AIが人間の認知機能に与える“ダメージ”とは 世界中で行われる「AIと副作用の研究」を解説
生成AIは、ChatGPTの登場以降、現在ではインターネット検索と並ぶ情報技術として普及しつつある。多くのユーザーが、仕事や趣味でこの技術の恩恵にあずかっていることだろう。
こうしたなか、様々な企業・研究機関から生成AI使用に伴う“副作用”が報告されるようになってきた。噛み砕いて言えば、生成AIを使うと“頭を使わなくなるので認知機能が劣化”するというのだ。そこで本稿では、生成AIの普及度を改めて確認したうえで、この副作用と対策を考察する。
企業のソフトウェア開発以外でもAIエージェント利用が増加
生成AIの普及度を確認するにあたっては、この技術を提供する大手企業のレポートを参照するのが適当だろう。OpenAIは2026年6月25日、同社の製品「OpenAI Codex」の利用状況をまとめたレポートを公開した(※1)。
OpenAI Codexとは、OpenAIが提供するAIエージェントである。同製品は、質問に答えるだけではなく、ユーザーが指示した認知的業務を遂行するというものだ。AIエージェントは、ChatGPTをはじめとする対話型生成AIの“後から来る波”として、生成AI普及の最前線を形成している。
2025年8月から2026年6月までのCodexのユーザー利用率推移を調べると、OpenAI社内では40%程度から、約98%まで上昇した。企業は1%から約17%、個人ユーザーはほぼ0%から0.7%に上昇した。このように、同製品は企業から普及が進んでいる。
Codexは、元々はソフトウェア開発者のコーディングを支援するために開発された製品であった。その後、ExcelやGoogleスプレッドシートと連携するようになって、開発者以外のユーザーにも普及するようになった。その結果、上記調査範囲におけるユーザー数は、企業ユーザーは189倍、個人ユーザーは137倍と指数関数的に増加した。
企業用生成AIではChatGPTと並ぶClaudeシリーズを開発するAnthropicも2026年6月16日、同社が提供するAIエージェント「Claude Code」の利用状況に関するレポートを公開した(※2)。
2025年10月から2026年4月までの約40万件のClaude Codeの利用履歴を調査した同レポートによると、コードの修正のようなソフトウェア開発用途の利用は33%から19%に減少した。その一方で、文章の執筆やデータ分析のようなソフトウェア開発以外の利用は、10%から20%に増加した。
OpenAIとAnthropicの各AIエージェントに関する利用状況レポートを見ると、企業におけるソフトウェア開発以外の用途でこれらのAIの利用が増加しているのがわかる。この結果は、企業活動がますます生成AIに依存するようになっている、と解釈できるだろう。
10分のAI利用で、計算力と忍耐力が大きく低下
前述のように、企業は生成AIへの依存度を高めている。こうしたなか注目されているのが、生成AIの利用に伴うユーザーの認知力劣化という現象だ。
認知活動の担い手をユーザーの知性から生成AIの処理へ外部化することから「認知の外部化」と呼ばれるこの現象について、Forbes JAPANは2026年6月18日に記事を公開した(※3)。
同記事によると、Anthropicは52人のソフトウェア開発者を対象として、生成AIツールの有無によってコーディングスキルに差が出るかどうかについて比較実験を行った。その結果、同一のコーディング課題について生成AIツールを使用したグループは、そうでないグループより2分早く課題を完了した。
その一方で、課題に関する理解度テストを実施したところ、AIツール利用グループの正答率は50%だったのに対して、非利用グループは67%だった。この結果は、生成AIツールの利用は業務効率化を実現するものの、そうしたメリットを打ち消してしまうほどの認知能力の劣化を招きかねないことを示唆している。
認知の外部化については、アメリカのカーネギーメロン大学らの研究チームも2026年4月、衝撃的な内容の論文を発表している。この論文は、以下のような比較実験の結果を報告している(※4)。
- 比較実験は、アメリカ在住の被験者354人に対して、15問の分数計算を行ってもらうというもの。
- 被験者のうちランダムに選ばれた191名は、答えを教えるAIを利用できた(AIの画面については、トップ画像を参照)。
- しかし、AIを利用できるのは12問までで、13問以降は自力で回答しなければならない。
- 被験者は回答を放棄する「スキップ」という選択肢も与えられた。
以上の実験の結果は、以下のグラフのようにまとめられる。「Solve rate over time」は正答率の推移を表しており、AI利用グループ(オレンジの線)ではAIが利用できなくなった13問以降、正答率が急降下している。
「Skip rate over time」は、問題をスキップした被験者比率の推移を表している。AI利用グループは、13問以降、スキップの割合が急上昇している。
分数計算は、1問当たり1分程度で回答できる。したがって、AI利用グループは10分程度のAI利用によって、計算能力と問題解決に要する忍耐力が著しく低下した、と解釈できる。
以上の報告から、生成AI活用は業務効率化をもたらす一方で、認知の外部化によって、ユーザーの認知能力を劣化させる可能性があると言える。