昭和・平成のテレビゲーム黎明期を“体験”できる名作『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2 REPLAY』の魅力

 『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2 REPLAY』は、『ゲームセンターCX』をまったく知らない人にも強くおススメしたい1本だ。

【ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2 REPLAY】発売日告知トレーラー

 2月22日、Nintendo Switch向けに『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2 REPLAY』が販売開始となった。本作はCS放送「フジテレビONE」で放送中のゲームバラエティ番組『ゲームセンターCX』の定番コーナー「有野の挑戦」をモチーフにしたタイトル。元は2007年と2009年、ニンテンドーDS向けに2作が発売されたタイトルで、今回のNintendo Switch版はそれらを1本にまとめ、グラフィックの高解像度化と新要素の追加などを図ったリマスター兼カップリング版となっている。

オリジナル版の第1作は続編と同時に廉価版も発売された。

 オリジナル版の2作は、発売から15年以上が経った現在もなお、当時遊んだプレイヤーから高く評価されている作品だ。ニンテンドーDS指折りの良作との呼び声もある。それもあってか、今回のNintendo Switch版の発売に関しては『ゲームセンターCX』のファンも含めて、好意的に迎えられている風潮がある。

 一見、『ゲームセンターCX』の視聴層に向けたファンアイテムに見える本作。なぜ、オリジナル版はそれほどの評価を獲得し、歓迎ムードを醸成しているのか? それは本作が『ゲームセンターCX』とそのコーナー「有野の挑戦」をまったく見たことがない・知らない人でも問題なく楽しめる、”唯一無二の体験”を持った作品になっていることが大きい。

 その唯一無二の体験とは、「テレビゲームの中でテレビゲームを遊ぶ」というもの。文字通り、ゲーム世界の中でテレビゲームを遊ぶというのが『有野の挑戦状』最大の魅力なのである。それも1980年代から1990年代前半にタイムスリップして、だ。

テレビゲーム黎明期の体験シミュレーターでもある『有野の挑戦状』

 1980年代から1990年代前半は、まだテレビゲームというものが未知の文化とされていた時代。インターネットも現代のように一般家庭などで普及していない頃だ。プレイヤーはそんな昭和の終わりから平成初期の時代へと、ゲーム魔王「アリーノー」の謎の力で子供の姿にされ、送り込まれてしまう……という流れで本編は始まる。

 ゲーム魔王「アリーノー」とは、『ゲームセンターCX』の「有野の挑戦」での挑戦失敗時、有野課長が抱いた「もっとゲームが上手かったら……」という無念の思いがニンテンドーDSへと宿り、デジタルな姿となって実体化した存在である。なお、Nintendo Switch版では「Nintendo Switchに宿って実体化した存在」に変更されている。

 過去に送り込まれたプレイヤーは、そこで出会ったアリーノーの若かりし頃である「ありの少年」と一緒になって、当時発売されたゲームに焦点を当てた「挑戦」という名の課題に挑んでいく。「特定のステージまで到達しろ」「スコア○点を達成しろ」といったものだ。これらを攻略しながらストーリーを進め、最終的には元の時代への帰還を目指すというのが、本作の基本的な流れおよび目的となっている。

 なお、当時発売されたゲームというのは実在する作品ではなく、本作のために独自に作られた架空のもの。それらを遊ぶゲーム機も同様だ。ただ、各種ゲームのグラフィック、音楽などは当時の特徴や雰囲気を忠実に再現している。ゲームのジャンルもシューティング、アクション、ロールプレイングゲーム(RPG)といった定番を網羅。続編『有野の挑戦状2』では落ちモノパズル、コマンド選択型アドベンチャーゲームなども登場する。

 各種ゲームを遊ぶ際も、部屋に置かれたブラウン管モニターのテレビにゲームの映像が表示され、その前にプレイヤーとありの少年が座っているといういかにもな構図になる(据え置きゲーム機に限らず、携帯ゲーム機では異なる構図になる)。ちなみに設定で、ゲーム画面だけ表示する形に切り替えることもできる。

