「自分だけは捕まらないと思っている」 経営学者が読み解く、闇バイトに応募する若者の心理とは
闇バイトに関する報道を連日耳にするが、実行犯として逮捕される人物には10代から20代が目立つ。なかには“バイト”の内容を聞かされず、知らず知らずのうちに犯罪行為に手を染めていたケースも少なくない。
若者こそネットリテラシーが高く、SNSの活用も手慣れたものと感じられる。にもかかわらず、なぜ若者は闇バイトに応募してしまうのだろうか。悪しき道へと導く手法ばかりでなく、若者の心理傾向にも着目しなければ、今後も人生を棒に振る者は後を絶たないだろう。ITマーケティングに詳しい皇學館大学特別招聘教授・遠藤司氏に、闇バイトに手を出してしまう若者の心理を聞いた。
闇バイトに参加する理由は、差し迫っているから
まず、若い世代が闇バイトに関与する背景として「様々な要因が絡み合っており、明確な正解があるような単純な問いではない」と前置きをした上で、「やはり経済的に困っていたり、将来に何らか不安を感じたりしていることが大きいです。不安定な生活から逃れて幸せを勝ち取るためにと『捕まるリスクが低ければ大金を得るために闇バイトをやりたい』と安直に考える人が増えています」という。
「捕まった若者は『闇バイトとは知らなかった』と供述するケースが多い。もちろん本気で言っている人もいますが、実際には心のどこかで危ないのではと思いつつ、参加した人も結構いると思います。私も若い人と話す機会にそれとなく聞いてみると、冗談半分ではありますが、本当に差し迫っていたら自分もやるだろうとの回答が返ってきます」
続けて遠藤氏は「人間は『自分だけは大丈夫・捕まらない』『まさか自分が犯罪に巻きこまれるはずはない』などと自身を正当化する“正常化バイアス”を有しています。こういった心理傾向も、薄々危険なことがわかっていながらも参加してしまう理由です」と説明した。
“不安にさせて奪う”から“うまい儲け話を与える”にシフト
若い人が闇バイトに引っかかる理由としては、「まず若い世代の方がSNSの利用率が高いのだから、闇バイトに参加する比率が高くなるのは当然です」と解説した遠藤氏。
「その上でいえば、若い世代は社会経験が浅く、怪しいかどうかに気づく能力に乏しい。例えば私がバイト先の店長だとして、『後でお金を払うから君の名義で会社の携帯電話を買ってきて』とお願いされれば『そういうこともあるのかな?』と考え、応じてしまう高校生や大学生は相当数いるでしょう。このように、ふとした時に悪の道へと誘う手法に、犯罪者は長けているのです。SNSの普及にかかわらず、それ自体は昔と大差ありません。ただ昔は、危険な仕事は危険な場所に行かなければ関わることも少なかったのですが、SNSは誰にでも気軽に使えるもので、どこに危険が潜んでいるのかはわかりません。ふと闇バイトの募集を見て、気軽な気持ちで応募してしまい、後で引き返せない状況になることもザラにあります」
また「履歴書も面接も不要で、スキマ時間を使ってアルバイトする方式が流行っています。アルバイトへの応募が簡略化され、闇バイトにアクセスしやすくなったことも影響しています」と、働き方の変容による要因も小さくないと語った。
加えて、騙す側の事情にも触れる。
「一昔前は、無知な高齢者などを“不安にさせて奪う”詐欺が多かったように思います。高齢者の場合、身近な人に受け入れられたい、感謝されたいといった社会的欲求や承認欲求がある。オレオレ詐欺などは、まさにその心理を巧みに利用した詐欺といえるでしょう。一方で、高齢者らをターゲットにした犯罪手法には、様々な対策が打たれました。そのため若い人など、お金に困っている人による生活を維持したい、安心して暮らしたいという生理的欲求や安全の欲求を利用する方向に、詐欺集団はシフトするようになりました。つまり“うまい儲け話を与える”詐欺へと代わったのです。これらは差し迫った欲求であるがゆえ、心が痛みます」