ァネイロ×melonade「一龠」タッグが語る、ボカロの特性を由来とする“ロジカルシンキングな楽曲創作論”

毎回大勢のクリエイターによる渾身作が集結するVOCALOIDシーンの一大イベント、『The VOCALOID Collection(以下、ボカコレ)』。複数部門からなる本イベントの中で、多くのVOCALOIDファンが注目するのが、新人クリエイターの登竜門・ルーキーランキングだ。

 「ボカロP活動歴2年以内」という制約の課された本部門。ここ数年は回を経るごとに参加作のハイクオリティ化が進んでいるが、既存の音楽制作における価値観を刷新するような、新たな才能の芽が散見されるのも興味深い点である。

 前回の『ボカコレ2024冬』ルーキーランキングで2位を獲得し、一躍注目を浴びた楽曲「一龠」はまさにその典型例だろう。本作はボカロP・ァネイロの手掛ける強固なEDMサウンドのみならず、映像クリエイター・melonadeによるプログラミング技術を駆使して制作された、強烈な独自色を放つ映像も特筆すべき魅力となる。

 今回、リアルサウンドではこの「一龠」を手掛けたタッグ、ァネイロ×melonadeに独占インタビューを敢行。自身とVOCALOIDの音楽について、あるいは従来の音楽制作にまつわる価値観とはやや毛色の異なる、極めてロジカルシンキングな作曲・作詞観について。新たな時代を作るニュージェネレーションたちの創作論を、じっくりと訊かせてもらった。

インターネットミュージックが音楽そのものへの入口だった

黒塗り世界宛て書簡/重音テト(Letter to the Black World / Kasane Teto)

——本日はどうぞよろしくお願いいたします。

ァネイロ&melonade:よろしくお願いします!

——あれっ、ァネイロさんって普通に喋るんですね……?

ァネイロ:え? はい、まぁ……...ふ、普通に? 普通にってなんだろう(笑)。

melonade:あれ?普段よくツイートとかしてますよね...?

——いや、それはそうなんですが……。

ァネイロ:あ、でも言われてみれば、語尾とかはちょっと変...……? かも(笑)。

melonade:ははは、たしかに(笑)。

——.な、なるほど......。いえ、失礼しました。では気を取り直して。まず最初におふたりのボカロとの出会いを伺えればと思うのですが。

ァネイロ:自分がボカロと出会ったきっかけは、フロクロさんですね。

 そもそも、音楽を好きになったのはここ5~6年の話なんです。もともとYouTubeやゲーム、マンガなどに没頭しすぎるところがあって、そのせいで一時期、親から娯楽コンテンツに時間制限をかけられてしまって。ただゴネにゴネまくった結果、YouTubeで「音楽を聴く」ことはオッケーをもらったんです(笑)。

 それでYouTubeでいろんな曲を掘るうちに、インターネットミュージックって面白いな、と思い始めて。そのころからSnail's Houseさんはずっと大好きですし、いわゆる“界隈曲”と呼ばれるジャンルや、『UNDERTALE』のBGMとか。そういうものを入口にして、ボカロやフロクロさんの曲に出会った形です。

——リスナーの立場から、音楽を作る立場へ変わったのはいつごろから?

ァネイロ:それこそ、フロクロさんの曲を聴き始めたころですね。ボカロを知ってからはもうすっかり“ボカロ沼”にハマってしまって、フロクロさんに出会った直後ぐらいからDTMを本格的に始めました。なので、ちゃんとDTMで曲を作り始めたのは、本当にここ1~2年の出来事なんです。

——初めて楽曲を投稿されたのは昨年8月、本当にちょうど1年前のころですもんね。melonadeさんはいかがでしょう。

melonade:自分はもともと8年ぐらいリスナーとしてボカロを聴いてきた期間があって、クリエイターとして作品を作るようになったのは、ここ2年ぐらいの話です。音楽自体でいうと、ボカロを聴き始めたのがイコール音楽を聴き始めた経験ですね。最初はそれこそニコニコ動画や、ニンテンドー3DSの『うごくメモ帳(うごメモ)』でボカロ楽曲を楽しんでいました。当時はDECO*27さんやハチさんとか、王道な人気ボカロPさんの曲を好んで聴いてましたね。クリエイターとして映像を作ろうと思ったきっかけは、ァネイロさんと同じくフロクロさんの影響が大きいですね。

——ァネイロさんのように音楽を作る方には行かなかったんですか?

melonade:いや、じつはもともと映像を作る前に音楽も作っていたんですよ。

ァネイロ:そもそもはプログラミングや映像の前に、DTMが先だったんだっけ?

melonade:はい。順番としてはDTM、プログラミング、映像って感じです。ただ、映像制作をするようになったルーツには、『うごメモ』を楽しんでいた時代に簡単な文字PVを作って投稿していたことが影響しているかもしれません。それもあって、いまメインで映像制作に取り組んでいるような形ですね。

——プログラミングを始めた経緯はどのようなものだったんでしょうか。

melonade:プログラミングは、4年前から友人の勧めで始めました。当初はいわゆる普通のプログラミングをやっていたので、ニコニコ動画などの動画サイトで使える拡張機能やツールを開発したり、好みのボカロ曲を探すことに特化したWEBサイトを作ったりしていました。

——その技術が、映像制作と結びついたきっかけについても聞かせてください。そういった構想はいつごろから?

melonade:映像にプログラミングを使おうと考えたのは2年ぐらい前ですね。JavaScriptというプログラミング言語の、「p5.js」というライブラリ(※汎用コードをまとめたもの)を知ったことがキッカケです。この「p5.js」はもともと「クリエイティブコーディング」という、プログラムコードを書いて創作をおこなうためのライブラリなのですが、これはMV制作にも使えそうだな、と思って。そこから自分で勉強して、プログラミングを創作へ活用する方法を模索し始めた形です。

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