今泉力哉・山中瑶子ら起用した短編映画で覗き見る“リアルな恋愛” 『セフレと恋人の境界線』が編み出した革新的な手法

 配信プラットフォームの急速な拡大により、コンテンツの多様化が進む中で、恋愛をテーマにした番組への関心は依然として高い。Netflix『あいの里』やPrime Video「バチェラー・ジャパン」シリーズといった人気番組から、韓国発の恋愛番組まで、様々な形式で“リアリティーショー”型の恋愛コンテンツが制作され続けている。

 こうした番組では、視聴者は他人の恋愛模様をリアルタイムで追いかけ、SNSで感想を共有し、時には出演者のその後の人生まで追跡する。まさに他人の恋愛を“覗き見る”快楽を合法的に満たしてくれる装置として機能しているともいえるだろう。

 しかし、この盛り上がりの裏側には深刻な問題も横たわっており、出演者への誹謗中傷やプライバシーの侵害が問題視されることも少なくない。起用されるキャストが一般人の場合も多く、視聴者との距離が近い分、出演者への配慮は重要な課題となっている。

 そんな中で話題を呼んだのが、Prime Videoの恋愛考察バラエティ番組『セフレと恋人の境界線』だ。この番組は、リアリティーショーが抱える根本的な問題を巧妙に回避しながら、視聴者が求める「リアルな恋愛」を覗き見る革新的な手法を編み出した。その答えが、実話ベースの短編映画を制作するという形式だ。

 実際の体験談を収集し、それを映画として再構築する。この手法により、『セフレと恋人の境界線』は当事者を傷つけることなく「恋愛のリアル」を描くことに成功している。出演者はあくまで俳優であり、物語は実話ベースのフィクション。この明確な線引きがあることで、罪悪感を抱くことなく、作品に意見を交わせる視聴者も少なくないだろう。

 番組タイトルが示すような、“セフレと恋人の境界線”という曖昧な関係性にスポットライトを当てた点も革新的だ。従来の恋愛コンテンツが「友達」か「恋人」かという明確な二択を前提とすることが多い中で、本作はその間にある複雑なグレーゾーンを丁寧に描き出した。

 登場する男女は、互いの気持ちや関係の定義について確信を持てないまま日々を過ごしている。彼らの迷いや躊躇は、現代を生きる多くの人が抱える実感に重なるに違いない。

 恋愛関係における「正解」が見えにくくなった時代において、答えのない状況そのものを題材にした試みは、従来の恋愛番組にはない共感を獲得しているのだろう。リアリティーショーのような“カップル成立”へのカタルシスは提供しないが、その代わりに「自分ならどうするか?」「この登場人物の行動の意図は?」と深い思考を促す恋愛番組に仕上がっているともいえる。

 さらに秀逸なのは、今泉力哉や山中瑶子といった映画監督を起用している点だ。『愛がなんだ』や『街の上で』などで男女の答えのない境界線を描いてきた今泉監督、そして『ナミビアの砂漠』で現代を生きる女性をみずみずしく描いた山中瑶子監督の回など、曖昧な男女の関係性を丁寧に掬い取る眼差しが光る。こうした作家性の介入により、娯楽としてだけでなく、芸術作品としても十分に成り立つ質を獲得している点も、他の番組との違いだろう。

 様々な点で革新的な『セフレと恋人の境界線』だが、こうした切り込んだ試みは配信プラットフォームという環境があってこそ実現できたものではないだろうか。地上波テレビでは、放送時間帯や幅広い視聴者層を意識した内容調整が求められるため、複雑なテーマを掘り下げることには制約が伴う。

『セフレと恋人の境界線』本予告1 恋愛考察バラエティ誕生編|プライムビデオ

 一方で配信プラットフォームは、視聴者が自ら選択してアクセスする能動的なメディアだ。この特性により、特定のテーマに関心を持つ視聴者に向けて、より踏み込んだ内容を展開することが可能になる。

 実際、Netflix『全裸監督』やPrime Video『ザ・ボーイズ』といった作品が示すように、配信コンテンツは従来のテレビでは扱いにくいテーマでも、クリエイターの表現意図を尊重した形で世に送り出せる環境を提供してきた。そこにあるのは、地上波では放送が難しい複雑なテーマに果敢に挑戦できる自由度だ。

 また、テレビの決まった時間枠に縛られることなく、各エピソードの尺を内容に応じて調整できる点も大きい。『セフレと恋人の境界線』は全7話で構成されており、本編4話では映画を分割して観る形になっているが、MCトークを飛ばして短編映画だけを独立して楽しむこともできる。視聴者が気分や時間に応じて、「解説付きでじっくり観る」か「映画作品として純粋に楽しむ」かを選択できるのも配信プラットフォームだからこそできたことだろう。

 番組が成功を収めれば、類似のコンセプトを持つ作品の登場も期待できるはずだ。実話ベースの短編映画という手法は、恋愛以外のテーマにも応用可能にも思える。配信プラットフォームという新しい土壌で、どのような表現の花が咲くのか。

■番組情報
『セフレと恋人の境界線』
9月3日より独占配信中
 

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