
現在の宮崎カスタマーセンターが入る建物は、もともとデパートの「寿屋」があった場所。コールセンターに必要な広いフロアを確保でき、空港や駅へのアクセスが良いことも条件に合致した。そしてもうひとつ、林田氏が挙げるのが「人」の存在である。「宮崎は九州の中でも特に穏やかな宮崎弁を話す土地柄ですし、ホスピタリティ精神が高い。カスタマーサービスを始める場所として、そこも大きな理由でした」と振り返る。
もっとも、現在の社員の約半数は県外出身者だという。自治体による企業誘致、広いオフィス、交通アクセス、そして人材のホスピタリティ。複数の条件が重なり、宮崎という場所が選ばれた。設立から20年、現在のMCCは個人・法人向けのカスタマーサポートや営業を担い、日本のテクニカルサポート体制の一翼を担う。サポートは大手町、宮崎、パートナー各拠点が連携し、全国200を超える保守サービス拠点、1,200名以上のオンサイト保守エンジニア、18か所の保守部品配送拠点へとつながっている。
「社員満足度が顧客満足度につながる」という思考
24時間365日対応するカスタマーサポートにとって、働くスタッフの環境はサービス品質そのものにも直結する。MCCが20年間取り組んできたのが、ワークライフバランスと人材への投資だ。社員のバイオリズムを考えながらシフトを組むことや、社内にマッサージルームを設置するなど、働きやすい環境づくりにはずっと取り組んできたという。
またアンコンシャスバイアスのケアや、ジェンダーフリーに関するトレーニングもおこなう。こうした取り組みはグローバルにも展開され、2024年度には「宮崎市ワークライフバランス・女性活躍推進事業者表彰」も受けている。さらに特徴的なのが障がい者雇用だ。2012年にはフロア内に「キャリアサポートセンター」を開設。1年間をかけてビジネススキルや業務スキル、安定した就労習慣を身につけるプログラムを実施し、これまでに33名が参加している。修了後は「ビジネスサポートグループ」の一員として、各部門のKPIレポートやデータ転記などの業務を担う。こうした施策の根底にあるのは、社員の満足度を高めることが、そのまま顧客満足度につながるという考え方だ。
人材育成も同様である。MCCではサービス品質向上の柱として「正社員雇用」と「成果主義」を掲げる。毎年4月には約20名の正社員を採用。採用時にはテクニカルな知識以上にコミュニケーション能力を重視し、入社後は約6週間のトレーニングを実施する。「新人には先輩社員が隣について、段階的に独り立ちしていきます。マネージャーとの面談も2週間に1回行い、メンター制度も活用しています」(林田氏)
資格取得を会社が支援する制度や、国内外の社内公募に挑戦できる「オープンポジション制度」もある。職歴や学歴、性別などに関係なくキャリアアップの機会を提供する仕組みだ。また、社員同士がポイント付きで感謝を伝え合う「インスパイア」という表彰制度もユニークだ。送られた感謝の言葉は全社員にメールで共有され、誰がどのような仕事で評価されたのかが可視化されるという。単なる福利厚生ではなく、日々の仕事そのものを評価する文化につながっているそうだ。
AIは「人を減らす」ではなく品質を揃えるため
そして現在、MCCのサポート現場で大きく変わりつつあるのがAIとデジタルツールの活用だ。オンラインでは、バーチャルアシスタントがユーザーの症状を確認し、切り分けや修理手配をサポートする。顧客情報管理では生成AIを利用した「Gen AI Case Summary」が過去の障害や修理履歴を要約し、担当者がそれまでの経緯を短時間で把握できるようにする。
さらに「Next Best Action(NBA)」によって、現在の状況に応じて取るべき対応を支援。「Case Intelligence Dashboard(CID)」では複数のCaseを一括管理し、AIによって進捗や対応優先順位を把握、フォローアップのタイミングも確認できる。
ほかにも、機械学習によって目視では発見しにくいLCDの損傷を判定する「Visual Listening」、ARを使って内部パーツの交換方法を視覚的に示す「AR Assistant」など、さまざまな技術が導入されている。ここで重要なのは、AIがスタッフに代わるものとしてではなく、スタッフの対応を支援する存在として位置づけられている点だ。
「新人が7月頃から実際のコール対応を始めますが、AIの切り分けツールを使うことで、経験の浅い社員でもベテランに近い品質で対応できるようになります」と林田氏。AIによってベテランの経験を補完し、対応品質のばらつきを抑える。つまりAIは人材を置き換えるためだけの技術ではなく、人材育成を支える「教育ツール」としても機能している。
今後は、現在個別に存在するツールをセールスフォース上に統合し、情報収集から判断、対応までをよりシームレスにつなげていく計画だ。電話についてもAIボイスによる自動ガイダンスと音声認識を組み合わせ、顧客を適切な窓口へ案内する仕組みの導入が予定されている。
その先に見据えるのが、複数のAIを統合した「次世代サービスアシスタント(統合型エージェンティックAIモデル)」である。現在起きている事象だけでなく、過去の履歴や既存情報を自動的に収集・分析し、次に取るべき対応まで判断する。AIを単体の便利なツールとして使う段階から、サポート業務全体を支えるエージェントへと進化させようとしている。
「どちらでもない」を満足に変える、最後は人の仕事
とはいえ、AIを導入すれば顧客満足度が自動的に上がるわけではない。MCCでは約20種類のKPIを設定し、そのなかでも顧客満足度を最重要指標としている。サポート対応後には自動メールでアンケートを送り、現在は5段階で評価してもらう。ここにも日本市場ならではの難しさがあるという。「日本のお客様は『どちらでもない』という中間評価をつける傾向が強いんです。私たちは中間評価を満足とはみなしません」 (林田氏)。
普通だったを「満足」に変える。そのためにMCCでは、相槌の種類を20個覚えるといった細かなコミュニケーションのトレーニングまでおこなっている。さらに、顧客がどのように製品を使っているのかを聞いたうえで、質問されたことだけに答えるのではなく、もう一歩先の情報を提供する。それを同社では「お土産」と表現する。
「お客様の使い方に合わせて、こちらから付加価値を提案する。そういう『お土産』を持って帰っていただくような対応を心がけています」と語る林田氏だが、テクノロジーによって問題を効率的に解決する一方で、またデルに相談したいと思える体験に変えるのは人のコミュニケーションである。2年前には「未来的な空間に有機的な要素」をコンセプトにオフィスもリニューアル。フロアには本物の植物を多く配置し、社員が働く環境そのものをアップデートしている。
20年超という時間のなかで、カスタマーサポートを取り巻く技術は大きく変わった。しかし、宮崎カスタマーセンターが大切にしてきたものは意外にも変わっていない。人を採用し、育て、働きやすい環境をつくる。そして、その人の経験や判断をAIとデジタルツールで支援する。AIが高度化するほど、人の仕事がなくなるのではなく、人がより人にしかできない仕事に集中できる可能性も見えてくる。
デル・テクノロジーズ宮崎カスタマーセンターの20年を超える歴史は、カスタマーサポートが「電話に出て問題を解決する場所」から、「人とAIが協働して顧客体験をつくる場所」へ変わっていく過程でもある。次の20年、その中心にいるのはAIだけではない。宮崎で働く「人」そのものがより強く意識されることだろう。