ミュシャの絵柄×『半熟英雄』ライクなファンタジーRPG 『ソングス・オブ・サイレンス』に見る“遊びやすさ”の真髄

 リメイク版の『リベンジオブザセブン』で人気再燃した『ロマンシング サガ2』は他ファンタジーRPGと一線を画す魅力がある。それは国そのものが主人公となるストーリーだ。JRPGでは希有なストーリーだが、近いジャンルで似たようなゲームがあり、同メーカー(当時スクウェア)から出ているのはご存知だろうか。それがリアルタイムシミュレーションRPG『半熟英雄』だ。

 『半熟英雄』はいわゆる国盗りゲームで、1国を率いて全城占領を目指す。ライバルと城の奪い合いを繰り返す、その過程が物語となる。煩わしい操作や詳細なデータを廃しつつ、ターン制バトル「エッグモンスター」など手に汗を握る要素をもりこみ、直感的な遊びやすさで人気を博した。

 もしも『半熟英雄』ぐらい遊びやすく、現代ゲーム水準のグラフィックで戦場を駆け抜けられ、そしてシリアスなファンタジー世界が舞台の作品があったなら―― そうしたゲームを求める人には『ソングス・オブ・サイレンス』(Steam / PS5 / Xbox Series X|S)をオススメしよう。

Songs of Silence - 1.0 Release Date Trailer | Art Nouveau-inspired Fantasy Strategy Game

 本作の美点はビジュアルとゲームプレイの合致だ。美麗なビジュアルに抱く印象どおりのルールとUIで、ファンタジー世界の国興しを誰でも楽しめるように仕立てた。特記すべきはプレイ感における静と動のコントラストだ。国を治める王と、兵を率いる将の心境を、感覚的に味わえるのがすばらしい。筆者はここに、冒頭であげた『半熟英雄』に近い「遊びやすさ」を感じた。

ノー、ストラテジー。イエス、ファンタジー!

 『ソングス・オブ・サイレンス』には2種類のゲームモードがある。メインコンテンツはキャンペーンだ。ヒロイック・ファンタジーの世界で国家の興亡や滅亡に立ち向かう物語を繰り広げる。ビデオゲーム・エンターテインメント、ファンタジーRPGの王道にひたれるぞ。

 まずはビジュアルの出来映えに目を向けてもらいたい。オープニングムービーから強烈なインパクトで訴えかけ、ただものではないゲームだと予感させる。緻密な線画と鮮やかな配色、神々しさや自然をイメージしたレリーフはアールヌーヴォー様式を想起する(メーカーもインスパイアと述べている)。荘厳な世界や激しい戦い、英雄の凱旋を奏でるコーラス付き管弦楽曲のBGMも心地よい。

 ストーリーも期待を裏切らない。第1章は、世界をむしばむ煉獄に祖国を飲まれたエーレンガルドの王女ローレライが、同じ境遇の難民を率いて安寧の地を求めるところから始まる。隣国に頼るも裏切られ、後を追われて逃げ場を失ったそのとき、聖なる天鳥エイラの導きで……煉獄に飲まれ世界創造の賛美歌が途絶えた地「沈黙」へと向かう。ゲーム開始約2時間でガッチリとハートをつかんでくれるストーリーだ。

 ゲーム展開は章クリア型のシミュレーションRPGである。章内の目標に従い、主人公を目的地まで移動させて戦闘に勝利する、という流れだ。戦闘パートは次章で述べるが、要はヒーローの兵隊を強く大きくすればいい。マップ上にあるのはヒーローと拠点のみである。ヒーローで兵隊を率いて拠点を占領する。占領した拠点で得た収入を使い兵隊を購入する。この繰り返しをシナリオ会話が盛りあげプレイ意欲を保ってくれる。

 マップ画面においても本作は剣と魔法の世界を描く。鳥観視点から眺める自然豊かな大地はファンタジー小説のフルカラー挿絵を思わせる。城や砦をクローズアップすると立派な防壁や市井、のどかな集落では人々の暮らしぶりすら垣間見える。天高くまで引き下がるとマップが地図になり、ヒーローや拠点をスタチューで表示する。ファンタジーファンのツボを押さえた演出だ。

