100万部以上を売り上げた人気ボドゲ デジタル版は“リアルのみんな”と手軽に楽しめる作品に

 全世界で100万部以上売り上げた人気ボードゲーム『街コロ』の、ビデオゲーム版がついにリリースされた。その名も『みんなと街コロ』(以下、本作)だ。

 ボードゲーム版はドイツ年間ゲーム大賞にノミネートされたので、ビデオゲーム版の前評判は折り紙付きといってよい。しかし、肩書を鵜呑みにせず、ビデオゲームとしての出来を見てみよう。なぜなら、ボードゲームとビデオゲームでは評価の軸が違うからである。

『みんなと街コロ』オフィシャルトレーラー

 ボードゲーム版を評価した「ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres)」とは評論家が選考する賞だ。老若男女、そして“ゲーム歴も問わず”一緒に遊べる作品が受賞する傾向にあり、ノミネート作の街コロもそうした作品となっている。ゲームに不慣れな人もすぐに楽しめるし、ゲームに明るい人も遠慮せず楽しめる。小さな農村が大都市へ成長する、街作りというテーマもなじみがあってよい。ふるさと自慢を交えながらサイコロを振りたくなる。

 一方、ビデオゲームとして好評を博す要素は上記の評価軸と違う。丁寧なチュートリアル、たっぷりのシングルプレイ、快適なオンライン・マルチプレイがあるかを重視するケースが多い。この点で、本作はマルチプレイの機能が弱いと感じた。もちろん、オフラインパーティ用のゲームとすれば問題はない。家族と、友人とリビングで集まれるなら。プレイ人数は最大4人、所要時間は1プレイ約20分。この条件に当てはまるなら、『みんなと街コロ』をゲームパーティのオープニングにオススメできる。

「3」出せ、「3」!

 フレンドとオンラインで遊ぶのを目的としても、ひとまず誰かが最初に買うことになる。その“最初のひとり”になるのであれば、『みんなと街コロ』が与えてくれる満足感は十分だ。街作りゲームの成功体験、我が街がスクスクと育っていく実感をコンパクトにまとめている。チュートリアルは丁寧で遊び方の迷子にはならないし、ゲームBGMはサクセスストーリーを朗らかな調子で奏で、プレイヤーごとに曲も変わる。プレイヤーアバターも、街コロのアートワークとマッチしたコミカル調だ。ビジュアルと演出で、ボードゲームをビデオゲームらしく飾りたてている。

 ゲームにおいて、プレイヤーは市長となり、他プレイヤー=ライバル市よりも先にランドマークを揃えれば勝利だ。麦畑とパン屋から始まる小さな街に産業を興そう。ショッピングモールを誘致しサービス業を強化する。農家や林業など一次産業を市場や工場で集約する。施設の相乗効果を活かしてコインを稼ぎ、高額なランドマークを買うのがゲームの流れだ。

 ボードゲームのジャンル分類で、街コロは「拡大再生産ゲーム」にあたる。収入を得て、施設を建て、さらなる収入を目論むゲームだ。手番処理はジャンルの由来をシンプルにまとめている。手番が来たらまずはサイコロを振り、出目に一致した所持施設カードの効果でコインを得る。次に、コインを使って場にある施設カードを1枚買う。この繰り返しだ。施設カードの効果を組み合わせて効率良く収入を増やそう。

 他プレイヤーの出目でもコインを産む施設カードのおかげで、他プレイヤーのサイコロにもワクワクできる。特に序盤は施設カード「カフェ」が注目だ。「3」の目を出した他プレイヤーからコインを横取りできる。カフェの取り合いがゲーム序盤の山となろう。おらの村にはカフェがねえ! と、施設カードの枚数の限りで街に特色が生まれるのも面白い。

 ビデオゲーム版の本作は、街コロの勝ち方がわかりやすくなった。サイコロを投げる前に、出目に応じたコイン増減の一覧表を出す。欲しい出目が一目でわかり、サイコロを投げるときの念じる力が増す。収入が弱い出目もわかり、施設カードを買う目安にもなる。

