ターン制コマンドバトルは古くない? 『Clair Obscur: Expedition 33』の人気が示すJRPGの現代性

 ターン制コマンドバトルで戦う日本の伝統的なRPGが、「JRPG」というジャンル名で呼称されるようになって久しい。“古き良き”という懐古的な枠組みで見られることも多い同ジャンルだが、実はそのシステムは現代でも十分通用する強度を持っているのかもしれない。

 それを証明するのが、フランスのゲームスタジオがJRPGに触発されて制作した『Clair Obscur: Expedition 33』の存在だ。同作は四大ゲームアワードの1つ「The Game Awards 2025」でGame of the Year(GOTY)を含む9冠に輝き、大きな話題を呼んでいる。(※)

ソウルシリーズなどのアクション性とJRPGが融合

 『Clair Obscur: Expedition 33』のバトルシステムは、ターン制のコマンドバトルに“リアルタイムアクション”を付加した点が特徴。スキル使用時にボタンをタイミングよく押すQTE(クイックタイムイベント)が発生するほか、敵の攻撃を回避・パリィ・カウンターするといった要素も加わっている。

 とくに後者の部分に革新性があり、敵が攻撃タイミングを読ませないように“ディレイ”を織り込んでくるなど、たんなる作業では終わらない高度なアクション性を体験できる。いわばフロム・ソフトウェアのソウルシリーズなどのアクション性をJRPGと融合させた作品と言えるだろう。

 そもそもJRPGとは1980年代後半頃に『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などによって土台を築かれたジャンル。自分が攻撃するターンと相手が攻撃するターンが分かれており、攻撃やスキル、アイテムの使用といったコマンドを選択して戦闘を進めていくものが基本で、高い戦略性が醍醐味となっている。

 とはいえ一部のシリーズを除いて、コンシューマーゲーム業界全体の動きとしては、主流はアクション性の強いゲームに移行している印象だ。JRPGの代名詞だったFFシリーズが、『ファイナルファンタジーXVI』で本格的にリアルタイムアクションへと舵を切ったことも、その変化を象徴しているように思われる。

 しかし『Clair Obscur: Expedition 33』やその他のゲームが示しているように、JPRGにはまだまだ現代でも通用するポテンシャルがある。たとえばアトラスによる人気RPG『ペルソナ』シリーズは、日本のみならず海外でも高く評価されていることで有名。ある時期から同シリーズではターン制コマンドバトルを採用しつつ、一定の条件を満たしたときに追加行動が可能となる「1MORE」システムを採用し、戦闘に独自の爽快感を与えている。

なぜJPRGの魅力が“再発見”され始めているのか?

 なぜ美麗なアクションゲームやオープンワールドゲームが遊ばれている現代で、こうしたJPRGが生き残っているのかといえば、ターン制だからこその“遊びやすさ”が大きく関わっているのかもしれない。

 視点を“ソシャゲ”と呼ばれるジャンルにまで広げると、ターン制コマンドバトルはむしろ主流と言っても良いほどの活況を呈している。もちろん開発費の都合や、スマートフォンで快適に遊べるゲームにしなければならないといった事情もあるはずだが、それは必要性の問題だけではないように思える。

 実際に多額の開発費を投じてリッチなタイトルを量産しているゲームメーカー・miHoYoは、『原神』などのアクションゲームを作る一方、『崩壊:スターレイル』でJRPGの王道を往くようなターン制コマンドバトルを導入した。そして同作は、他のアクション性が高いmiHoYo製のゲームと負けず劣らずの人気を誇っている。

 つまり世の中には、「ターン制コマンドバトルだからこそ面白い」と感じるゲーマーが一定数存在すると言っていいだろう。反射神経や複雑な操作を要求されるアクションゲームと比べて、ターン制コマンドバトルの方が圧倒的に“遊びやすさのハードルが低い”ということの強みが、今あらためて発見されているようにも見える。

 戦略性の高さを売りにできる上、老若男女に広く遊ばれるポテンシャルがあるJRPG。過去の遺物として捨て去るのではなく、新たな可能性を模索する時代がやってきたのかもしれない。

※ 現在、開発段階の一部で生成AIを使用していたことでGOTYが取り消しになったという報道が出ているが、これはSix One Indie主催によるインディーゲームの賞「The Indie Game Awards」の話であり、「The Game Awards 2025」とは別の賞となっている。

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