38歳からのゲーセン入門

格ゲー初心者に必要なのは“優しさ”だった――中年男性がアケコンとともに踏み出した大きな一歩

 「『ストリートファイター3』が上手くなりたい! ゲーセンで乱入に負けず、全クリできるようになりたい! そのために家で練習する用のアーケードコントローラー、通称アケコンを買おう!」というわけで、さっそくAmazonでアケコンを調べる。しかし……率直に言って、高い。この間(20年前)はもっと安かった気がするが、どれも数万円はする。しかし、背に腹は代えられぬ。「これはデカい買い物になるぞ」と覚悟を決めるが、そうなると故障しないものが欲しい。Amazonのレビューを読むが、そこでは高度な情報線が繰り広げられていた。「すぐ壊れた」「反応が悪い」などなど……。読めば読むほど何がイイのか分からなくなっていく。つくづく自分が格ゲー初心者であること、時代に取り残されていたこと、情弱であることを痛感する。どうしたものかと悩んだ結果、素直になることにした。「店員さんに相談してみよう!」。

 というわけで、某大型電化製品屋さんへ向かう。商品棚には二つのアケコンが。店員さんに話を聞いてみると、「『ストリートファイター6』が大ヒットしていて、アケコンが全体的に品薄なんです」とのこと。「カプコンさんスゲェ」と思いつつ、どっちがイイかを相談する。とにかく心配なのは、買ったあとの故障だ。ネットのレビューだと、どのアケコンも「すぐに壊れた」系の書きこみがあった。そんな懸念を伝えると、店員さんは優しく微笑んだ。

「格ゲーは、エキサイトしちゃいますから、壊しちゃう人もいるんです。ある程度の商品なら、無茶な使い方をしない限りはそんな簡単には壊れませんよ」

 そう言われてみて「なるほど!」と思う。たしかに北九州のゲーセンで、怖い人が台をガンガン殴っているのを見たことがあるし、私だってテンパるとスティックをガチャガチャしがちだ。店員さんの「優しく使ってあげてください」という当たり前の言葉と、「メーカー純正の方がアフターケアもイイですよ」の助言に従い、『QANBA』を購入した。

 見た目はゴツいが、驚くほど軽い。このあいだ(20年前)、友達の家で遊んだアケコンはもっと重かった気がするが、技術革新には驚くばかりだ。さて、こいつで特訓を始めようと思ったが……そこは大人の悲しさ、仕事がビックリするほど詰まり、ゲームに触れない日が続いた。生活費を稼がないとゲーム機を売ってメシ代にすることになる。この間(10年くらい前)もやったが、あれは悲しかった。そんな真似はもう御免だ。そんなわけで4月中旬まで仕事を頑張る。

 そして5月が見えてきたころ、練習を再開。目標は『ストリートファイター3』のキャラ「ダッドリー」の技「マシンガンブロー」を自在に出せるようになること。このあいだ(一か月前)、家のコントローラーで練習していたら、指にマメができて、破裂。血まみれになった痛みと悲しみが蘇るが、買った以上は立ち止まれない。アケコンを装着し、トレーニングモードに設定して、いざ練習開始。

 が、やはり出ない。けっこう頑張っても出ない。頼む、言うことを聞いてくれと念じながらアケコンをガチャガチャやっていると……ふっと、あの優しい店員さんの顔がジョースター卿の如く浮かんだ。「優しく使ってあげてください」。エキサイトして乱暴に扱ったら、壊れてしまう。冷静に、優しく使わなければ。すぐに出せなくてもいいのだ。100円を入れてプレイしているのではない。制限時間もないのだから。

 そう考え直して、スティックの持ち方を変えたりしてみる。典型的なゲーセン握りから、我流の握り方などなど。やがて、あまり力が入らない、どうやっても優しくアケコンに触れる、つまむだけのような形で操作していると……いきなり技が出た。しかし、それは必殺技(スーパーアーツ)の「ローリングサンダー」だった。「あれ? 何で出た?」と思いつつ、出したときの感覚を思い出して、ひたすら再現してみると、百発百中で「ローリングサンダー」が出せるようになった。ちなみに「ローリングサンダー」のコマンドは、↓↘→ ↓↘→ + パンチである。そして……ここで私は数十年ぶりの大発見に至る。

「ひょっとして、『↓↘→』というコマンドって、こうグルッと半円にコマンドを押すのではなくて、『↓』『↘』『→』をそれぞれ押した後に、『パンチ』を押すのか?」

 そう! これまで私は「↓↘→」というコマンドを押す時、スティックで円を描くように動かしていたのだ! 通常のコントローラーでもそうだった。だが、それがそもそもの間違いだったのである。感覚としては一つ一つの矢印キーの方向へ、素早く順番通りスティックを倒す感覚、それが正しい入力方法だったのだ(家のコントローラーだと指にマメができたのも、指の腹で矢印キーを擦っていたからだ)。矢印キーをグルンと押すのではなく、素早く切り替える。その感覚を念頭に、「マシンガンブロー」のコマンドを入力してみる。すると……出せた。何回か試すうちに、百発百中で出るようになった。

 なんでこんな簡単なことを数十年間、一切気が付かなったのだろうか? 自分でも不思議だが、思えば……ゲーセンでは基本、毎回が本番。テンパって正しい入力方法を試すどころではない。友人の家でやるにしても、私もエキサイトしやすい人種だから、対戦中はやはりテンパる。そして力が無駄に入って……負の連鎖に入っていたのだ。大事なのは冷静さ、そして優しさ。そう知っていれば、もっと早くこの境地に辿り着けた。遅すぎる到着だが、しかし大きな一歩を踏み出せた。「ありがとう、店員さん」そう思いながら、マシンガンブローを連射する。まだまだ全然の素人だが、しかし「強くなれた」と実感した。

 次回「NPCと実戦訓練! × 目指せ! 全ステージクリア!」。

画像=Unsplashより

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