福原遥が『透明なわたしたち』で炙り出す“人間の本質” 善意の暴走を表現した演技力
福原遥が主演を務めるABEMAオリジナルドラマ『透明なわたしたち』が話題だ。第43回日本アカデミー賞最優秀作品『新聞記者』や国内興収30億円超えのヒットとなった『余命10年』の藤井道人がプロデュース、商業映画デビュー作『ぜんぶ、ボクのせい』が多数の国内映画賞にノミネートされた松本優作が監督・脚本を務める本作。富山の高校を卒業し、それぞれの道を歩んでいた男女6人の人生が、渋谷スクランブル交差点で起きた無差別殺傷事件をきっかけに再び交差していく。
それぞれの視点から過去と現在に起きた事件を多角的に見つめ、“真相”を浮かび上がらせていく鮮やかな構成もさることながら、特に目を見張るのは松本監督の手腕と演者の巧みな表現力が相乗効果でリアリティをもたらす人物造形だ。驚くほどにいまを生きる若者への解像度が高く、同世代の視聴者にとっては共感せずにはいられない内容となっている。
闇バイトに手を染めてしまった青年、都合の悪い事実を隠そうとするCEO、人生の不満をSNSで他者への怒りに変える一児の母など、このドラマに出てくるのは単純に善悪では語りきれない人ばかり。そしてそれは、主人公もまた例外ではない。本作の福原は今まで一度も見たことがない、だけど誰もが心当たりのある感情を持った普通の人間を体現している。
福原演じる主人公の中川碧は、東京の出版社で働く週刊誌の記者だ。「言葉は誰も知らない事実を世の中に存在させることができる」と高尚な心持ちで書く仕事に就いたが、実際に扱うのは芸能ゴシップばかり。うんざりしながらも元々新聞記者になりたかった碧は自分のオリジナリティを出そうと頑張るが、上司からはより下世話な記事を求められ、かつセクハラを受けても笑ってやり過ごしている。
理想と現実のギャップに打ちのめされがちな社会人のリアルを全身に纏った福原。その憂いを帯びた表情からはときに色気さえも立ちのぼり、NHK教育テレビ『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』の時代から彼女を知っている視聴者としては驚きを禁じ得ない。回想シーンで描かれる純粋に自分の将来へ希望を抱いていた少女期との演じ分けもまた見事だ。
そして自身の信条とは裏腹に消費されていくだけのスキャンダルを追う日々に疲れた頃、碧は渋谷スクランブル交差点で無差別刺傷事件を起こした犯人が高校の同級生であることを知る。同級生目線で事件を報道する碧の記事はインターネット上で話題になり、PV数も稼げたことから社内での評価も上々。そのとき、顔をほころばせて喜ぶ姿に思わずゾクッとさせられた。たった一時期であっても仲良くしていた同級生が凶悪な事件を起こしたというのに、碧は心を痛めるよりもまず、同級生であることを特権にして書いた記事が世間に注目されたことへの喜びが勝るのだ。