『プリンセスピーチ Showtime!』発売で振り返る“ピーチ姫主演作” 前作『スーパープリンセスピーチ』が放っていた異質さ
マリオシリーズ史上稀な“未完”のストーリー。発売から19年が経ったいまも伏線は未回収
もうひとつの異質な特徴がストーリー。なんとマリオシリーズとしては非常に珍しい未完なのである。
『スーパープリンセスピーチ』のストーリーは、クッパに捕まってしまったマリオ、ルイージ、キノピオたちを救出するため、ピーチ姫が不思議な傘「カッサー」と共に冒険を繰り広げていくというもの。マリオシリーズにおける、マリオたちとピーチ姫の立場が逆転したストーリーとなっている。
ちなみに舞台となるのは、クッパがマリオたちを捕まえる際に用いた「キド・アイラックの杖」の置かれた「キド・アイラック島」なる、キノコ王国から少し離れたところにある島。その名が物語る通り喜怒哀楽がテーマで、ゲーム面でも4つの「きぶん」を変えながらステージ(コース)内のさまざまな仕掛けに対処していくシステムを売りとしている。
システムが個性的な反面、ストーリーはいかにもマリオな内容だ。ゆえに最終的なオチも明らか。「クッパがピーチ姫に倒され、マリオたちも助かって、めでたしめでたし」である。完全なネタバレだが、そもそもマリオシリーズのストーリーはそれがお約束にして鉄板。本作もその期待を裏切らない、信頼と安心の展開が描かれる作りになっている。
なのになぜ、未完なのか? 実は一部、未解決のまま終わってしまうエピソードが存在するのである。それというのがピーチ姫と冒険を共にするカッサーのエピソード。『スーパープリンセスピーチ』初登場のキャラクターだが、実はこのキャラクター、詳細な背景ストーリーが設定されているのだ。
そのエピソードは、各エリア最後のボス戦を終えた後に挿入される焚火イベントにて、カッサーが見た夢として語られる。
一部、省いて紹介すると、カッサーはもともと人間の男の子で、不思議な力を持っていた。だが、その力を悪用して世界征服を目論む「大ワルモノ」の配下、「ワルモノまほうつかい」と「大男」によって傘の姿にされ、さらわれてしまう。その最中、男の子は偶然の出来事によって配下2人の元から逃れるのだが、傘にされていたゆえに身動きが取れず、そのまま通りかかった旅の商人に拾われる。そして、商人が営む民芸品店を訪れたピーチ姫の執事「キノじい」が傘(男の子)を買ったことで、キノコ王国へと行き着いたのである。
いかにもさらなるストーリーの存在を匂わせる設定だが、残念ながら『スーパープリンセスピーチ』本編にこの大ワルモノとその配下2人、そしてカッサーの正体に迫る展開は用意されていない。クッパを倒して、マリオたちを助けられれば、それでストーリーは終了してしまうのだ。ただ、明らかにその後があることを匂わせていたため、続編の発売を予感させられるものではあった。
実際に続編は発売されたのか? それは『プリンセスピーチ Showtime!』が、約19年ぶりの主演作として発売される事実が示す通りである。出ることはなかった。
なので大ワルモノと配下2人、カッサーこと人間の男の子、そして傘にされる前まで一緒に生活していた「おじいさん」は、2024年現在も何者だったか判明していない。結果的にマリオシリーズ全体において、謎のキャラクターとして歴史に残ってしまっているのだ。そもそも全員、正式な名前すら不明という有様である。
基本的にマリオシリーズのストーリーはスピンオフ作品も含め、未解決事項もなく1作で終わることが徹底されている。『スーパーマリオランド』シリーズのように、続編であることを明確にした作品も中にはあるが、特に前作で未解決に終わった伏線を回収する類の展開はなく、あくまでも前作の後という事実だけに留めている。
そのことからも『スーパープリンセスピーチ』が異例も異例な作品だったことは想像に難くないだろう。大筋はいつものマリオだが、それ以外がまったくいつも通りではないどころか、ルイージやワリオなども主演作でやらなかった未完の要素を設けていたのだ。
では、今回発売された『プリンセスピーチ Showtime!』は、その大ワルモノとカッサーの正体に迫った待望の続編なのかと期待してしまうところだが、残念ながらその可能性は低い。そもそも、世界観が一新されているのに加え、カッサーが居ない。ピーチ姫の相棒を務めるのは「ステラ」なる新キャラクターである。ついでに言うなら、カッサーとピーチ姫を引き合わせた張本人、キノじいの姿もない。
敵である「グレープ劇団」の団長「グレープ」も大ワルモノの正体かと思いきや、大ワルモノは口調から察するに男性。グレープは女性で、一人称も「わたくし」であるため、まったく関係がない。ついでに配下2人の姿もないことから、関連性は非常に薄いと言わざるを得ないだろう。
そもそも、今回の新作を開発したのは『スーパープリンセスピーチ』と同じトーセではない。ヨッシーの主演作『ヨッシークラフトワールド』のほか、2023年にはオリジナルの時代劇アクションゲーム『御伽活劇 豆狸のバケル ~オラクル祭太郎の祭難!!』を発売したことが記憶に新しいグッド・フィールである。
それに、大ワルモノと配下2人の存在が匂わされたのは19年も前だ。そんなに昔のエピソードを拾ってきたとしても、当時を知らないプレイヤーからすればなんの話かサッパリである。それを再確認しようにも、ニンテンドーDSはすでに生産を終えたゲーム機。ゲーム自体も現行の環境で一切復刻されていないことから、遊ぶハードルが高い。
ゆえに今回の新作は続編ではなく、まったく無関係の新作、リブートとして振り切った雰囲気を醸し出している。実際、宣伝でも続編であることは一切アピールしておらず、新しい主演作としての方針で今回の新作が作られていることを匂わせている。
そうした久しぶりの新作なのにリブート、再始動の作品としてのイメージを押し出している点でも、ルイージやワリオといった主演作を持ったキャラクターたちとも対照的な展開を見せていると言えるだろう。
『プリンセスピーチ Showtime!』は主演作としての“再スタート”を図る一作に?