 また、収入が大きい出目はマークが付き、サイコロのフラッシュ&スロー演出でワクワク(ヒヤヒヤ)感を引き立てる。他にも、施設の相乗効果を示すマーク、進捗順位の発表、勝利目前のリーチ表示、勝利確定出目マークもある。そうしたゲームの進展をサポートする演出で、1回遊べばコツはつかめる。

 シングルプレイで気になるのはゲームのボリュームだ。本作は、AIプレイヤーを高速処理すれば1プレイ15分で終わる。よって、うまくなったプレイヤーにふさわしい挑戦があるかどうかが見どころとなる。AIプレイヤーに難度レベルはないが、代わりにゲームルールを難しくできる。「街コロ」オリジナルルール+バリアントルールと、施設カードを加えた「街コロ通」で、市長としての手腕を試せるから安心されたし。

場所ありきのマルチプレイ

 シングルプレイで1時間ほど遊べば、次は友人と遊んでみたいと思うにちがいない。そもそも街コロがノミネートされた「ドイツ年間ゲーム大賞」は、“友人と遊びたいゲーム”を品評するもの。ここで本作のマルチプレイ要素に目を向けるのだが、タイトルにある「みんな」の範囲が思っていたよりも狭い。

オフライン・マルチプレイの画面。シングルプレイやオンライン時とちがうレイアウトで、所持する施設カードの表示が小さい。エモート機能もなくなる。

 『みんなと街コロ』はNintendo Switch版とSteam版があり、両作ともにマルチプレイはオフライン・オンラインで遊べる。オフラインは本体の可搬性が高く、本体機能のテーブルモードやTVモードがパーティプレイに向いているSwitch版が秀でる。開始時のセットアップやゲーム中のルール処理などをコンピューターにやってもらえるボードゲーム、という意味で来客用ゲームにも向いているだろう。

エモート選択中の画面。一覧から選ぶタッチスクリーン向けのつくりで、ゲームパッドだと手間がかかる。本作で使用しない右スティックをショートカットに割り当ててほしかった。

 一方で、オンラインで遠方の友達と遊ぶときはSwitch版だと機能の不足を感じる。エモート機能はあるが、ワンボタンのショートカットがないため煩わしい。ボイスチャットはスマートフォンの「Nintendo Switch Online」アプリを要する。ビデオゲームとしては平均的な仕様だが、ボードゲーム特有の“一緒に遊ぶ雰囲気”の再現は難しい。さらに、オンラインプレイは各プレイヤーのゲーム所持を要するので、街コロ未体験の人を誘うのはハードルが高い。

 『みんなと街コロ』の「みんな」は同じ時と場所を共有しあえる人たちを指す。それこそ本作オフィシャルトレイラーにあるような、家族や友人とリビングで遊んでいる「みんな」のことだ。PCゲーマーがヘッドセットをかぶり、インターネット越しに交流する「みんな」ではない。ここを間違えなければ、マルチプレイの需要を満たせない不快感を防げるだろう。

デジタルなボードゲーム

 『みんなと街コロ』はゲーム歴を問わずみんなと遊べる内容だが、マルチプレイ機能が弱く、遊べる人を選んでしまう。ここにもどかしさを覚えるが、デジタルで手軽に遊べるようになったボードゲームだと考えてもらいたい。ボードゲームなのだからリアルで集まって遊ぶものだ、と思えば納得もできよう。すでにオフラインパーティの場があるなら、本作を次に遊ぶゲームのリストに加えてみてはいかがだろうか。

 どうしてもオンラインで遠方の友人と遊びたいなら、Steam版の今後のサポートに期待しよう。ゲーム未所持のプレイヤーをマルチプレイに招待できる、Remote Play Together機能ならば友人を気軽に誘える。現時点では未実装で、実装予定も発表されていないので気長に待たれたし。ギフト用4本セットの割引販売がやってくれば、そちらを購入するというのもひとつの手だ。

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