運営スタッフは全員ボランティア ユーザー主導のスマブラ大会『篝火』、異例の幕張メッセ開催を叶えた原動力
誰もが一度は遊んだことがあるゲームの一つ『大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ(以下、スマブラ)』。その最新作『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』は、2021年12月を最後にアップデートを終えている。
だが、恐るべきことに、アプデ終了の時期から、むしろ勢力を伸ばし、現在、参加&観戦者4000人規模まで拡大したスマブラ大会がある。しかも、公式ではなく、ユーザーたちが立ち上げた大会だ。
その名は『篝火』。
2020年のコロナ禍、世間が自粛ムードの中で立ち上がった『篝火』は、周囲から批判を受けながらも、「オフライン大会の火を消してはならない」と言わんばかりに、対面で交流をしたいというスマブラプレイヤーたちの願いに応え続けた。
そんな『篝火』が、2026年5月3日〜5日、幕張メッセでの開催を実現させる。
この規模での開催は、ユーザー主導によるコミュニティ大会としては、異例中の異例である。なぜ、彼らは「小さな火」をここまで「大きな火」へと育てられたのだろうか。
ぬくぬく氏:『篝火』主催 。後述するてんぷら氏、wawon氏と共にスマブラのコミュニティ大会『篝火』を立ち上げる。『篝火#1』は2020年12月に開催。
てんぷら氏:『篝火』立ち上げメンバーの1人。ライブ配信やトーナメント進行など、プロジェクトの推進を担当。
wawon氏:『篝火』立ち上げメンバーの1人。大会のコンセプト決めなど企画やディレクションを担当。
主催・ぬくぬくは「狂気に満ち溢れた人」
──このメンバーで『篝火』を立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか。
ぬくぬく:2020年、コロナが落ち着いてきたタイミングで「そろそろ大会を開きたいな」と思って、僕が2人に声をかけました。3人ともスマブラの大会で顔を合わせる機会が多くて「この2人となら面白い大会が開けるんじゃないか」と思っていました。
──ぬくぬくさんに誘われた時、お二人はどう感じましたか。
てんぷら: 元々2020年の秋口ごろから大会の話はしていたので、驚きはなかったです。コロナ禍もオンラインでできることをやっていましたが、やはりオフラインで集まる会が一番楽しい。話が決まってからの動き出しは早かったと思います。
wawon: 当時はオフラインイベント自体がやりにくい状況で、招待制や少人数のイベントはありましたが「なんかこれじゃないよな」という気持ちを抱えていました。スマブラコミュニティの良さは、誰でも参加できるオープンな大会をユーザー主導でやっているところ。そういうコミュニティ大会をやりたいという思いが強くありました。
──『篝火』という大会名には、どんな思いが込められているのでしょうか。
wawon:「オフラインのコミュニティの火を絶やさない」というぬくぬくさんの思いから来ています。みんなで集まって熱くなる、その現象こそが大会の核だと考えていたので、『篝火』という名前はすごくしっくりきました。
──『篝火』の話に入る前に、まずは皆さんのことを知っておきたいなと。wawonさんから見て、ぬくぬくさんはどんな人でしょうか。
wawon:「狂気に満ち溢れた人」ですね(笑)。「幕張で大会をやろう!」だなんて、普通、思いついても実行に移そうとはならないじゃないですか。確かに大会の規模的には真っ当ではありますが、そこに踏み切れるのがすごい。「スマブラのコミュニティ文化を残そう!」と引っ張ってくれる、ぬくぬくさんがいるから、僕らはそこに乗っかれています。
──『篝火』の旗振り役といった感じでしょうか。てんぷらさんにとってぬくぬくさんはどんな人ですか。
てんぷら:スマブラ界隈のことを、自分のアクアリウムだと思っていそうな人です。「このコミュニティで『篝火』をやってみたらどうなるか」そうやって、何かを仕掛けて、みんなの動きを観察するのを面白がっている人という印象です。でも、それくらいの狂気がないと、大会の主催をやろうとはならないと思いますよ。
──たしかに「狂気」というのは感じます(笑)。では、てんぷらさんのことをお二人はどう見ていますか。
ぬくぬく:面白いことが大好きな人ですね。
wawon:プロジェクトの実行能力が高い人という印象です。
──wawonさんについてはどうでしょうか。
てんぷら:彼はビジョンメーカーみたいなところがあります。僕ら二人は、学生の頃から大会を一緒にやったり、ライブ配信チームを一緒にやったりしていました。彼がビジョンや方向性を示して、自分がそれを実行したりルールを決めるみたいな役割分担になることが多いですね。
撤収時に「観客」が自分が座っていた椅子を片付ける
──ぬくぬくさんが過去に「オフ大会の『スマブラらしさ』を濃くしていきたいと考えている」と話しているのを見ました。この「スマブラらしさ」とは何でしょうか。
ぬくぬく:「ユーザーが主導でオフライン大会を開く」ということが、スマブラ界隈らしさだと思っています。「自分たちの力で大会を開きたい」という気持ちがすごく強いんです。
wawon:今日は僕らが主催している『Weekly Smash Party~スマパ!~』という大会が行われていますが、この運営も全員スマブラのプレイヤーで、大会をやりたい人と参加したい人が集まっています。「ただ好きでやっている」という集まりです。実際、『篝火』スタッフも全員ボランティアで、平日は普通に仕事をしたり学生をやったりしながら、週1回、夜に集まって会議をしています。
