アーティスト・クリエイターの著作権管理における現状と課題とは? 弁護士&著作権管理企業に訊く

曲の管理を任せる期間は慎重に

――そうなんですね。では音楽の著作権周りにおいて、どんな部分に注意を払えば良いのでしょうか?

東條:アーティストは、曲などの管理を任せる期間を見極めることに注意を払った方が良いです。たとえば楽曲のプロモーションに関することを委託するにしても、頼んでみたけど意外とあまり動いてくれないとか、長期間にわたって拘束されるといいタイミングを失ってしまうといったことがあります。なのでアーティストの方には、見通しがつくまでは短いスパンで契約を結んで、うまく行かない場合には適宜のタイミングで乗り換えられるようにしておいた方が良いですね。これは単に短ければいいというわけではなくて、長く任せたら普通はそれに応じた投資はしてくれますから、慎重にリスクとリターンの関係を見極めようということですね。逆に言えば、大して投資もしてくれないのに長期にわたる拘束がされるような契約は避けましょうということになります。

――どれだけ信頼できる会社かという部分でも変わってくるでしょうし、ケースバイケースですよね。

東條:そうですね。この話は単に相場がいくらかという話よりさらに難しいと思います。特に音楽業界は、専属契約にしても複数年にわたる拘束が一般的です。それは投下資本を回収するためには複数年が必要だという理由なのですが、アーティスト側としてはそこに対する懸念があるケースが多いように思います。

――個人のクリエイターが実際に活動をしながら自分で権利周りを1から100まで処理するのは難しい話だと思っています。先程サービスを紹介するというお話もありましたが、現状の選択肢のなかではサービスを利用するのが最良の選択なのでしょうか?

東條:そうですね。個人に近いアーティストは、印税処理の担当者を雇ってるわけでもないですし、徴収がきちんとされているかをチェックしたり、問い合わせ対応の担当者を用意していないケースがほとんどです。そうすると自分がやるしかないので、制作の時間が奪われてしまう。もちろんその上でも自分でやるという選択肢もありますが、普通の小さな会社の会計と違って権利の種類が多種多様ですし、小さなお金が長きにわたって何十社から入ってくるという形なので、シンプルな管理がしづらいんです。そういう意味ではアーティストのみなさんが自身でやることはあまり現実的ではないと思います。今は便利なサービスがたくさんありますから、そっちにお任せして、小さいお金を集めてもらうことが大事かなと思いますね。

――東條さんはアーティストに相談された際、音楽における著作権管理事業者を紹介する立場でもあるかと思いますが、いまの段階と10年前、20年前とでは著作権管理事業者の立ち位置や捉え方も異なると思います。東條さんはその変遷をどのように捉えていらっしゃいますか?

東條:音楽の利用のパターンは極めて多種多様で、小さな利用も含めてあらゆる場面で利用され得る、そして利用の単価が非常に小さく数多くなりやすいので、著作権管理事業者の利用価値は極めて高いと思います。その上で二十数年前を考えてみると、当時はJASRACしか選択肢がなかったので、自分で集めるかJASRACに権利を信託するかの2択しかなかった。ただイーライセンス、JRCが参入し、現在はNexToneとしてサービスを提供していることによって選択肢が確保されるようになったため、きちんとメリットとデメリットを比較できるようになりました。それがいまの時代の人が受けられる大きな恩恵かなと思います。

 音楽ビジネスの世界の中で著作権は本当に一部で、お金の多くを生み出すのは原盤の部分じゃないですか。原盤には管理事業者が存在していないので、自分でいろんなところと契約をしてデータを出してお金を管理しないといけませんが、NexToneは原盤に関するディストリビューションサービスも行っていますし、そういう意味でも音楽に関するいろんな権利をワンストップに近い形で管理できるのは大きなメリットだと感じます。

――東條さんがNexToneを勧める理由としては、いまおっしゃったようなワンストップに近い形での権利管理ができるという点が大きいですか?

東條:そうですね。NexToneと競合するJASRACは優れた徴収能力を持つ管理事業者であることは間違いありませんが、信託のルールで全部同じルールのもとに管理しなければならない難しさもあり、いろいろ解決方法が用意されていることも多いものの、どうしてもわかりにくさがあるように思います。その点、NexToneは融通がききやすいというか、アーティストが望まない拘束が少なく、いざというときに方向修正がしやすいという印象がありますね。

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