"作る"より"遊ぶ" 古典文学の世界に入り込む「c.ai Books」から考える、AIクリエイティブの新たな可能性

 『高慢と偏見』のダーシーに舞踏会で声をかける。ドラキュラの城に招かれた客として一夜を過ごす。もし、そんな体験ができるとしたら、普段は敷居が高く感じてあまり手に取ることがない古典文学をより楽しめるかもしれない。

 そのような古典文学の世界に"入り込む"体験を提供するのが、最近、Character.AIが発表した「c.ai Books」だ。

 Character.AIは、架空のキャラクターや歴史上の人物などを模したAIと会話できるAIチャットボットプラットフォーム。ChatGPTのような汎用アシスタント型AIが「質問への回答」や「作業の支援」を目的としているのに対し、Character.AIは「AIキャラクターとの会話そのものをエンターテインメントとして体験する」ことに特化している。ユーザーはプラットフォーム上に用意された多様なAIキャラクターと、決まった筋書きのない自由なやり取りを楽しめる。

『不思議の国のアリス』など20作品以上の世界を楽しめる3つのモード

 c.ai Booksは、Character.AIの実験的プロダクトを試せるプラットフォーム「c.ai Labs」の一環として新たに発表されたコンテンツで、モバイルとウェブの両方で利用可能。Varietyはこれを従来のCharacter.AIと比較し「構造化されたストーリードリブンの体験へと踏み出す転換点」と評している。

 では、具体的にどのような体験ができるのか。c.ai Booksの対象作品はすべて、著作権が切れた文学作品を電子化・無料公開しているプロジェクト「Project Gutenberg」からのパブリックドメイン作品だ。この記事を執筆している時点では、『不思議の国のアリス』『高慢と偏見』『ドラキュラ』『フランケンシュタイン』『ロミオとジュリエット』『グレート・ギャツビー』など20タイトル以上が用意されている。

 ユーザーは作品の登場人物になりきるか、オリジナルキャラクターを持ち込むかを選んだうえで、あらかじめ用意された3つのストーリーモードで体験を進める。原作のプロットに沿いながら自分の選択で物語を動かす「Book arc mode」、原作の世界観を舞台に自由にロールプレイする「Go off script mode」、そして画面に表示される選択肢をタップして物語を進める近日公開予定の「TapTale」だ。Character.AIの公式ブログによると、この機能は案内付きの体験を求めるユーザー向けに設計されたもので、事前に用意されたプロンプトをタップして物語を進めることができる(自由入力も可能)。いわば選択肢型のノベルゲームに近い操作感だ。

 さらに「AU(Alternate Universe)Remixes」と呼ばれる機能では、作品の設定そのものを作り変えることができる。たとえば『不思議の国のアリス』をロマンティックコメディにしたり、作品の舞台を宇宙空間に変更したりといった具合だ。こうしたユーザーによるリミックスは、他のユーザーも自由に遊んだり共有することができ、一つの作品から無数のバリエーションが生まれる設計になっている。

 無料ユーザーは数回の会話を試すことが可能。より本格的に楽しみたい場合は有料プラン「c.ai +」(月額9.99ドルから)への加入が必要になる。

Introducing c.ai Books · Classics, now playable.

ゼロから作るだけじゃない、AIクリエイティブの可能性

 生成AIを活用したサービスでは、学習データの著作権問題がつきまとうケースが少なくない。その点、c.ai Booksの対象はすべてパブリックドメイン作品であり、こうしたリスクが構造的に回避されている。著作権の問題を気にせず、純粋に物語を素材として遊べる環境が整っているからこそ、前述のAUリミックスのような自由度の高い機能が成立している。

 このリミックスの共有の仕組みは、TikTokなどSNSで定着した「既存コンテンツを素材にユーザーが再解釈し、共有する」というUGC(ユーザー生成コンテンツ)文化の構造と重なる。c.ai Booksはそれを「物語」、とりわけ古典文学の領域に持ち込んだと言えるだろう。

 生成AIが一般ユーザーに開放されて以降、作曲AIで音楽を、画像生成AIでビジュアルを、自分のプロンプトひとつで作れるようになったことで、現在はクリエイティブ分野でもあらゆる民主化が進んでいる。しかし実際にやってみると、思いの外うまくいかないことも多い。これは仮になんでも作れるツールがあったとしても、白紙の状態からアイデアを生み出すのが意外に難しいからだと筆者は考えている。

 だが、c.ai Booksのように既存の物語をフレームとして提供し、その中で遊ばせるセミオーダー的なアプローチであれば、白紙の前で立ち止まる必要はない。

 そう考えると、クリエイティブにおけるAI活用の可能性は、ゼロから何かを生み出すことだけにあるわけではないことに改めて気づく。すでに知られた物語の世界に入り、その中で自由に遊ぶ。こうした「既知のフレームをリミックスする」という使い方にも大きな可能性があるように思う。c.ai Booksは、古典文学というフィルターを通して、その一つの形を見せたと言えるのではないだろうか。

参考:
https://blog.character.ai/cai-books/
https://variety.com/2026/gaming/news/character-ai-launches-ai-powered-books-feature-1236722570/

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