ぬくぬく:部活みたいな感じです。
──そんな部活のような雰囲気のある『篝火』の中で、部長のぬくぬくさんは、どういった役割を担っているのでしょうか。
ぬくぬく:あまり口出しはしていないです。各々に道具と役割と場所を与えることはしますが、あとはみんなが好きなことをやったらいいという方針です。
wawon:それが『篝火』が規模を拡大できた理由な気がします。ワンマンな部長が意思決定して、トップダウンで全員をコントロールしようとする組織だと持続性がありません。「スマブラが好きだからボランティアでやっている」という前提があり、それぞれの距離感とそれぞれの自己表現の範囲でやってもらっている。仕事が忙しかったらお休みするのも自由で、逆に「今回試してみたいことがあるから、コレをやってみたい」という動機でスタッフが動いています。
──いまスタッフは何名くらいでしょうか。
てんぷら:定例会議に参加しているのが約60名で、当日のスタッフも含めると130人ほどになります。
──幕張メッセでの大規模な開催なのに、意外とスタッフ数が増員されていない印象を受けました。現地での稼働だけでなく、機材の搬送などの負荷も増えるはずですが。
wawon:スタッフ数が増えすぎないのには理由があります。スマブラの大会は、観客や選手側もイベントに慣れていることが多いんです。コミュニティ全体がノウハウを持っているから、規模が拡大しても、そこまでスタッフを増やす必要がない構造になっています。また『篝火』の風物詩として、撤収時に「観客たちが自分が座っていた椅子を自ら片付ける」というのがあります。会場内のモニターも、決まったスタッフがやるのではなく、早く会場についた人たちが「ちょっとでも練習したいから」と自分たちで設営するんです。観客も選手も、スタッフがボランティアであることを知っているので、人数が必要なところは参加者も含めてサポートする雰囲気があります。
アップデートが終わろうが、このゲームをやり続けるしかない
──5年以上の運営のなかで、印象に残っていることやトラブルはありますか。
ぬくぬく:最初はよく炎上しました(笑)。そもそも『篝火』は、コロナ禍に立ち上がった大会なので、スマブラ界隈の中からも厳しい意見がありました。当時は不要不急の活動を自粛するムードがまだありましたので、界隈の内外から賛否両論が上がりました。
てんぷら:僕らにとって、オフラインのコミュニティ大会はアイデンティティでもありましたので、オフライン大会をなくすという選択肢はありませんでした。
──この流れで、ちょっと聞きづらいことを聞かせてください。2021年12月に『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』のアップデートが終わりました。このとき、皆さんはどう思われましたか。
wawon:アップデートが終わろうが、このゲームをやり続けるしかないという覚悟みたいなものはありました。僕らはスマブラを流行りのゲームだからやっているわけではなくて、スマブラにアイデンティティがあって、スマブラが好きだからずっとやっている人たちなので。前作でもアップデートが終わったタイミングでも大会は続けてきましたし、運営としてマインドが変わったり、落ち込んだりとかはなかったですね。
ぬくぬく:競技面でいうと、ゲームの新規性と競技性は関係ないと思っています。たとえば、スマブラDX(『大乱闘スマッシュブラザーズDX』)勢は、何十年も同じレギュレーションでやっていますし、真剣にやって、腕前を競うためのものが競技だから、アップデートの有無は競技的な面白さには影響しないと思っています。
──実際、アップデートが終了した2021年12月以降の『篝火#6』からすごい勢いで参加人数が増えて規模が拡大しているので、コロナ禍が明けたタイミングとはいえ凄まじいなと。
wawon:むしろ、コミュニティや競技シーンの良さは「人間の力でメタゲームが変わっていくこと」にあると思っています。「このキャラがいま一番強い」と言われていても、そのキャラに勝つ戦術や選手が出てくる。人が努力した結果のメタゲームこそが、競技シーンの美しさであり楽しさなのではないかなと。
ぬくぬく:公式からの供給に頼らずに、界隈の中で大会を開いて、その中の出来事を楽しむ。それがスマブラ界隈の在り方だと思います。
──公式が積極的に大会を開いているわけではなかったからこそ、コミュニティの自主性が育ったという面もあるのでしょうか。
ぬくぬく:そうですね、スマブラの公式大会はスマブラfor(『大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS / Wii U』)の発売までほとんどなかったですから。
wawon:正確には、我々の求めるような「1vs1」「アイテムなし」のレギュレーションによる対戦は、公式からはそこまで推奨されているものではありませんでした。公式がやらないからこそ、コミュニティの自主性が育ってきたというのは、確かにあると思います。その辺りについては、NINTENDO 64のスマブラの時代から、脈々と自分たちで大会を開いてきた歴史があって「自分たちの理想の大会は自分たちで作るべき」という価値観が界隈に浸透しているんですよね。
──公式のサポートが得られづらいゲームだったからこそ、コミュニティの自主性が育ったという面もあるのでしょうか。
wawon:最近、スマブラ以外のゲームタイトルでは、企業が対戦イベントを主催するケースが増えています。そんな背景もあってか、昔は他のゲームでもユーザー主導のイベントがあったのですが、徐々に減っています。