連載:エンタメとテクノロジーの隙間から(第三十二回)

「豚焼肉弁当」を食せ ヒカキンのリメイク動画から見るYouTuberの“誠意の見せ方“

 リアルサウンドテック編集部による連載「エンタメとテクノロジーの隙間から」。ガジェットやテクノロジー、ゲームにYouTubeやTikTokまで、ありとあらゆる「エンタメ×テクノロジー」に囲まれて過ごす編集部のスタッフが、リレー形式で毎週その身に起こったことや最近見て・試してよかったモノ・コトについて気軽に記していく。第32回は動画クリエイター担当・丹治がお届けします。

「セブンの豚焼肉弁当が最強すぎる!」

 2012年10月21日にヒカキンが自身のYouTubeチャンネルを更新し、セブン-イレブンの豚焼肉弁当をレビューした。当時はYouTuber(動画だけで生計を立てている人はおらず、動画投稿系男子と呼ばれていた)について報じるメディアは、ほとんどありませんでしたが、あった場合はこんな文面からスタートしたかもしれません。

セブンの豚焼肉弁当が最強すぎる!

「セブンの豚焼肉弁当が最強すぎる!」

 なぜ、同じ文面を記載したのか? それは2024年6月16日にヒカキンが本動画のリメイク版を投稿したからです。

 最近、海外のトレンドであったカウンターショート動画(※)を取り入れ、短期間でチャンネル登録者を爆伸びさせたヒカキン。チャンネルの登録者数はわずか2ヶ月で約400万人も増加しました。ただ、動画での「(カウンターショート動画により)YouTubeの新時代を開幕させてしまいました」といった発言に対して、批判的な意見も寄せられました。

※…カウンターショート動画とは、登録者数をカウントする実況動画を縦型のショート形式で投稿したもの。

 ただ、そこはYouTubeの王・ヒカキン。「ヒカキンは変わってしまった」という視聴者の潜在的な思いを汲み取り、原点回帰の「セブンの豚焼肉弁当が最強すぎる!」リメイク動画を投下。内容は、セブン-イレブンで販売されている「豚焼肉弁当(唐辛子マヨネーズ)」を食べてレビューするというシンプルなもの。動画のタイトルはもちろん、サムネイル、カメラの構図やセリフなど、以前動画に徹底的に似せる工夫がなされています。本動画に対して、「やろうと思えばこのノリができるってことが分かって安心した」といったコメントが寄せられており、視聴者ファーストで動画を作成している自身の姿勢を見事に証明しました。

 行動と比較すれば、言葉は軽い。事実、映画『バットマン ビギンズ』では「人の本性は中身ではなく行動で決まる」というセリフがあります。「豚焼肉弁当(唐辛子マヨネーズ)」を見つけるために、視聴者に「自分は変わっていない」を証明するために、コンビニを25件回ったヒカキンの姿は、筆者にはほぼブルース・ウェイン(バットマン)に見えました。

 今後、「あなた、変わっちゃったよ!」と言われたら、恋人の目の前で豚焼肉弁当を食べよう。そうスマホの前で誓った、袖丈がおぼつかない初夏の夜でした。

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