モノに溢れる現代だからこそ音で“本物”を追求したい 『Dreams of Another』ディレクター・Baiyonが描く“創造”のTPS体験

「破壊と創造」をテーマに据えた理由

――「破壊なくして創造なし」というフレーズが印象的で、本作の銃撃によって世界が作られていくというゲームデザインは非常に面白いなと思ったんですけど、これはどうやって思いついたのでしょうか?

Baiyon:「破壊なくして創造なし」というのは、以前から自分のテーマとして心の奥にあったんです。ひとつのエピソードとして、中学生のときに文化祭のために全員何かをチームを組んでやらなければいけなくて、友達と2人で段ボールの彫刻を作ったんですよ。しょうもないものですけど(笑)。

 1日だけの文化祭が終わって片付ける際、その彫刻はつぶして破棄しないといけないので、せっかくだから楽しく片付けようと思って若気の至りで殴りながら壊していたら、最初は笑いながら見ていた友達に背中を蹴られて、そのまま大喧嘩になったんです。気が付いた先生が教室に入ってきて、その際に「お前は壊すために作るのか!?」と怒鳴られて、その言葉がずっと自分の中に残りました。ただし先生の意図とは違う形で……

 多分「自分の作ったものを大事にしよう」とか、そういうことが言いたかったんでしょうが、結局作ったものはいずれにせよ廃棄することになるので、僕はその矛盾と一種の複雑さに「人間ってめちゃくちゃ変で面白いな」と思ったんですよ。

 つまり、対立するものをどう捉えるかというテーマなんですね。白と黒、破壊と創造とかそういうことって対をなすものだと思うんですけど、人間って日々変化していく存在だし、そんなことで割り切れるのかな?と思ったりもして。

 そしてそういった二項対立の中でも、「破壊と創造」というテーマは、ゲームというものに乗せたときに、興味深い側面が立ち上がってくるんじゃないかなと思いますね。

――物と会話するシーンが多かったのが印象的ですが、これはどういった発想から生まれたんでしょうか?

Baiyon:これも最初からそうだったとしか言いようがないところがあります。夢という設定を作るために話すようにしたというわけじゃなくて、結果的に上手く結びついたというか。

 よくRPGで同じことばかり喋るキャラっているでしょう。「この町はなんとかだよ」、みたいな。ああいうものってその世界が存在していることの説得力の補強に使われているのはわかるんですが、仮に自分がもしその人だったら「今日は良い天気だね」って一生言い続ける人生はちょっとつらいなって思うんです(笑)。

 それでモノが喋るということを考えると、受け取る方(人間)は一度内容を抽象化せざるを得ないと思っていて、セリフをプレイヤーが理解して受け取る時に、頭の中にある記憶や考え方に触れるようなことができるかもしれないなと思い至ったんです。

 例えば「俺たちは踏みつけられるだけの人生だ」って人間が言ったら苦しいだけですけど、アリンコが同じことを言ったら違う視点と感情が浮かび上がってくるでしょう。

 また別の例えですけど、僕の奥さんが作ってくれたお弁当があるとして、それを突然現れたマハラジャみたいな大富豪が買いたがるとするじゃないですか。ちょっと例えが古いかな(笑)。手づくり弁当って別に高級なものなんて使っていないし、ほとんどの価値が気持ちの部分ですよね。僕のために一生懸命作ってくれたものを、僕が嬉しいと感じる……その関係性が素晴らしい部分でしょう。で、それをお金持ちが100万円で買ったとしても、そのお弁当はまだ同じ存在の価値を保持できているのか? というと、そうじゃない。そういった譲渡することができないパーソナルな美しさって素晴らしいと思うんですよね。

 そしてゲームって色々な人が全く同じものを遊ぶものだからこそ、個人のパーソナルな部分に訴えることができないかなとずっと思っているんです。つまり、あえて製品というものでパーソナルな感覚とかを共有するということにこだわっているところがあります。

――たしかに現代のゲームは皆同じファイルをダウンロードして遊ぶ形になっていますね。

Baiyon:そうなんです。だから僕が考えていることはひとつで、可能な限り抽象化するということだけなんです。

 恋愛の歌も、なるべく場面を抽象化して伝えるじゃないですか。その受け手側の心を置くスペースをどう残すか、作りたての料理みたいな暖かい温度をどれだけ残せるかっていうことを考えると、やはりできる限り抽象的にしていかなければならないなと。つまり、受け手が出来るだけ自由に受け取ることができるようにしたいんですね。そういう挑戦はずっとしています。

――僕が遊んだ限りではドアとの会話シーンが多いかなと思ったんですが、ドアというモチーフにこだわりはありますか?

Baiyon:前半は特に多いかもしれませんね。本当に大変だったんですよ。もうドアのセリフを何十個って書くんですけど、自分で考えてやると決めたとはいえ、頭がおかしくなりそうだった(笑)。

 表面上はくだらなく見えて、出来るだけ笑えるようなテキストを心がけて書いたんですけど、どれだけ掘っても意味に行き当たるように作ってあります。ですので、自分を当てはめて想像できる立場みたいなのが複数あるテキストが多いです。つまり自分をどの立場に置くかによって感じ方が変わるようにしたんです。

 その結果、平面的な言葉ではなくて、立体的にいろんな角度から楽しめるものができたかなと思っています。

 そもそもドアって哲学的文脈やアートの文脈での象徴的な部分があるじゃないですか。内面と外面、内向きと外向きみたいな。

――別の場面に行くときの境でもありますね。

Baiyon:そうなんです。色々ありますね。進む、戻るとかね。そういうシンプルな二項対立を表現しやすいから、そういう意味でドアというモチーフは扱いやすかったのかなと。

目指すのは、ゲームで“心の隠れ家”みたいなものを作ること

――定期的にタイトル画面に戻される仕様がありますが、これはどういった意図があるのでしょうか?

