『イハナシの魔女』制作陣が送る『ステラーコード』レビュー “宇宙の神秘”を5時間前後で没入感満載に描く本格SFミステリー

 『ステラーコード』はアドベンチャーゲーム制作を行う「フラガリア」が、8月15日にリリースしたビジュアルノベルだ。フラガリアは前作『イハナシの魔女』がケムコよりコンソール向けに移植され、合計売上が記事執筆時点で4万本を超えるロングヒットを記録した気鋭の同人サークルである。また本作ではJAXA認定の宇宙ベンチャー「天地人」が、制作協力(技術アドバイザー)としてクレジットされているなど、同人ゲームとは思えない規模感にリリース前から注目を集めていた。筆者は前々作『カガミハラ/ジャスティス』からフラガリアを追っていたため、今回の躍進に期待を抱いていた。本記事では、『ステラーコード』の感想とテーマを踏まえたレビューをお届けしたい。

ビジュアルノベル「ステラーコード」 PV

軽快なテンポで織りなされる本格SFストーリー

 まずはストーリーを紹介しよう。主人公・佐藤大地は人工衛星の研究をする大学4年生で、日々調査を行いながら卒業論文の執筆にいそしんでいた。大地は最近父親の再婚により日系アメリカ人の義妹・佐藤瞳ができたが、彼女は理論物理学を専攻しノーベル賞確実と呼ばれるほどの研究成果を持つ天才で、日本での講演に登壇するため来日することに。

 はじめて出会った二人だが、ぎくしゃくしている様子を見せると母が悲しむという瞳に合わせ、“兄妹”らしく仲良くしている写真を撮るために出かける。瞳が観光スポットに興味がないと言うこともあり、大地が通う大学に寄って研究を確認することになるが、人工衛星の観測結果が異常な数値を叩き出す。原因を求めて登った裏山で謎の円筒状物体(ボトルと呼称)を見つけたことをきっかけに、今までの日常が壊れてしまうというあらすじだ。

 SFとミステリーというジャンルを鑑みて、シナリオへの直接的な言及は最小限にとどめるが、本作はいわゆる地球外知的生命体とのファーストコンタクトものだ。大地と瞳は大学工作室の管理人で友人・川島桃子、桃子の後輩でJAXA職員の中野芽依などを巻き込みながら、ボトルから出力された暗号を解いていくことで世界の命運を左右する事態になっていく。

 本作は「ミステリービジュアルノベル」という形をとっているが、ミステリーといっても殺人事件の犯人当てやトリック解明を行うわけでない。宇宙と理論物理の知識を辿りながら、地球外知的生命体は「何が言いたいのか」「どうして地球にやってきたのか」という謎を解いていく。本作のプレイ時間は公称5~7時間(筆者は4時間半でクリア)ほどで、前作『イハナシの魔女』が10時間強だったことを考えると半分ほどのボリュームだが、その分、先が気になる濃密ストーリーがテンポよく味わえた。またこうしたSF作品でよくある「国の専門家ですら気づかないことに、なぜ主人公たちだけが気づけるのか」という疑問も、“妹がノーベル賞級の天才”という設定を与えることで回避していたように思う。

インタラクティブな仕掛けで没入感抜群の体験

 SFミステリーということで、本作は基本的にストーリーを読み進めているだけでは進行せず、プレイヤー自身が自らの脳をひねり答えを出さなければならない場面も多い。ただそうなると「宇宙と理論物理について知っていないと楽しめないのではないか」と思う方もいるかもしれないが、安心してほしい。私も学生時代はバリバリの文系で物理学を中心とした理系科目にほとんど触れてこなかったため、プレイ当初は聞きなじみのない単語が頻出して困惑した(もちろんもともと専門分野として詳しい人には楽しいだろう)。

 だがドキュメントという形で謎解きに必要な情報は十分に与えられ、重要そうな箇所には下線が引かれている。さらに「つまり〇〇ということは……」と出題者が丁寧に誘導してくれるため、資料を眺めながら点と点がつながり「あっ!」と脳汁があふれる感覚を、専門的な知識がなくても味わえるのだ。さらにドキュメントにも載っていない問いがあったとしても、作中世界は現実の物理法則・歴史に即した描かれ方をしているため、プレイヤー自らがGoogleなどの検索エンジンに単語をタイピングすれば答えが載っていることも。さらに登場人物の配置が巧みで天才である瞳の発言を、一般人兼ある程度専門分野として修めている主人公がプレイヤー向けにかみ砕くという流れを経ることで、わかりやすく変換されていた。

 またどうしてもわからない人向けにヒントが見れたり、もっと言えば面倒な人は謎解き自体を飛ばしたりすることも可能。そのためこの一見テンポを損なうような仕掛けは、ミステリーの醍醐味を表現しながらもストレスを限りなく排することで、“読むだけ”になりがちなビジュアルノベルにインタラクティブな没入感を与えていた。

 さらにSFを軸にした小難しい話だけが展開するのではなく、地球外知的生命体を巡る人間同士の争いや瞳・桃子とのほのぼのとした日常も描かれる。こちらは「SF要素と謎解きだけを楽しみたい!」というプレイヤーにはノイズかもしれないが、個人的にはシナリオの緩急として機能していたと感じた。そもそもSFの奇想天外なストーリーに込められたメッセージは、宇宙人を描くことで人間の正体を逆説的に表現するかのように、現実へのメタファーであることが多い。そのため『ステラーコード』の宇宙で展開するSFストーリーと、地上で描かれる陰謀や人間ドラマは、本作のテーマにおいて本質的には同一だ。宇宙の広さと無常さと同時に、人間の矮小さと好奇心の尊さを考えさせられる作品だった。

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