佐藤詩織が海外留学を経て選んだ”陶芸アーティスト”の道 デジタル×アナログで作り上げた新たな創作スタイル

 佐藤詩織の“陶芸アーティスト”としての初の個展『TOU(トウ)展』が、3月30日と31日に原宿のChromatic Galleryにて開催される。2020年10月に欅坂46を卒業してから、およそ3年半。以前のインタビューでは、その後のアーティスト活動やガジェットを使った創作について語ってくれた佐藤へ、個展の開催を前に改めてインタビュー。イギリス留学などさまざまな体験を経て、陶芸での表現へと進んだ理由や、最新の創作方法について聞いた。(編集部)

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「イギリスは、街全体が美術館のようだった」

佐藤詩織

――佐藤さんは、2022年の6月に留学のためにイギリスに行かれたんですよね? まずは、当時のことを教えてください。

佐藤詩織(以下、佐藤):本当は、欅坂46(現:櫻坂46)時代にグループ活動を一時休止して行くはずだったのですが、新型コロナウイルスが蔓延したことで延期になってしまって。結局、2年後の2022年にようやく行けることになりました。ただ、逆にタイミングが良かったかもと思っています。

――それは、どうして?

佐藤:コロナ禍が落ち着いてすぐに向かったので、まだ海外の留学生がそこまで多くない時期だったんですね。なので、インバウンドで旅行客が増えてから行くよりも、学ぶことが多かった気がします。

――たしかに、観光客の少ない、ありのままの街の姿が見られますもんね。

佐藤:はい。それもあってか、私が行った時期は留学先の学校に日本人が1人もいなかったんですよ。言語は英語しか通じないし、授業も英語で行われていたのですが、それも学びの場としてはすごくよくて。どうやっても勉強せざるを得なくなって、短期間で身に付くことが多かったように思います。

――なるほど。

佐藤:あと、イギリスは美術館が無料なのもありがたかったです。学校が終わったあと、その足で美術館に行って、疲れてきたら大きい公園に行ってスケッチを書いたりして。イギリスって、壁にアートを描ける街もあるんです。だから、歩きながら周囲を見渡すと、美術館にいるような感覚になることもありました。

――アートの勉強をするには、もってこいの街ですね。

佐藤:そうですよね。だから、電車に乗るために地下に入っちゃうのがもったいないと思って、何駅分も歩いたりしていました。私が行ったときは、気温もちょうど良かったので、街並みを見ながら歩くだけで勉強になりましたし。

――まさに、充実した生活を送られていたのですね。

佐藤:イギリス留学中は、何をしたいのか? どういうものが好きなのか? と、とことん自分に向き合った期間でもありました。日本にいたときは、自分と対話することってあまりなかった気がするんです。日々を過ごすことで精一杯で、自分がどう進んでいくのかとか考える余裕がなかった。

――それが、イギリスに行ったことで見つかったという。

佐藤:そうなんです。留学前は忙しさもあって、目の前にきたものをとりあえずやってみるけど、すごく手探りというか。悶々と生きている感じで。そういう生活をしていて、ある日プツンと糸が切れてしまった瞬間があったんです。

――忙しすぎて?

佐藤:いえ、グループを卒業してからは、とにかく武器を増やさなきゃと思っていたんです。だから、すごくいろいろなことに手を出していたんですけど、ふと「今の肩書きって何なの?」と聞かれたときに、「これです!」と胸を張って言えるものがないなって。

 自分の焦りもあったんだと思います。その時は25歳で、新卒で企業に入った美大の同級生たちが色々な仕事を任される時期に入っていて。そういう話を聞いていると、「私って、何してるんだろう」と。だから、海外に行って、みんな自分のことを知らない、頼る人もいないなかで、何をしたいのかを見つめ直したいと思ったんです。なんとなくでやってきたことをやめて、自分が本当にやりたいことを見つけるために。

――留学を経て、創作のスタンスに変化はありましたか?

佐藤:もともと大学ではグラフィックデザインの学科だったので、その延長線上でこれまで創作をしていたのですが、イギリスでいろいろな美術館を巡るうちに、平面よりも立体を感じる作品の方が好きだなということに気付いたんです。パソコン画面を通して何かを作り出すよりも、自分の手を使って生み出していく方をやりたい、って。

――それが、陶芸につながったと。

佐藤:そうですね。もともと興味はあったんですけど、実際にやってみたら最初の日からハマってしまって(笑)。画面を通して作り出すものは、まっすぐな線とかも簡単に引けたりするじゃないですか。でも、陶芸はそうではなくて、自分の手の温度ひとつでニュアンスが大きく変わったりする。そういうところも、好きなんですよね。パソコンや絵を描くときにはiPadを使うんですけど、機械の正確さを生かしたアートに触れていなかったら、手探りの良さに気づいていなかったと思います。

――デジタルのみで制作をした経験があったからこそ、逆であるアナログ的な良さに気付いた。その対局にあったのが陶芸だったと。

佐藤:まさにです。そして、イギリスに行ったからこそ、改めて日本っていいなと思えたんですよね。何を食べてもハズレがないし、人も手厚いし。イギリスに行ったときは、本当にいろいろなトラブルがあって。たとえば、渡された地図が間違っていて、初日に学校に行くことができなかったり(笑)。

――そんなことが……!

佐藤:住所を渡されたので、そこに向かったら「もうここには学校はないですよ」と言われて。おそらく、前の住所だったんですよね。あと、イギリスの美術館には草間彌生さんの作品とかも展示されていて。日本のアートがイギリスでも求められていることを知って、誇らしい気持ちになりましたね。はじめこそ海外に対する恐怖もあったんですが、帰国したあとはどんどん色んな国に行きたくなりました。

佐藤詩織

――佐藤さんは、もともと海外に興味があるタイプだったのですか?

佐藤:いや、まったくです。もともと、「海外=怖い」みたいなイメージがあったので。まさか自分がこんなに海外に行く人間になるとは思っていなかったです(笑)。

――イギリス以外にも、かなり行かれていますよね?

佐藤:スイスとフランスとハワイと。あとは、ベルギーにも行きました。アジア圏は、韓国と台湾に。

――とくにお気に入りの国は、やはりイギリスですか?

佐藤:うーん。イギリスとスイスのどちらか、悩みどころですね……。もともとイギリス推しだったんですけど、最近はスイスも好きで。私、日本と近しさを感じるヨーロッパの国がおそらく好きなんですよね。ムサビ(=武蔵野美術大学)がスイスとの交換留学をやっていたりしたので、馴染み深さもあったのかもしれません。

――スイスは、街並みも綺麗ですもんね。

佐藤:そうなんですよ! 街自体が綺麗にデザインされている感じで。イギリスの建物とはまた雰囲気がちがうので、見ていて面白いです。

――言語の壁は乗り越えられましたか?

佐藤:海外には怖いイメージがあったけれど、話してみると意外と考えていることが同じだったりするのに驚きました。向こうの友達とは、美術館に行って「これ、どう思う?」と感想を話したりして盛り上がったり。あと、お気に入りの食器屋さんを見つけて、自分の作品を見てもらったこともあります。「日本で、こういうものを作ってるんですけど」と言いながら見せると、意見をくれたりするんです。

――具体的には、どのようなリアクションをくれたのでしょう。

佐藤:「すごく新しくていいね!」とか、「ネットで売ったら買いたいんだけど!」とか。海外の方は、アートに対する関心が高いんですよね。公園にいたおじいちゃんとおばあちゃんと、他愛のない会話をしている流れでアートを見せたら、すごく語ってくれたりして。すごく、面白いですよ。

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