 ここまでが、本作の魅力を静・動に分けたときの“静”にあたる。マップはターン制で、プレイヤーが「ターン終了」ボタンを押すまで敵は動かない。ビジュアルで目を潤し、ミュージックに聞き浸り、そしてストーリーを堪能しよう。その静パートに濃厚なフレーバーをもたらすのが“動”、次章で紹介する戦闘パートだ。こちらはリアルタイム制で、しかも数十もの兵が戦場の各地で必死に戦っている。ヒーローとして剣を握り魔法を唱え、馬で駆け、勝利をもぎ取ろう。

工夫を凝らした“動機づけ”が美しい

 『ソングス・オブ・サイレンス』の戦闘パートはオートバトラーだ。あらかじめユニットを配置して隊列をつくり、敵の配列にぶつける。ユニットはプレイヤーの命令を受け付けず、各々が敵に接近して攻撃する。騎士は3~5騎、歩兵は16人が1グループとなるが、いざ敵と斬り結べば乱戦となり、1騎1人と散り散りになるのが面白い。オートバトルで命令が届かないほど激しい乱戦を演出した。ここでヒーローに求められるのは声ではなく、力だ。

 プレイヤーはスキルによって戦闘パートに関与できる。ヒーロータイプにちなんだスキルが面白い。たとえば、主人公スキル「騎兵の突撃」は味方騎士ユニットをすべて対象エリアに突進させ、進路上の敵すべてを押しのけつつ攻撃する。これは騎士をたくさん連れたくなるスキルだ。司祭ヒーローなら「天の介入」で対象エリアに天界の戦士を2体参戦する。敵の遠距離ユニット付近に出現させるもよし、歩兵の戦列を持ちこたえさせるのに使うもよしだ。勝機をつかむため、スキルの使いどころを見定めるべく、乱戦を見守る真剣さや必死さがストーリーのシチュエーションを盛りあげてくれる。

 ユニットを同数以上用意して「いいところでドーン!」とスキルを使えば勝てるし、敵の隊列を見てから有利な隊列を組んでも勝てる。両方こなせばより良いのはもちろんで、プレイヤーが両方やりたくなるようビジュアルを使って説明したのが見事だ。ユニットはステータス項目が細かいものの、見た目の印象は裏切らない。基本的には騎兵・槍兵・弓兵の三すくみで、高価なユニットは強く、安価なユニットは弾よけになる、程度の理解で事足りる。特殊能力もアイコンで要約してありイメージしやすい。槍アイコンだから馬に刺さる、盾アイコンだから弓矢を防ぐ、といった具合だ。これならすぐに覚えられる。

 戦闘スキルだけでなく、マップで使う拠点強化や、拠点での兵隊購入といった命令もカード状UIである。カードの絵柄からどういう意味かイメージしやすい。だから、新しいカードを目にすると好奇心がうずく。好奇心からフレーバーテキストに耳を傾けたくなる。ストーリーを進める動機をかき立ててくれるのだ。ストラテジージャンルにおいて、本作ほど意味のある美しさに満ちたゲームはほかにない。

やっぱり「ビジュアル」は裏切らない

 トレイラー動画で「買いだ!」と思った人は幸福である。これは意味のある美しさでファンタジー世界を描いたシミュレーションRPGだ。ターン制のマップパートとオートバトルの戦闘パートで、王であり将でもあるヒーローをロールプレイできるぞ。ヒーロー稼業は初めて、という人も心配無用だ。アートワークで抱いた印象を信じれば大丈夫である。小さな文字を読み落としたから負けた、なんてことは起きない。安心してプレイできると保証しよう。

 もちろん、やりこみ要素も用意してある。ひとつ目はキャンペーン中の難しい追加目標や隠しコンテンツだ。ストーリーを追って1周クリアし、ゲームプレイが上達してからの2周目で挑みたい。ふたつ目はゲームモード「スカーミッシュ」だ。ストーリーがない国盗りストラテジーで複数国を相手に覇権を競う。多様な種族で――ストーリー上の敵役たる煉獄側でも――プレイでき、ヒーローやユニット、さらには遊び方すら違う。プレイそのものが物語となる、極限やりこみプレイに挑まれたし。

 『ソングス・オブ・サイレンス』はストラテジーらしさを廃しつつ、ストラテジーでなければ描けない規模で、国そのものが主人公のRPGをつくりあげた。とても直感的にヒーローをロールプレイできるので、ハイ・ファンタジーのファンにはぜひ手にしてもらいたい。ゲーマーである筆者の率直な感想は、ミュシャの絵柄で『半熟英雄』ライクな最新のファンタジーRPG、である。

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