プロバレエダンサー・ヤマカイ&ネレアはなぜ「YouTube」に注力するのか エンタメの先に見える“バレエの本質”

 プロバレエダンサーのフィジカルと技術を活かし、親しみやすいネタ動画を展開する異色のYouTubeチャンネル「ヤマカイTV」(ヤマカイ・ネレア)。バレエに対する敷居の高いイメージを覆しながらその魅力を伝え続け、現在では70万人を超えるチャンネル登録者を抱え、動画の総再生数は10億回を超える人気ぶりだが、一方で伝統と格式のある世界だけに、エンタメに振り切った姿に厳しい目を向けられることもあった。

 そんななかで「誰もが楽しめるバレエ公演」をコンセプトとする「The Ballet Show」を立ち上げ、2月には『くるみ割り人形』の公演を控えるヤマカイ&ネレアのふたりは、いま「YouTube」と「バレエ」という二つの世界に対してどんなことを考えているのか。YouTubeチャンネルを開設した経緯から、お互いにリスペクトする部分、「THE BALLET SHOW」にかける思いまで、じっくり話を聞いた。(編集部/撮影協力:品川学藝高等学校)

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「バレエを広める」という大目標と、「お金がない」という現実問題

ーーあらためて、2018年にYouTubeチャンネルを開設した経緯から教えてください。

ヤマカイ:「バレエをもっと広めたい」という思いは当時からあったのですが、現実問題としてお金がなくて(笑)。アメリカで活動していたので、ビザの都合でバイトもできず、バレエ団のディレクターに相談しに行ったんです。そのときに「私があなただったらYouTubeをやる」と言われて、その日のうちに兄(※「ヤマダイ」こと山本大輔氏。会社経営のかたわらヤマカイTVではマーケティングを担当)に電話をして、さっそく始めることにしました。収益化の審査はすぐに通ったのですが、実際にお金が入るまで8カ月かかって、それまで生計を立てていたのはネレアさんでしたね。

ネレア:できる仕事といえばバレエダンサーと、バレエを教えることだけで。YouTubeチャンネルが収益化するまでは、ヤマカイさんは動画を頑張って、私はバレエの先生をする、という忙しい日々でしたね。

ヤマカイ:まだ結婚もしていませんでしたし、最初は僕一人で動画に出ていたのですが、軌道に乗ってからは二人でYouTubeに集中してきました。

ーー動画を見ていると、ネットのトレンドにも敏感で、バレエの卓越した技術、フィジカルとも掛け合わせた目を惹くものがとても多い印象です。“YouTuber”としての資質は早い段階から開花していたと思うのですが、企画はどうやって考えているのでしょうか。

ヤマカイ:基本的に僕と兄で考えています。兄がトレンド含めていろいろと分析をしてくれて、一緒に企画を考えて、それを僕が現場で調整する、というイメージですね。

ヤマカイ

ーーお二人の演者としての面白さはファンの皆さんもよく知るところで、お兄さんも企画の考え甲斐があったのではと。

ヤマカイ:そうですね(笑)。YouTubeをやるという話をした時点で、「いける」という感覚は兄の中にあったみたいです。

ーーネレアさんは、当初YouTube活動についてどう思っていましたか?

ネレア:当時、YouTuberとして活動することは私たちにとってまったく新しい挑戦で、将来的に経済的な支えになるかどうかも分からない状況でした。最初から二人でできる範囲で一緒に取り組んではいましたが、私自身はバレエ団の活動に加えて指導の仕事も抱えており、スケジュールには限りがありました。その後、YouTubeが徐々に私たちの優先事項の一つとなり、生活も安定してきたことで、より深く関わり、ヤマカイさんと一緒に本格的に取り組めるようになっていきました。

批判にも真摯に向き合いながら、伝えてきたバレエの多面的な魅力

ーーチャンネルが大きくなるにつれて、「バレエを広める」という目的も段階的に果たしていかれたと思うのですが、一方で、ある意味では認知を広げるための面白おかしい動画について同業者から批判の声も上がりました。お二人の動画をきっかけにバレエに関心を持ったファンたちは反発しましたが、ヤマカイさん自身はその声に真摯に向き合って、丁寧にコミュニケーションを取っていましたね。

