日本のAI企業が取るべき戦略とは 『AI Index Report 2024』から紐解く、世界のAI業界動向

『AI Index Report』から紐解くAI業界動向

進化するAIと増大する環境負荷

 『AI Index Report 2024』第2章「技術的パフォーマンス」(※6)では、最先端AIの性能がさまざまな観点から論じられている。たとえばAIの言語能力を評価するテストとして、「MMLU(Massive Multitask Language Understanding:大規模マルチタスク言語理解)」に言及している。このテストは自然科学や人文科学の問題に関して複数の選択肢から正しいものをAIに選ばせるというものだが、2023年12月に発表されたGoogleのGemini Ultraははじめて人間の正解率である89.8%を超える90.04%を実現した。

 対話型AIどうしの優劣関係を決めるテストに「Chatbot Arena」というものがある(※7)。このテストは、任意の2つの対話型AIに対して同じ質問を入力して、生成された回答について人間の評価者に優劣を判定してもらうというものである。そして、こうした優劣を勝敗に見たててレーティングするのだ。レーティングの計算方法には、プロのチェスプレイヤーのレーティングなどに使われる「イロレーティング」が使われる。

 『AI Index Report 2024』でもChatbot Arenaのレーティングに言及している。もっとも、同レポートが言及しているのは2024年初頭時点のレーティングであり、最新のものではない。最近の2024年6月17日時点のレーティングをグラフ化すると、以下のようになる。2024年5月13日に公開されたGPT-4oが1位であり、2位から4位までにはGeminiの各種AIがランキングしている。

 Chatbot Arenaでは、回答する言語ごとにレーティングした結果も公開されている。日本語のレーティングでは、1位がGemini Pro 1.5であり、2位がGPT-4oとなっている。

 最新のAIたちが上位に名を連ねていることからわかるように、AIの性能は年々向上している。一方で、AIによる環境負荷問題も注目を集めている。運用に伴って排出される二酸化炭素排出量は性能の向上と共に増加しており、こうしたAIによる環境負荷問題に関して、『AI Index Report 2024』はで各種タスク実行時における二酸化炭素排出量を比較した研究を紹介している。

 その研究によれば、メールを内容にしたがって分類するようなテキスト分類は二酸化炭素をあまり排出しないことがわかる。一方で、画像生成のようなクリエイティブなタスクではテキスト分類のおよそ1000倍の二酸化炭素を排出する。そして、おそらく動画生成に伴う二酸化炭素排出量は、画像生成のそれを大きく上回ることだろう。これを踏まえて考えると、今後はAIの性能向上と環境負荷の軽減、その両立が求められるようになっていくだろう。

“AIに寛大な日本”で開発すべきAIとは

 『AI Index Report 2024』第9章「世論」(※8)では、各国の人々がAIに対して抱く感情に関するアンケート調査の結果もまとめられている。調査とは、31ヵ国の16歳から74歳の22,816人に対して、AIを使った製品とサービスに関する記述に対して「そう思う」「そう思わない」という二択で回答するものである。以下のグラフは、その結果をまとめたものだ。

 「人工知能を使った製品とサービスは欠点より利益が上回る」という設問に対して「そう思う」と回答した人の割合は、2022年の52%から2023年では54%に上昇した。その一方で、「人工知能を使った製品とサービスによって、より神経質になっている」という設問に対して「そう思う」と答えた人の割合は、2022年の39%から52%に急上昇している。この結果は、AIを歓迎すると同時にその影響に懸念を抱くというアンビバレントな感情をもつ人が多いことを意味している。

 以下のグラフは、先ほどのアンケート調査を各国別に集計したものである。注目すべきは「人工知能を使った製品とサービスによって、より神経質になっている」に対して「そう思う」の割合がもっとも低い国、言い換えれば、“AIに対してもっとも寛大な国”が日本であることだ。日本の23%に対して、2位のポーランドが38%、3位の韓国が44%と、大幅に差を付けていることも特筆すべきポイントだ。

 以上のように、『AI Index Report 2024』にもとづいてAI業界をさまざまな観点から考察すると、日本はAI開発においてAI大国であるアメリカに「挑戦する立場」であることが明らかになる。ただしこの挑戦に際して、多額の資金を投入して最先端基盤モデルを開発するような正攻法は、あまり得策ではないだろう。正攻法でアメリカの巨大AI企業に挑んでも、返り討ちにあう可能性が高い。

 日本のAI企業がとるべき戦略とは、“日本でしか作れないAI”を開発することではないだろうか。そうした日本的AIの一例として、日本にある巨大な知的財産であるマンガやアニメに関するデータを活用して、日本マンガ的な画像や日本アニメ的な動画を生成するAIが考えられるのではないだろうか(もちろん、こうしたIPコンテンツが関連するモデル開発の是非については、多くのクリエイターが関わる問題であるため慎重な議論が必要なことも併記しておきたい)。

 日本国民はAIに寛大であるうえに、モデルの学習データにまつわる法制度も諸外国と比べて緩いものとなっている。国際市場における日本の強みである膨大な知的財産と、AIをめぐる有利な環境を生かすことができれば、日本のAI企業が世界の注目を浴びることも十分可能なのではないだろうか。

〈参考〉
(※1)AI Index Report 2024公式WEBサイト
(※2)AI Index Report 2024第4章「経済」
(※3)xAI「Series B Funding Round」
(※4)AI Index Report 2024第1章「研究開発」
(※5)ブルームバーグ「アブダビ、新AI投資会社で運用資産1000億ドル超を目指す-関係者
(※6)AI Index Report 2024第2章「技術的パフォーマンス」
(※7)Chatbot Arena
(※8)AI Index Report 2024第9章「世論」

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