 全体的に「ミニゲーム集」のイメージが浮かびやすいが、本作が凄いのは収録されたゲームを遊ぶだけに終始しないこと。例えば情報収集。挑戦の中には一部、ゲームの情報を調べることによって、楽に攻略可能になるものがある。

 しかし、前述した作中の舞台となる時代にインターネットはない。では、どうやって調べるのかと言えば、ゲーム雑誌。ありの少年は「ゲームファンマガジン」なるゲーム雑誌を購読していて、ゲームが進むと部屋の本棚に最新号が追加。調べると挑戦の攻略に有用な裏ワザといった情報を得られるのだ。こういった当時ならではのゲームの攻略法というものを、疑似的な体験として本作は落とし込んでいる。

 雑誌自体の中身も非常に“それっぽく”作られている。発売間近の新作や裏ワザをテンションの高い文体で紹介したり、話題作がレビューされていたり、読者の疑問にお答えするQ&Aコーナーがあったり、最後のページには編集長の近況報告的なコメントが載っていたりなどだ。当時を知る人なら、ニヤニヤ不可避なのは想像に難くない。

 それだけに限らず、本編の進行と同時に年代が移ると、編集長が退社や異動によって交代したり、期待の新作が延期を繰り返すといった展開も起きる。まさに「そこまでやるか!」と言いたくなる再現ぶりで、リアルタイム世代ほど「そうそう!」となってしまうこと請け合いだ。登場する編集長や編集者などが『ゲームセンターCX』本編の歴代アシスタントディレクター(AD)ご本人であるのも見どころである。

 ありの少年との雑談も情報収集の手段のひとつで、雑誌同様に当時らしさを描いている。“名人”なるスターが出てきたとか、必殺技でゲームを攻略していく漫画が話題になっているといった会話がその一例だ。ピンと来る人ならばピンと来ただろう。ピンと来ずとも、ありの少年はツッコミを交えたとても楽しげな会話を繰り広げるので、単純に聞いているだけでも面白いものになっている。選択肢が現れることもあって、それに応じて固有の反応を見せてくれるのも必見である。

 ほかに挑戦を通して遊ぶゲームも、年が移ると同時にグラフィックが豪華になったり、ゲームそのものが大胆に変わってしまうといった“いかにもな”進化を見せる。また、『有野の挑戦状2』では、電話でありの少年の友人に連絡を取ってヒントを得たり、ゲーム販売店に足を運び、そのお店でしか遊べないゲームを遊ぶことも可能になっている。

 さすがに登場するゲームを実際に小遣いを貯めて買うようなイベントはなく、細かい部分は簡略化されているが、舞台となる時代での「テレビゲームを遊ぶ」という体験は忠実に再現。当時をリアルタイムで過ごした世代のノスタルジーをモーレツと言わんばかりに喚起させるものになっている。直撃世代でなくても、当時のテレビゲームを取りまく環境、その遊び方など疑似体験できるシミュレーターとしての魅力があり、「あのころのプレイヤーはどんな環境でゲームを遊んでいたのか?」を部分的ながら知れるのである。

 たしかに『ゲームセンターCX』がモチーフだが、実はそれを取り除いた裏にテレビゲーム黎明から成長期にかけての時代を体験できるシミュレーターとしての顔が隠されている。だからこそ『ゲームセンターCX』を知らない、見たことがない人でも前提知識なしで楽しめて唯一無二の体験が得られる。これこそが本作の魅力なのである。

 特にリアルタイム世代ほど、深々と刺さる作品であることは想像に難くないだろう。実際、その期待を裏切らないモーレツに懐かしい匂いがたんまりと詰まっている。あまりの強さに“イエスタデイ・ワンスモア”な状態になってしまう程度に。念のため、正気に戻れる匂いを発するものを近くに置いておくといいかもしれない。

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