今年も熱戦が繰り広げられた『にじさんじ甲子園2024』 数万人が見守ったドラマを振り返る

抱腹絶倒待ったなし 見どころたっぷりの育成配信

 『にじさんじ甲子園』は今回含めて過去5回開催されているが、その盛り上がりのコアとなるのが、育成配信を通して徐々に選手たちが強化されていくチーム作りにある。

 3年縛りのあいだで各選手の育成を進め、勝利を目指してチーム作りしていく流れは、いわば一本道のすごろくといえるもの。練習カードに即した練習とマス毎に割り振られたイベントを通し、様々なステータスを増強させていくのだが、ここで各監督の「配信内容のエッジさ・面白さ」が光る。

 ひとコマひとコマに何かしらのイベントが行われるので、まいどまいど起こるイベントにタレントらが関われば、それだけで面白みが増してくる。「実況パワフルプロ野球」シリーズを知っていようがいまいが関係なく盛り上がれるという寸法だ。いくつかのエピソードを振り返っていこう。

性格がコロコロと変化する北見遊征

 『パワプロ』の本モードでは各選手には性格が設定されており、ごくふつう、熱血漢、クール、お調子もの、内気など8つに分けられ、これが能力の成長そのものにも影響してくる。そのため育成方針やポジションに沿った性格であることが理想なのだが、この企画においては、「選手本人とタレント本人の性格が合っていないと違和感を覚える」という別個の悩みも生まれ、それがキッカケとなりいくつかの面白シーンを生み出していった。

 エクスが監督を務める英雄アカデミー高校に入った新人・北見遊征は、自己紹介で「クールガイ」と名乗っており、「なら性格はクールじゃないと」ということで選手名を「北見COOLGUY」に設定して育てていくことに。

 「性格がクールじゃなくなるってなったら面白いんだけどな」とエクスが話すなか、入部して1ヶ月ほどで「先輩の影響を受けて性格が変わる」イベントに2回連続で北見が出くわすことに。

 まさか話題にしてすぐにイベントが起こるとはと、おもわずエクスも視聴者も笑いに包まれる。最初は断ったものの、2度目のイベントでは「先輩の性格がクールだからクールになる」というコメントを読み、性格を変えることに。「ごくふつう」からまごうことなき「クールな北見」へと変わったのだ。

 しかし、この数日後には、チーム事情もあり三たび性格が変わることに。クールからお調子者へと変わり、ごくふつう→クール→お調子者と性格がコロコロと代わっていく北見に、エクスやリスナーは大笑い。本大会でもたびたび実況・解説のネタになるほどであった。

 ちなみに、じつはちょうど同じ時間帯に北見本人は誕生日配信の真っ最中だった。被り物にハッピーバースデーメガネを着用しており、まさに浮かれ気分のお調子者状態であったことは覚えておきたい。

【 #にじ甲2024 】 逆境を超えろ。英雄アカデミー1年目冬~ 【 にじさんじ/エビオ 】

前回王者が見せた絶望からの大躍進

 選手ドラフト時には「親しい仲でイジりやすいメンバーが選ばれやすい」と先に書いたが、その理由としては、親しい選手を選んでおくと何かと話題やネタにしやすく配信を盛り上げやすいという一面がある。配信者・ストリーマーである監督陣にとって、「配信を盛り上げる」ことは「チームを強くする」のと同じくらいに必須となってくる。

 だからこそ、仲の良いタレントを揃えつつ、適度に選手(タレント)をイジって笑わそうとする。これはこれまでの過去企画でも行われてきた、いわば本企画におけるスタンダードなスタイルだ。

 椎名と花畑は、この流れを一番に汲んだ典型であったのはいうまでもない。昨年優勝を果たした椎名は、今回8人の監督の中で先陣を切って配信を始めたひとりだが、本育成ではかなり苦戦を強いられることになってしまった。

 初年度から社・りりむ・卯月を新入生として育成し、育成の進捗一つ一つに「おぉー!伸びたぁー!」と喜ぶ椎名だが、1年目の練習試合・夏大会からとんでもない乱打戦に巻き込まれ「なんやねんこれぇ!?」と悲鳴をあげる。止まらぬ相手の攻撃に「え? どうすればええのこれ?」と困惑した表情を浮かべていた。

 思い通りに進まぬ展開に「おぉい! おまえぇ!?」などと例年以上に掠れ気味な叫び声をあげ、「このカロリー消費量はヤバイ! 本戦のとき、ガリガリになってる!」と語る椎名。前作までのCPUではしてこなかったであろう攻撃・打撃に「そっちがするんじゃないよ!(相手バッターのホームランシーンを見て)」と名言を吐いた。

 今回大きく仕様が変わった「栄冠ナイン」に四苦八苦し、2年目の秋大会まですべて1回戦敗退という状態に。それでもなお彼女が明るく配信をできたのは、先にも書いたようにイジりやすい面々をメンバーに加えていたからだ。

