「アンドロイド・オペラは10年早かった」 渋谷慶一郎がAI×ロボットで挑む“未知の音楽”

アンドロイドオペラは「やはり早すぎた(笑)」 2024年に渋谷が見据える現在と未来

――ではボーカロイドを経過して、細かい譜割や転調がスタンダードになっている現在のJ-POPも音楽内音楽といえます?

渋谷:聴いた感じの印象ですが、たとえばYOASOBIの曲は、楽譜に拠らずDAWを使ったキーチェンジとかで作り上げられているから、新しい作曲法だと思うし、実際そういう人も増えていると思う。メロディのコードの関係ではなくて、リズムの1音としてコードが鳴っているだけ、みたいな。ただ、すごくマニピュレートされているし、スクエアだから真面目な音楽だなとは思う。もっと狂っても多分オーディエンスは着いてくるから、やっちゃえばいいと思いますけどね。

――今後、アンドロイドオペラのプロジェクトなどをどう展開していくのかなど、展望を教えてください。

渋谷:アンドロイドのオペラを作ると決めたのが2014年で、動き出したのが2015年。当時から「人間がAIという人知を超えた見えない知性を、人間の形をしたものに乗せて理解し、そこから新しい産業、時代が始まるだろう」というイメージがあったんです。だから先取りしてやるべきだと。でも、当時はいまのAIと同じように「アンドロイドとオペラ……?」という反応をもらうことが長かった。だから最初の3年くらいは「もしかしたら、テーマ設定が新しいのではなくて古いのか?」と考えたこともありました。

 でも東京公演を控えた現在、AIを搭載したロボットを開発したFigure AIにNVIDIAやジェフ・ベソスが出資し、Open AIやビル・ゲイツが連携を表明するなど、AI側からアンドロイドに接近し始めている。テスラも年内にアンドロイドの一般販売を目指している。

 なかなか工学は進化しないので、これまでロボティクスの会社はよくてAI企業に買収されるくらいでしょう。でもこれからはAIのサイドから人型のアンドロイドを進化させる方向になってくるはずです。とはいえアンドロイドとAIのカップリングが実際に動き出したのは最近なので「やはり早すぎたのかな」と思っています(笑)。

――音楽的にどういったものを目指すのでしょう?

渋谷:興味があるのは「どれだけ人間と距離を置いて芸術を作れるのか、それは果たして芸術と呼べるのか?」ということ。

 AIを搭載したアンドロイドはもはや未知の生物です。「それが奏でる音楽は何か?」というテーマは、自分の意識や作曲が入る余地がどれだけあるかというポイントも含めて楽しみですね。実は『Super Angels』をリメイクしたいと思っていて、それにも繋がってくると思います。

――なるほど。

渋谷:東京公演に参加するホワイトハンドコーラスの最初のリハーサルで彼らの歌を聴いた時、自分の曲なのに泣いてしまったんです。夢を見ている感じでした。彼らは知覚や聴覚に障害を持っていて、実際にテクノロジーを必要としている。だから「テクノロジーを使ったアートを作りましょう」という薄っぺらさとは真逆の関係がそこにある。その人たちが新しい技術と接した時にどんな反応やハレーションが起きるかにも興味があります。

 アンドロイドや新しい音楽と混ざった時に受ける感情は、誰もが体験したことがないものだから価値があると思う。人って以前に感動したものを再び体験したいと思いますが、「これは見たことないし感じたことがない」と感じるものはまだあるはずで、今回の公演もそうなればいいとな思ってます。

――楽しみにしています。

渋谷:僕は父親が60歳にならずに亡くなっているので、そのくらいまでに死ぬイメージがなんとなくあるんです。なのでとにかく時間がないから、自分が出来る範囲で総合的な作品は作らないととは思っています。とか言ってて全然死ななかったら、嫌われるんだけど(笑)。

■公演情報
『Android Opera TOKYO - MIRROR/Super Angels excerpts.』
日時:2024年6月18日(開場18:00/開演19:00)
会場:恵比寿ガーデンホール(東京都目黒区三田1-13)

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