芳賀敬太にとっての音楽的な「TYPE-MOONらしさ・Fateらしさ・FGOらしさ」とはーー『FGO』最新OSTを機に考える

「奏章Ⅲ」で意識したのは“美しさ” 

ーー「奏章Ⅲ 新霊長後継戦 アーキタイプ・インセプション」については、夏の水着イベント「セレブサマー・エクスペリエンス!」から急に「奏章Ⅲ」に変化する、という特殊なギミックもあるなかでの制作でした。

芳賀:手前の水着イベントからの流れもあるんですが、前半はドバイっぽいオリエンタルな感じの楽曲を使いつつ、後半は月に行ってしまうのでサイバーなテイストが多くなっていく、という形にしています。

ーーそのぶん「奏章Ⅲ」に入ってからしっかりドバイテイストを出していた「オールド・ドバイの休日」が際立ちました。

芳賀:そこも浮いてるくらいに存在感が出るようにドバイ感を出すために作った曲なので、狙い通りですね。

ーー「奏章Ⅲ」はTYPE-MOONファンにとってはたまらないバトルも多く、象徴的なフレーズや楽曲が随所に使われているのもグッときました。各キャラクターを立たせつつ、トータルで「奏章Ⅲ」として意識した部分はあったのでしょうか?

芳賀:わかりやすいテーマとして「美しくありたい」と思っていました。ムーンキャンサー戦の「Waltz Upon The Moon ~ FATAL BATTLE 9 ~」、アンキ・エレシュキガル戦の「終局の宇宙へ ~アンキ・エレシュキガル戦~」、そしてアーキタイプ:アース戦の「Under The Earth ~アーキタイプ:アース戦~」と難易度の高いバトルが続くわけですが、それを激しく描くのではなく、美しく描くことに終始しています。そういう流れがあったなかで、最後のムーン・キャンサー戦で流す「新霊長継続戦:Moon Rise Obsession」は、各段階ごとに変化する四楽章構成にして、最後にヒロイックにするという王道の形にすることで、より音楽的に演出することを意識しました。

ーー「新霊長継続戦:Moon Rise Obsession」が展開も含めて感情を大きく揺さぶられる音楽だと感じたのは、そうした布石を打ったうえでの演出があったからなんですね。個人的には「Wonderer(feat. ReoNa)」のBGMバージョンとして作られた「Wanderer」の“ボーカルをミュートすると裏のメロディが主旋律になる”という仕掛けにも驚きました。

芳賀:スパイラル・ラダーの曲はいつもBGMバージョンも作るのですが、今回は「フルアレンジだといつも通りなので、トラックだけになっても別の曲として成立する形に出来ないかな?」というアイデアで進めていきました。歌モノのバージョンのほうは初期アレンジの段階でストリングスパートがなかったので、そこを劇伴も意識しつつ足したうえでボーカルに沿って変更していたものを元に戻したり、裏で鳴っていたフレーズを、BGMバージョンでは大幅にミックスバランスを変えて表に出してみた、という形です。

ーートラック自体も1番と2番で大幅にジャンルを変えていたりと、大胆な作り方が目立ちました。

芳賀:ひとつの曲に対して色々なアイデアを思いついても、Aメロ→Bメロ→サビを繰り返すだけの構成だとそこから切り捨てる必要のあるものが出てくるんですよね。質として足りているのに決まった形のせいで使えないという。グローバルな音楽シーンでは美味しいところだけを繋ぎ合わせたような曲も増えてきていますし、自分は幸いそのコントロールを好きにやれる立場でもあるので、だったら思い切ってやっちゃえという感じですね。

ーー芳賀さんの音楽における趣味趣向が反映されている感じも面白かったです。グローバル基準ということでいえば、個人的にローの音が章を重ねるごとに厚くなっていっている気がするのですが、これは制作環境の変化なども影響しているのでしょうか?

芳賀:マニアックなことかもしれませんが……たしかに終盤に向けて少しずつ低音を足していく、EQを少しずつ上げていくということはやっています。そこに気づいてもらえると嬉しいですね。

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