 ここ1年ほどにわたってイジっている「やししぃ」ネタをつかいながら、気心知れたりりむ&卯月のおりコウを指名し、ドラフト直前・途中には「社への愛情」「私たちには子供がいる」と、ギア全開でコントをしていた。

 1年目・秋大会時に前評判(勝利期待度)Dとなった相手チームを見て、思わず「無理だよ、無理すぎる無理」と思わず口走ってしまうほどの状況で彼女が見出したのは、「青特殊能力を選手にたくさんつける」という育成法だった。

 育成を通じて本屋(特殊能力を獲得できるアイテムを持ってきてくれるOB)が3人も生まれるという幸運に恵まれ、本屋から次々と特殊能力をもらえる本を入手。本を読むためには選手個々人の学力を高める必要があるため、折を見て学力があげられそうなタイミングで勉強をするようになり、「いやうちはやっぱ、頭良くないとぉ~」とイジるようになった。

 こういった経緯もあり、チーム全員がにじさんじの面々となる2年目7月以降、特殊能力がゲットできる合宿期間や特訓マスを踏んだときには、「頼むぅ! ここ、ここで! お願いしやす!」とまさしく声が裏返る勢いで願ってみせ、これが功を奏したのかかなりの確率で特殊能力をゲットしていった。

 3年目・夏大会を迎える直前には、貯めに貯めていた本を一気に中心選手らに読ませて強化し、前年まで地方大会1回戦で敗退し続けていたチームを大躍進させたのだった。

 ステータスが高ければもちろん出来上がる選手は強いわけだが、特殊能力をたくさん積んで尖った選手を育成するのも「栄冠ナイン」の醍醐味のひとつ。椎名は今回の育成を通して、「それができれば苦労しないよ!」と思えてしまうほどの育成を体現してみせたと言えよう。

エッジの効きすぎたエンタメで実況解説にすら突っ込まれる花畑チャイカ

 「にじさんじレジスタンス」として椎名と長く付き合いのある花畑チャイカが本企画に参加するというのは、長くにじさんじを追いかけているファンであればあるほど驚きであったろう。

 茶目っ気と本音を交わらせる独特なトークに根強い支持があつまる花畑。そんな彼の出場に不安の声をあげていたのは、彼の先輩であり「にじさんじ甲子園」で何度も監督を経験していた樋口楓であった。

「チャイちゃん野球じゃん! 頑張ってね。病んだら連絡してね? わたしは去年夜見に3回くらい泣きついたよ」

【APEX】4人で出来る日がきたよ💰 w/ 夜見れな , 魔使マオ , 花畑チャイカ【にじさんじ / 樋口楓】

 会話の中で「周りがうまくいき過ぎると絶望しちゃうんだよ」「(ゲーム進行上)運要素が強い。だからしょうがないって割り切れる人が強い」と自身の経験を踏まえて振り返りつつ、花畑へのエールとして言葉を寄せていた。

 「チャイちゃん、ゲロ吐くほど泣くでしょ?」「いやそれは椎名だよ」と2人は冗談を言い合っていたが、ドラフトでは先述したように、リゼや加賀美、石神、夜見、葉加瀬、シスター・クレアに北小路ヒスイと、花畑も話題に上げやすい面々をドラフトしていた。

 「俺が野球だ!」「このグラウンドを侵略するぅ!」とビッグマウスをたたいてから、すこし後にはブツブツと小言を吐くようにして話をすすめるいつものスタイルに加え、ドラフトした面々を使って1人コントをするという花畑らしい流れが生まれた。

 特に加賀美ハヤトを雑にモノマネしながら進行していく流れは、想像以上にリスナーに受け、花畑本人にとっても好ましかったようで、1度の配信内で何度も何度も擦っていくことに。

 しまいにはデビューしたばかりの動物系タレント・ルンルンをモチーフにした「ダークルンルン」というオリジナルキャラクターをマネージャーに据え、そのキャラメイクに数時間以上かけて育成が一切進まないなど、もはややりたい放題の様相であった。

 その様子をみた舞元・天開は、『にじさんじ甲子園2024』まとめ配信の中で「おまえもうそれをやりてぇだけじゃないか!」とツッコんでいたが、無理もない。花畑はこの企画には初参加であり、樋口から告げられたような強圧なプレッシャーを多少なりとも感じていたのかもしれない。

 花畑は育成自体8チームのなかでもかなり低調に終わってしまい、ゲーム内の勝敗や育成進捗だけでみれば気が滅入りそうになったはず。そういったなかで話題に上げやすい面々を選び、1年目から選手を育成しつつイジり、配信を盛り上げていったのだ。彼の配信者力の高さ・強さが詰まっていたといえよう。

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