『SIREN』『SILENT HILL』の生みの親・外山圭一郎 ジャンルを横断するクリエイティブに迫る
1999年、コナミよりPlayStation用ソフト『SILENT HILL』が発売された。
銃弾の残りを数えながらクリーチャーを倒し、謎を解いて進んでいくというデザインは、カプコンの『バイオハザード』を彷彿とさせるものだが、霧深い静かな観光地という舞台設定や、勧善懲悪とはいかないストーリー、和製ホラーの締め付けるような恐怖演出など、あらゆる点で唯一無二の作風を誇っていた。
制作を指揮したのは外山圭一郎氏。のちに多くの名作を生み出すゲームクリエイターである。今回はそんな同氏の経歴を追いかけつつ、彼とともにクリエイティビティを発揮した同氏の盟友たちについても紹介したい。
※()内のハード名は初出のもの。
『SILENT HILL』(1999・PlayStation)
外山氏の初作品。ライター業で口を糊している男・ハリーが、サイレントヒルという観光地に出向き、季節外れの雪が降る異界に迷い込んでしまうという物語。
前述したとおり、やりきれない思いを抱くことになるエンディングや、ジャンプスケアに頼らない精神的な恐怖を醸すホラー表現など、20世紀のビデオゲームではまだ見られないような先進性が評価された作品である。この後は外山氏の手を離れたものの、多くの続編が作られた。
『SIREN』(2003・PlayStation 2)
外山氏の2本目となるディレクション作品。こちらもホラーだが、舞台を日本に移し、よりいっそうジットリとした和風ホラーの味わいが増した一本である。
羽生蛇村で起きた虐殺事件という都市伝説に興味を持った大学生・須田恭也は、村で謎の儀式を目撃する。突如として鳴り響くサイレン。須田は盲目の少女・神代美耶子とともに村から脱出しようとするが――。
日本神話やオカルトなどを巧みにミックスしたシナリオは非常に読み解き甲斐があり、いまだに根強いファンがいる。ゲームメカニクスの面では、全キャラクターの行動がタイムラインになっており、少しずつ事件の全貌が明らかになっていくチャプター形式や、敵の視界を盗み見ることで安全地帯を割り出すことができるギミック「視界ジャック」が秀逸だ。
『SIREN2』(2006・PlayStation 2)
『SIREN』の続編。今度の舞台は孤島であり、操作性の向上や敵パターンの増加など、あらゆる面でグレードアップしたゲームだ。
1976年の大停電とともに、突如として無人島となった夜見島。その29年後、因習を調べに来た雑誌編集者や、ヘリコプターのトラブルで不時着してきた自衛官など、さまざまな人間が誘われるようにして夜見島へやってくる。彼らが島で見るものとは――。
ループ構造であった前作と異なり、平行世界を描く本作は、また違った恐怖を煽ってくれる。ピエール瀧の渾身の演技も堪能できるぞ。
『SIREN: New Translation』(2008・PlayStation 3)
『SIREN』のリメイク作(新訳=New Translation)といった作品。舞台は羽生蛇村だが、登場人物はアメリカ人に置き換えられている。
操作性などはアップグレードされたものの、英語で喋る屍人など、全体的なチグハグさに戸惑ったユーザーも多い作品だった。後年、外山氏自身が「あのときは国外のマーケットを意識しすぎた」といった旨の反省をしている。
参考:「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー(4Gamer.net)
『GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において彼女の内宇宙に生じた摂動』(2012・PlayStation Vita)
ついにホラーゲーム以外の作品をディレクションすることになった外山氏。しかし、流石は同氏といったところで、一風変わったアクションゲームを用意してきた。
『GRAVITY DAZE』は重力を操るアクションゲームである。重力嵐に苛まれる街ヘキサィルを救うため、明るく元気な女の子キトゥンが驚異と戦うというストーリーだ。
ゲーム中、好きなタイミングで自分も向いている方向を「下」と規定することができ、キトゥンは真っ逆さまに自由落下する。このエネルギーを利用して敵をキックしたり、素早く移動したりするのがミソの作品だ。これがPlayStation Vitaというハードとマッチしていた。
『GRAVITY DAZE 2/重力的眩暈完結編:上層への帰還の果て、彼女の内宇宙に収斂した選択』(2017・PlayStation 4)
『GRAVITY DAZE』の続編となるタイトル。ヘキサヴィルから場所を移し、今度はジルガ・パラ・ラオという街で冒険することとなる。
チャージグラブなどを始め、多数の新アクションが導入された本作。マップもとても広くなっており、かなり現代的なオープンワールドアクションゲームの様相をしている。現在、外山氏がディレクションした作品でもっとも新しいタイトルはこれだ。
外山氏は本作を製作後の2020年、長らく在籍したソニー・インタラクティブエンタテインメントを退社し、Bokeh Game Studioを立ち上げる。その一作目となるのが次の作品だ。
『野狗子:Slitter Head』(2024年11月8日発売予定)
外山氏が久々にホラーに帰ってきた。『野狗子:Slitter Head』は、猥雑さを残す街「九龍」で、人間に擬態する怪物「野狗子」を倒すホラーアクションゲームだ。
九龍は多くの人間が集ううらぶれた街なので、当然戦闘中も民間人がすぐ傍にいる。やつらに上手く憑依し、血の力を利用して野狗子と戦っていこう。民間人のひとりやふたり、使い捨てても何ら問題がないというのがまさに外山氏の作風を感じられて面白いところだが、その場にいるモブ共の数にも限りはある。その場にいる全員の体力を管理しなければならないという点がとてもユニークだ。
ギトギトしたサイバーパンクの空間に、血みどろホラーとアクションの融合という、同氏のクリエイティブのなかでも最も足し算を感じさせられる作りである。今から発売が楽しみだ。
続いて、外山氏とともに多くの名作を作り出してきたクリエイターを何人か紹介したい。
山岡晃
作曲家。長らくコナミで活動したのち、グラスホッパー・マニュファクチュアを経て、現在はスーパートリック・ゲームズに在籍。
「SILENT HILL」シリーズや「BEMANI」シリーズなどで作曲を担当。『野狗子:Slitter Head』では実に25年ぶりに外山氏とタッグを組むこととなる。また、このたびリメイクされた『SILENT HILL 2』でも同氏のクリエイティブがたっぷりと聴けるので、そちらもぜひ堪能してほしい。
佐藤直子
脚本家。「SIREN」シリーズや「GRAVITY DAZE」シリーズでシナリオライターとして活躍されている。
毎年行われているSIRENファンのあいだでのウェブ上の二次創作イベント「異界入り」について、同氏は今年もチェックされているようだ。
大倉純也
ゲームディレクター。元コナミ所属で、外山氏の誘いに応じてBokeh Game Studioの立ち上げに加わったひとり。
『SIREN』『SIREN2』『SIREN: New Translation』ではプランニングとスクリプトチーフ、『GRAVITY DAZE』『GRAVITY DAZE 2』ではリードゲームデザイナーを担当しており、外山氏とは長い付き合いである。
以上、外山圭一郎氏のクリエイティブを追いかけさせていただいた。
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