大手ゲーム開発会社で続く“体制刷新”の発表 「質を求める」方向性は市場に何をもたらすのか

 バンダイナムコグループ(以下、バンダイナムコ)は2月14日、2024年3月期・第3四半期決算説明会における質疑応答の内容を公開した。

 資料のなかで同社は、大型新作タイトルのリリースによる開発費・広告宣伝費の増加が、通期におけるデジタル事業の利益減に影響したと説明。2023年3月度の下期より着手していた開発体制の変更とあわせ、開発を進めるための基準の厳格化を行ったと明らかにした。これにより、リリースに向けてプロジェクトが進行していた5作以上のタイトルが開発中止になるという。

 本稿では、バンダイナムコの発表を入り口に、“ある業界動向”へと着目。今後ゲーム市場で起こりそうな展開を予測する。

広がる開発体制刷新の動き スクウェア・エニックスも戦略の転換を発表

バンダイナムコ

 5作以上という決して少ないとは言い切れない数のタイトルが開発中止となったこと、その内訳が隠されたままだったことから話題を呼んだ今回のバンダイナムコの発表。しかし、類似する方針を打ち出す業界のキープレーヤーは同社だけにとどまらない。スクウェア・エニックスグループ(以下、スクウェア・エニックス)もまた、開発体制の抜本的見直しを進めていることを、2月5日に実施されたアナリスト向け決算説明会で表明している。

 同社代表取締役社長・桐生隆司氏によると、今後は「ゲームの質や利益率改善を目標に外部委託開発を減らし、内製による大型ゲーム開発に注力する方針」なのだという。現在は「(どのような形がベストなのか)ゼロベースで見直している」最中であると語り、新体制の具体的な内容については「今年の春に発表する」とした。

 スクウェア・エニックスをめぐっては2023年、人気モバイルゲームのサービス終了を続々と発表したことが注目を集めた。『ファイナルファンタジーVII ザ・ファースト・ソルジャー』や『SINoALICE』『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』などはその一例だ。今回の説明から逆算すると、こうした一連の撤退もまた、次を見据えた戦略の一部だったのかもしれない。上記はすべて、外部パートナーを開発に迎えて制作されたタイトルである。

 一方、バンダイナムコをめぐっては、『BLUE PROTOCOL』の出遅れについて触れておかなければならないだろう。2023年6月、さまざまな紆余曲折を経てリリースされた同タイトルは、ローンチ当初こそ話題性も味方し、多数のユーザーにプレイされたが、その出来から離脱者も多く、低空飛行を余儀なくされている。2023年12月には、PlayStation 5、Xbox Series X|Sでもサービスが開始となったが、アップデートを重ねても課題を解消しているとは言い難い状況が続いている。冒頭で紹介した「大型新作タイトルのリリースによる開発費・広告宣伝費の増加」という言葉に、『BLUE PROTOCOL』を想像した方も多かったのではないか。厳しい声を上げるユーザーのなかには、開発・運営元であるバンダイナムコの体制について言及する者も少なからずいた。その点を踏まえると、「開発を進めるための基準の厳格化」はある意味で必然的な流れだったのかもしれない。

気骨のある新作には向かい風となる「開発タイトルの選別」

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 国内ソフトウェア市場で重要な役割を担う大手2社が表明した開発体制の刷新。特筆すべきは、両社ともに体制を縮小する方向へと舵を切っていることについてだろう。こうした動きは、発表するタイトルの質を求める動きととらえられるのではないか。今後は、“一点”とまではいかないまでも、“数点集中”のような形で開発が行われていくことを示唆しているように感じる。

 バンダイナムコは2024年1月26日に発売した『鉄拳8』が、シリーズ史上最高の売上を記録した前作『鉄拳7』を上回るペースで世界累計出荷本数200万本を突破し、スクウェア・エニックスはここに来て、リメイク・リマスター戦略から生み出されたタイトルのなかに一定の評価を獲得するものが現れはじめた。後者に至っては2月29日、『FINAL FANTASY VII』リメイクプロジェクトの第2作『FINAL FANTASY VII REBIRTH』も満を持してリリースしている。

TEKKEN 8 - ローンチトレーラー

 これらの開発は両社にとって、優先順位の高い“主幹業務”とも呼べるものだ。体制の縮小があったとしても、おそらく影響が出づらい類のものであると言えるだろう。反面、社内的に成功の見通しが立ちにくいタイトルは今後、日の目を見る機会を失っていく可能性がある。バンダイナムコ、スクウェア・エニックスが打ち出した方針は、「期待度によるタイトルの選別」とも考えられるのではないか。

 しかるべき場所に相応のコストが割かれ、いま以上に質が追求されていくことで、ユーザーは実の伴っていないタイトルを手に取ってしまうリスクから解放される。この点を見れば、送り手・受け手の双方にとってメリットのある流れだと考えることもできるだろう。一方で、新規IPや小規模制作のタイトルに対しては、こうした動向が向かい風となる可能性がある。先にも述べたとおり、スクウェア・エニックスは「外部委託開発を減らし、内製による大型ゲーム開発に注力する方針」を明らかにしている。“正しい選別”が行われなければ、「日本ゲーム大賞」優秀賞を受賞した『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』のような気骨のある新作は生まれづらくなっていくのかもしれない。

 深く考えるほど、ユーザーにとってはメリット・デメリットを併せ持つ両社の戦略。利益ありきの企業活動であるがゆえに仕方がないとは思いつつも、今後起こり得そうなことを想像すると、やや寂しい気もしてしまう。本稿で述べた推測を、良い意味で裏切るような結果となることを期待したい。

©2019 Bandai Namco Online Inc. ©2019 Bandai Namco Studios Inc.

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