Baiyon:さっきまで夢を見ていたけど、起きてから同じ夢の続きに戻ろうとしても戻れない……みたいなことってありますよね。浅い覚醒を繰り返すみたいな、そういうことを表現しました。

 あとはゲーム的にも区切りがあった方がいいと思ったので、この続きを今日遊ぶか、むしろここでプレーをやめて寝るかみたいな、そういう意図もあります。続きを遊ぶといってもそれはゲーム内で寝るということなんですが(笑)。

――ずっと主人公がパジャマを着ているのも印象的でした。

Baiyon:僕が一番好きなタイプの作品は群像劇なんですよ。主人公が主観で喋るよりも、他人が語る、周りが語る、環境や体験が語る……という風にしたいと考えていたので、だから自然に「パジャマの男」は寝ていたのかもしれないですね。

――本作では主人公にアップグレードがあるなど、ゲーム的に線形に盛り上がっていく仕組みもあります。アーティスティックなテーマ性とゲームデザインを両立させる上で、どういうことを考えていましたか?

Baiyon:今までビジュアル作品や音楽を作る時にゲームから得たインスピレーションを取り入れたり、またゲームを作る時に音楽やアートからインスピレーションを得たりと、色々なものを取り入れて作品を作ってきました。そして、今回は初めて直接ゲームから得たインスピレーションからゲームを作ったんですよ。そのインスピレーションを元にしてチームと一緒に試行錯誤しながら作り込んでいきました。

 一つインスピレーションを得た例として、実験としてFPSのBGMを悲しい雰囲気のピアノとかのクラシック音楽に変えてプレーしていたことがあったんですね。

――なかなか面白い試みですね。

Baiyon:そうしてみると、撃ち殺した相手にも家族がいたのかなとか、吹き飛ばしたビルにはどんな家族が住んでたんだろうとか、そういうおそらく製作者が意図していないものが見えてきたんです。これは興味深いなと思いました。音楽を変えるだけでこれだけ視点が変わるんだなと。

 あとは、画面に表示されているのは人が死んでいる映像なんですけど、むしろそれを見ていると「生」を感じたんですよ。死を以て生を表現するとか、そういうものってあるじゃないですか。これもまた創造と破壊に繋がってるなと。

 ゲーム内で色々な場所で拾うことができるアイテム(ガラクタ)に関しても、軍人にガラクタを渡すと弾薬やちょっとしたアップグレードがもらえたりするのですが、アイテム名も普通のゲームには出てこないような長くて変な感じにして、さらっと流せないような気になるような感じのものにしたんです。そして、それらを渡すと独特の感性でそのモノについてブツブツと軍人が語り始める... この面倒臭さを超えてくれた先にあるコミュニケーションをしようよ、と投げかけている感じですね。90年代のPlayStationのゲームを浴びすぎたせいです(笑)。

――本作を作る上で影響を受けた作品を教えていただけますでしょうか。

Baiyon:やはり「MOTHER」シリーズですかね。人生において大切なことは大体この作品から教わった感じがします。コミュニケーションの取り方とか、友達を作るのがどれだけ難しいことかとか、思いを託すことがどれだけ大変なことなのかとか……色々なものを内包しているじゃないですか。

 あと『Dreams of Another』は笑いと泣きが同時に来るっていうのを大事にしたんです。
泣けるようなストーリーではあるんだけど、よくよく見たらなんだこれ(笑)、みたいな。俺の受け取り方合ってるのかな……って思うような作品。そういうのも『MOTHER』に教わった気がします。

 他にはミランダ・ジュライという映画監督でパフォーマンスアーティストの人がいて、彼女の作品がすごく好きなんです。お気に入りに『あなたを選んでくれるもの』という本がありまして、郵便受けに入っていたフリーペーパーの売買広告を見て、変わったものを売っている人たちに話を聞きに行くんです。オタマジャクシとか色鉛筆とかね。

 それでその人の家まで行って、あなたはなぜこれを売っているんですか、どういうストーリーがあるんですかということを聞くんですよ。これがめちゃくちゃ面白いんです。僕は他人の人生のヒストリーとか、何かに対する執着とかそういうものを知るのがすごく好きでして... 人のことを知るって面白いじゃないですか。

――今作を作ってみて、まだこういうことできそうだなと思った点をあえてあげるとしたらどういう点でしょうか。

Baiyon:最近みんな忙しそうじゃないですか。とにかくモノをすごいスピードで消費するから……そういう消費の仕方より、もっと細かい部分とか隙間の部分をめでたり、無駄な時間を過ごしてほしいと切に願っているんです。

 スピードがゆっくりした、心の隠れ家みたいなものを作るのが、テーマとしては大きいですね。それか寝る前に聴く深夜ラジオとか、そういったものです。

■基本情報
タイトル:Dreams of Another
メーカー:Q-Games
発売日:2025年10月10日 
ジャンル:アクションゲーム、アドベンチャーゲーム
プレイ人数:1人
プラットフォーム:PlayStation 5, PS VR2, Steam
通常価格:
『Dreams of Another』 3,960円(税込)
『Dreams of Another + PixelJunk Eden 2 スペシャルバンドル』4,620円(税込)
CEROレーティング:A(全年齢)
対応言語:日本語 / 英語 / フランス語 / イタリア語 / ドイツ語 / スペイン語 / スペイン語 (ラテンアメリカ) / アラビア語 / ポルトガル語 (ブラジル) / ポーランド語 / ロシア語 / 韓国語 / 中国語(簡体字) / 中国語(繁体字)

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