モバイルゲーム課金方式に自由化の波 『ミリシタ』“ストア外課金”対応から今後の市場を考える

 モバイルゲームの課金方法が変化の時を迎えつつある。

 従来の仕組みでは、提供元とユーザーのあいだに存在するAndroid/iOSの公式コンテンツストアを介してしか行えなかった同領域の課金。少しずつ広がる“その他の方法”の導入は、私たちのゲーム体験にどのような影響を与えるだろうか。

バンダイナムコが自社サイトから『ミリシタ』に課金できる仕組みを構築

 バンダイナムコエンターテインメント(以下、バンダイナムコ)は6月11日、自社のECサイト「ASOBI STORE」内に新たに「WEB STORE」と呼ばれるショップを開設し、Android/iOS向けに展開されているモバイルゲーム『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』のアプリ内有償通貨を、Webサイト経由で購入できる仕組みを整備した。同ショップを介しての購入では、Google Play/App Storeでの場合と比較し、「ミリオンジュエル」が最大10%増量(※)されるという。バンダイナムコIDへの登録、同IDとゲームアカウントとの連携といった手間が必要となるものの、各ユーザーはそれらを天秤にかけながら、自身にとって有益な方法を選択できることになった。

※課金額に応じ、有償ジュエルの最大10%分が無償ジュエルとして提供される。

 ゲーム界隈では昨今、こうした形でユーザーに新たな課金方法を提示するタイトルが増えてきている。おなじくバンダイナムコが提供する『アイドルマスターシャイニーカラーズ』では2018年のサービス開始時から、バンダイナムコネクサス運営のゲームプラットフォーム「enza」を介することで、よりお得に購入できる仕組みを取り入れている。

 しかしながら、このように別の選択肢が生まれるまでには、少なからず逆風も存在していた。フリークによく知られているのは、人気バトルロイヤルTPS『Fortnite』がGoogle Play/App Storeから削除された騒動だろう。

 開発・発売を手掛けるEpic Gamesは2020年8月、ゲーム内アイテムを公式コンテンツストア外で購入できる新機能「MEGA DROP」を実装し、最大20%引きで課金できる仕組みを整えた。同社はその意図を「Google Play/App Storeでの販売にかかる30%の手数料を回避するため」とし、「今後、両プラットフォームが手数料を減額した場合、さらなる割引でユーザーに還元する」と説明している。

 Epic Gamesの動きを受け、GoogleとAppleは、ガイドラインへの抵触を理由に『Fortnite』をそれぞれのストアから削除。両プラットフォームで同タイトルが遊べなくなる事態へと発展した。Epic Gamesは2020年、一連の対応に対抗するべく、独占禁止法違反で両社を提訴している。現状では各ストアの仕様や物的証拠、裁判の経緯などが分岐点にGoogleに勝訴(まだ結審しておらず、Googleは控訴の方針)、Appleに敗訴(上告の請求が拒否され、2024年1月に結審)と対照的な結末をたどっているが、同社が投じた一石がその後の各社の動きに与えた影響は小さくないと言える。

 おそらくこうした動きが広がりつつある背景には、(Epic Gamesの例のように)利益の最大化やユーザーの囲い込みといった大目的があるのだろう。自社で販売プラットフォームを持つことがさほど大変ではなく、魅力的なIPさえ有していれば、十分に有意義な取り組みとなる可能性があることも追い風として作用していると考えられる。

ゲーム課金に訪れる自由化の波。法整備はその追い風となるか

【ミリシタ】6周年特別PV【アイドルマスター】

 一方、こうした市場状況に対処するべく、法整備も始まっている。去る2024年6月12日には、スマートフォンの分野で優越的な地位にある巨大IT企業を規制するための新たな法律「スマホソフトウエア競争促進法」が参議院本会議で可決・成立した。

 同法は、モバイルOSやアプリストア、ブラウザ、検索エンジンなど、スマートフォンの利用において特に必要とされる“特定ソフトウェア”の提供事業者を指定し、いくつかの禁止事項と遵守事項、および違反への措置などを定める法律だ。競争の妨げとなる禁止行為をあらかじめ示すことで、違反した場合には売上の20%(10年以内に同様の行為を繰り返した場合には30%)を課徴金として支払わせることが明示されている。

 政府は2025年末までに本格運用を始める方針。環境を整備することで、新規参入の促進や技術革新の活性化につなげたいとしている。

 手数料の減額によってメーカーの利益が最大化されれば、新たなコンテンツの制作へと向かう体力が生まれるかもしれない。手数料の減額がゲーム内アイテムの価格に反映されれば、ユーザーもその恩恵を受けることができる。プラットフォーマーを務める巨大企業にとっては自社の利益を小さくする“百害あって一利なし”の法律だが、メーカー、ユーザーの二者には大きなメリットをもたらすはずだ。

バトルロイヤル|ローンチトレーラー

 「スマホソフトウエア競争促進法」の可決・成立はさっそく、ゲーム業界にも影響を与え始めている。Epic Gamesは6月12日、新法が施行される2025年後半をめどに、iOS版『Fortnite』および「Epic Gamesストア」アプリを再リリースすると発表した。日本に先立って、同様の意図を持つ法律「デジタル市場法」が2023年5月より施行されているEUでは、2024年後半にも配信を再開することが同社より発表されている。予定どおりに事が進めば、EUでは約4年ぶり、日本では約5年ぶりに、iOSで『Fortnite』がプレイできる環境が整うことになる。

 モバイルゲームの課金に訪れる自由化の波。今後、業界ではバンダイナムコやEpic Gamesのように、自社で経路を確保する例が増えていくのかもしれない。

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