ネレア:とても大きな精神的ストレスがあったと思います。彼はできる限り最善の方法で向き合おうとしていて、私にはあまりその影響が見えないようにしていました。でも、当時は恋人でしたので、「一人で抱え込まなくていいし、私を頼っていいんだよ」と伝えて、一緒に支えていけたらと思っていました。

ヤマカイ:僕は誰からも愛されたい人間で、嫌悪されているということはとてもショックだったのですが、批判してくれた彼はまだ学生でしたし、その純粋な思いをきちんと受け止めながら、「こういう考え方でやっている」ということをしっかり伝えなければと思ったんです。逆に彼が批判されてしまうのも嫌でしたし、お互いに損をしないように、いろいろとバランスを考えてアンサー動画を撮った記憶があります。

ーー今現在は、YouTuber的な楽しい動画で認知を広げることと、バレエそのものの魅力を伝えることのバランスをどう考えていますか。

ヤマカイ:バレエの魅力というのは、実際に観てみないと伝わらないと思うんです。動画で下手に「これがバレエの魅力なんです!」とストレートに訴えてしまうと、100ある魅力のうちの1つを切り抜くような形になってしまって、かえって矮小化してしまったり、誤解を与えてしまったりする可能性があると考えていて。バレエにはスポーツ的な側面もあるし、もちろんエンターテインメントでもあって、アートでもあるので、感じる魅力も人それぞれなんですよね。だから、YouTubeではとにかく僕らを通じてバレエというものを認知してもらうことに集中していて、どうにか関心を持って、最終的には実際に観に来ていただけたらなと。

ネレア:私たちは小さい頃からバレエをやっていて、バレエのことをよく知っていて、愛も強いのですが、ほとんどの方はとっつきにくいものだというイメージを持っていると思うんです。ですから、まずはエンタメの力を使って親しみを持ってもらいたいですし、バレエの歴史や伝統は深くリスペクトしながら、これからも文化として存続できるように、より多くの人に少しでも興味を持ってもらえたら、という思いが強いですね。

ネレア

お互いにリスペクトしているのは、「情熱」と「継続性」

ーーちなみに、お二人はどんな動画やクリエイター/インフルエンサーが好きですか。

ネレア:私は、さまざまなバレエ団の公演やドキュメンタリー、インタビューをはじめ、多くのアーティスト、演出家、振付家の作品を観て、自分自身の学びとして、また私たちのカンパニーの成長につなげるために、知識を深めるようにしています。

ヤマカイ:各方面に配慮するのは日本のよさでもありますが、海外では自分のオピニオンを訴えるのが普通なので、バレエ関係の動画でもそういう面白さがありますね。ご質問の「クリエイター/インフルエンサー」という話からズレてしまうかもしれませんが、僕はチャイコフスキーに憧れるんです。今回、僕らが主催する「THE BALLET SHOW」で『くるみ割り人形』を上演しますが、チャイコフスキーは時代を超えてアートを、幸せを届ける最高のクリエイターだと思っていて。一般的な番組やCMでもよく耳にしますし、アートだけでなくエンタメにも大きく影響していますよね。そういう存在になれたらなぁと思いますし、世代を超えて愛されて、ひとつのジャンルを開拓したという意味では、ヒカキンさんも憧れの存在ですね。道を作ってくれた先輩YouTuberのみなさんには、等しく感謝していますが。

ーープロバレエダンサーのフィジカルや技術、とっつきにくいイメージを覆す、少し自虐的だったり、ネットカルチャーと親和性の高い動画も魅力ですが、一方でお二人の関係性に惹かれて応援しているファンも多いと思います。あらためて、お互いのどんなところをリスペクトしていますか?

ネレア:「バレエを広める」というミッションに対して本当に日々本気で向き合っている姿を見ていますし、強い情熱があるところをリスペクトしています。

ヤマカイ:初めて聞きました(笑)。僕はネレアさんの継続性が本当にすごいと思っています。表面的には、世界トップクラスのボリショイバレエ団で活躍していたとか、5カ国語(スペイン語、バスク語、ロシア語、英語、日本語)を話せるとか、すごいところはたくさんありますが、規律を持って継続的に取り組み続けるというか、きっとどんな分野でも一流になるまで努力する人なんです。

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