日本の若手ボカロPたちがタイ・バンコクのファンを興奮の渦に巻き込む——『AFA Thailand 2026』現地レポート
東南アジア随一の都市・バンコクのあるタイ王国は、日本や日本人とも非常に縁の深い土地である。日タイ関係の歴史は、タイ王国の前身まで遡れば約600年前から始まっているといわれており、当時の首都・アユタヤには日本人町が形成されていたという。令和の現在においても、経済・文化の両面で緊密な関係を築いている。
そんなタイ・バンコクで、日本のポップカルチャーを中心にしたアニメイベントが開催された。2026年5月30日・31日の二日間にわたって大きな盛り上がりを見せた『Anime Festival Asia Thailand 2026(以下、AFA Thailand 2026)』だ。同イベントは昨年からKADOKAWAグループの子会社になったシンガポールの企業・SOZO社が主催しており、タイでの開催は2017年以来、およそ9年ぶりの開催となる。
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📢 #SOZO 社 子会社化のお知らせ🌏🇸🇬
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東南アジア最大級のアニメイベント「アニメ・フェスティバル・アジア」(#AFA)やJ-POPトップアーティストの海外ライブを興行するSOZO(本社:シンガポール)を子会社化したことをお知らせします。▼詳しくはこちらhttps://t.co/kdPHDHMXVQ… pic.twitter.com/Co12Op65i3
— 【公式】KADOKAWA広報 (@KADOKAWA_corp) December 2, 2025
今回筆者は、『AFA Thailand 2026』に出演するドワンゴのチームへ帯同し、取材をおこなってきた。本稿では、イベントでDJとしてパフォーマンスを披露したさたぱんP、picco、吉田夜世のステージの様子や「Cho-BON Dance Japan powered by Dwango」の盛り上がりをお届けすると共に、タイにおけるVOCALOID文化や日本のポップカルチャーに対する反応についても分析していきたい。
開催地となったシリキット王妃国際会議場(クイーン・シリキット・ナショナル・コンベンション・センター)は、もともとIMF(世界銀行・国際通貨基金)の総会に向けて建設された建物だ。1991年の建設後、2021年にはリノベーションが行われ、2022年に再オープンしたばかりということもあって、モダンな外観に整った導線、駅直結という良好なアクセスが揃った施設になっている(なお、リノベーションは大林グループのタイ大林が担当しており、ここでも日タイ関係の縁深さが窺える)。
『AFA Thailand 2026』の正確な来場者数は不明だが、両日の午後〜18時頃まで会場にいた筆者の体感ではかなり盛況であったように思う。ドワンゴチームが出演する「niconico LIVE Stage」は入り口から入ってすぐの場所に特設のステージが配置されていたのだが、常に人の行き交いが途切れない様子だった。
この特設ステージ「niconico LIVE Stage」では、『ニコニコ超会議』などでも披露された「超ニコニコ盆踊り」の海外展開版「Cho-BON Dance Japan」が1日3公演、ボカロDJ3名によるDJパフォーマンスが1日1回ずつおこなわれた。入ってすぐに、あるいは会場を出る道中にステージがあるため、流れている日本のアニソンやボカロ楽曲、ニコニコユーザーお馴染みの往年の名曲たちに釣られて足を止める来場者も多かった。
「Cho-BON Dance Japan」は日本舞踊家・孝藤右近が監修する“新しいライブフォーマットのお祭り”で、右近氏のガイドにあわせて観客が盆踊りの振り付けを真似し、アニソンやボカロ楽曲に合わせて踊るというもの。ある種のエクササイズ感もあり、観るだけのライブでなく一緒に踊り、盛り上がりの輪を作るイベントとして来場者たちをバッチリ楽しませていた。言語が通じなくとも一種のボディランゲージとして踊りが機能することで一体感を感じられ、盆踊りという日本の文化に触れることができるという点で、これほど海外遠征向きな演目もないだろう。
またステージのプログラムにも工夫が見られ、基本的には「Cho-BON Dance Japan」とDJパフォーマンスが交互におこなわれ、「Cho-BON Dance Japan」チームのDJ・Mr.秋葉原ササキチから次に出演するボカロPへのバトンが渡される形になっていた(このあたりの、筆者が昨年から『AFA』におけるドワンゴの取り組みを取材してきて感じた工夫や変化については後述する)。