そんな非常に異質な特徴を持っていた『スーパープリンセスピーチ』だが、お世辞にもゲームとしての出来は良いとは言い難かった。決して遊べないほどの駄作だったわけではない。ただ、全体的に作りが粗い。
特にステージ(コース)は数こそ多いが、地形や仕掛けが似たり寄ったりで、中盤を越える頃から単調さが隠しきれなくなる課題を抱えていた。本編全体の構成にも難があり、とりわけ各コースに捕らえられたキノピオを全員救出しなければ、クッパの待つ最終エリアに入れないという制約は、ボリュームの水増し感とゲームプレイの作業感を際立たせていた。ほかに前述したルイージに対する虐め同然の描写、未完に終わるカッサーのエピソードなど、ストーリーにもところどころに荒っぽい部分が散見される。
なにより、『スーパープリンセスピーチ』はピーチ姫が主演を務める必然性が弱かった。喜怒哀楽を除くアクションの多くは、カッサーを主軸にしたものになっており、ピーチ姫はその力に頼りながら動いている感じが滲み出ていたのだ。それゆえ、ピーチ姫ではなくても成り立ちそうという、主演作としては厳しい“穴”ができてしまっていた。
もともと、ピーチ姫が傘を武器として用いること自体は『スーパーマリオRPG』のころから描かれていたものだ。しかし、『スーパープリンセスピーチ』のアクションはカッサーの主張が強く、そこに彼自身の専用エピソードまで挿入されることから、主人公としての存在感も若干食われてしまっている。
未だに思うのは、「『スーパープリンセスピーチ』とはオリジナルの新作アクションゲームとして作られていた作品だったのでは?」ということだ。事実、カッサーのエピソードはマリオシリーズらしからぬ匂いが強く、独立した作品としても成立しそうな作りになっていた。カッサーのアクションの主張が強かったのもその名残で、それがなんらかの経緯を経てピーチ姫の主演作になったのではないのか。それを踏まえると、謎のままに終わった大ワルモノとその配下2人、おじいさんもオリジナルのアクションゲームだったころの名残だったのかもしれない。
そんな至らない部分の多かった時系列上の前作のことから、今回の『プリンセスピーチ Showtime!』は、ピーチ姫が主演であることの必然性を押し出した新作になっていることを強く願うと同時に、主演作を持つキャラクターとしての進歩に期待するばかりだ。
その期待に応える作品になっていることは、発売前より無料配信中の体験版からも感じ取れる。着せ替えによる変身というテーマ(システム)自体がピーチ姫と非常に親和性が高く、このキャラクターだからこそ映えるものになっているためだ。ゲームプレイも、特にステージの単調さという前作の課題が変身システムによって解消されているのが体験版でも確認できることから、大幅に進歩しているのは間違いなさそうだ。
筆者としては今回、敵役に新しいキャラクターを据えたことにも拍手を送りたい。正直、前作の立場逆転は題材的に安直さが否めなかったほか、ルイージにおけるキングテレサ、ワリオにおけるキャプテン・シロップのようなライバルキャラクターが据えられなかったのが惜しかった。今回の敵役であるグレープが、これからどう扱われていくのかは分からないが、願わくば、独自のライバルキャラクターとして活躍していくようになってほしいところである。
同時に今回の新作があらためてピーチ姫の主演作としての再スタートとなり、19年前の『スーパープリンセスピーチ』のときには成し得なかった、シリーズ作品としての発展につながっていくことを強く願うばかりだ。
そしてゆくゆくは、これにクッパも続いてほしいところである。すでにそれに該当する事実上の作品はあるが、名を冠したものは2024年現在も存在しないので、いつの日か現実になることを心待ちにしたい。
© Nintendo
昭和・平成のテレビゲーム黎明期を“体験”できる名作『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2 REPLAY』の魅力
2月22日、Nintendo Switch向けに販売開始となった『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2 REPLAY』は、『ゲ…