初日のボカロ組トップバッターとして登場したさたぱんPは、「ぽっぴっぽー」や「みっくみくにしてあげる♪」「ワールドイズマイン」のEDMリミックスなど、ボカロ界におけるクラシックともいえる名曲たちで来場者の心をわしづかみにしつつ、ネットミームの影響で海外認知も高い「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」でバッチリ盛り上げる。マイクパフォーマンスも挟み、十分に盛り上がったところで自身の新曲「On My Way」に繋げるなど、彼の得意とする「喋る、煽る、盛り上げるDJスタイル」で強烈な印象を残した。
続いて登場したpiccoは、『AFA』への出演経験もあるKMNZをフィーチャリングした「獣謳無尽」や「Tokyo Future Girl」「Melty Magic」などの代表曲を名刺代わりとばかりに披露するとMoe Shop「WWW」、Giga「劣等上等」など、自身の音楽的ルーツにも通ずるアーティストたちの楽曲たちを披露。所属レーベルであるNEXTLIGHTのコンピアルバムに収録された「アイニド」など、自身の音楽的志向を誰にも伝わる形で披露し、標榜するHyper kawaii Musicを体現した。気負うわけでもなく、あくまで自然体で堂々と楽曲を繋いでいく姿は、さすが現場の経験値が豊富なだけある。
ちなみにこの二人は30日・31日の夕方からは会場メインステージにもスペシャルフィーチャー枠で登場。ここではさたぱんP、picco共に人気のアニソン楽曲や「千本桜」など、よりニコニコのカラーを強めたセットリストを披露していたのが印象的だった。筆者の目には、ドワンゴチームを代表して、「Cho-BON Dance Japan」の分までメインステージを盛り上げていたようにも見えた。
そして、ステージの両日でボカロ組のトリをつとめたのは吉田夜世。Billboardの2024年「年間ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20」で首位に輝き、現在YouTubeで1億回以上の再生回数を誇る「オーバーライド」で大ヒットを記録。昨年夏のYouTube Music Weekendで披露されたスペシャルプログラム「VocaNova Presented by The VOCALOID Collection」にも登場するなど、現在のボカロシーンを語る上で欠かせないPのひとりだ。
吉田は今回のステージをボカロ楽曲中心のセットリストで組み立てており、自身のメガヒット曲「オーバーライド」はもちろん、交流のあるボカロPたちの楽曲を採用。仲間たちをフックアップするような狙いも見られた。また二日目には「Cho-BON Dance Japan」チームに触発されてか「マーシャル・マキシマイザー」「アイデンティティ」の“盆踊りRemix”を流すなど、ここでもドワンゴチームの一体感を感じられた。
今回、筆者は現地で人気のインフルエンサー、そして二日間、AFAのメインステージの司会を務めたAki Yamaguchiさんに、タイにおける日本カルチャーの人気について話を聞く機会を得た。タイと日本のハーフで、タイと日本を行き来する彼女から見て、ボカロPたちのステージはどのように映ったのだろうか。感想を聞いたところ、やや興奮気味に「タイでパーティやりましょうよ!」という言葉が返ってきた。
@aki_yamaguchi Hyper Kawaii Music DJ picco ! ใครชอบดีเจสายน่ารัก vocaloid และ สายโอตะ ต้องชอบเธอแน่นอน! มีโอกาสได้พูดคุยกับเธอในงาน AFA! DJ picco brings Hyper Kawaii Music vibe to AFA Bangkok! If you love Kawaii and Vicaloid, she is the one! #vocaloid #picco #jpop #jmusic ♬ original sound - Aki Yamaguchi
Akiさんいわく、タイにもボカロ好きはたくさんいるが、そういった人たちが集まれるイベントは少ないのだという。内輪の小さなイベントならば音源を流すだけでも楽しめはするが、やはり日本のボカロPたちがこうして現地に足を運んで、DJセットを披露してくれるのは特別感もある。
くわえて、今回のステージではボカロ楽曲だけでなくVTuber楽曲なども披露されており、ボカロファンの多い世代だけでなく、Z世代などVTuberファンの多い世代にもしっかり刺さっていたようだと補足してくれた。VTuberも「歌ってみた」動画などを通してボカロ文化を広めていて、その影響で少し古い楽曲でも反応しているファンが多かったようだ。
『AFA』を始めとするアニメイベントのライブステージが大盛り上がりになる理由もそこにあり、「日本からボカロPや人気のアーティストが来たときは踊って楽しめる貴重な機会」なのだと教えてくれた。「Cho-BON Dance Japan」についても、ニコニコ動画のことを知っている人はもちろん、Z世代の若者たちなど、知らない人でも気軽に楽しめるフォーマットであったことが好印象だったという。
タイで一般的に人気の音楽ジャンルでいうと、王道のポップスにロックやHIP HOP、EDMなどをミックスした楽曲が中心のようで、J-POPに関してはアニメの主題歌やアイドルの楽曲が特に人気とのこと。J-POP、タイのT-POPを問わずSNS経由でヒットする例が多く、アニメ楽曲についても先にSNSで流行することの方が多いそうだ。
@aki_yamaguchi SatapanP DJ สาย Vocaloid สายอนิเมะและโอตะ Aki มีโอกาสได้สัมภาษณ์พูดคุยที่งาน AFA ค่ะ SatapanP! If you love vocaloid and anime, he is the DJ for it! I got to meet and interview him at AFA. #vocaloid #satapanp #jpop #jmusic ♬ original sound - Aki Yamaguchi
ちなみに、ボカロ以外のサブカルチャーもずいぶん浸透しているようで、アニメやゲーム、音楽だけでなく「ギャル」文化やヴィジュアル系、ファッションなど、日本のさまざまな文化がタイで受け入れられているそうだ。特に、コロナ禍の時期にさまざまな日本のコンテンツをタイ国内で楽しめるサービスが普及し、更に認知が高まったのではないかと、Akiさんは分析する。
筆者は昨年からドワンゴの国際クリエイター連携プログラム「Asia Creators Cross」の取り組みを追いかけてきているが、2026年度最初の遠征として、『AFA Thailand 2026』公演はこれ以上ない結果を出したように見えた。
現地の盛り上がりはもちろん、昨年から何度か顔を合わせていた結果高まった「Cho-BON Dance Japan」チーム&ボカロPチームの結束。そしてそれぞれの出演者に蓄積された経験値など、通年を通して取り組んできた結果がしっかりと芽を出して、花開き始めている。
出演した3名のボカロPたちによる鼎談でも、昨年の出演から得た学びを活かしたステージ作りに取り組んでいると話しており、次に彼らが出演するオーストラリア「SMASH!」やロサンゼルス「Anime Expo」のステージにも期待が持てる。
さらに「ACC」を通じてさたぱんPやpicco、jon-YAKITORYなどのメンバーが海外の著名プロデューサーたちとコラボを行うという情報も出てきている。「ACC」3年目の取り組みはさらに規模の大きなものになりそうだ。ここからの展開も、引き続き追いかけていきたい。
■「Asia Creators Cross」について
日本のクリエイターが世界で、世界のクリエイターが日本で、相互に活躍できる機会の創出を目的としたクリエイター連携プログラム。
今後も、世界中の影響力のあるさまざまなイベントを通じて、クリエイターがより多くのファン、共に制作を行う仲間、クライアントとボーダレスに出会える場を広げ、コミュニティの構築やリソースの共有、ネットワーキングを促進していきます。
■関連リンク
さたぱんP X:https://x.com/satapanpi
picco X:https://x.com/picco_xxx
吉田夜世 X:https://x.com/otgys
Aki Yamaguchi X:https://x.com/Akinoyuutsu
『The VOCALOID Collection』&『Asia Creators Cross』特集はこちら
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